私の名はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
2022年、
再びの新型コロナウィルス感染拡大。
しかも感染者数増加は、
これまでにない速度。
海外の試合は通常に戻りつつあるが
国内が元通りになるのはいつのことだろうか。
ピコン!
BDからの連絡だ。
『K、元気にやっていますか?』
ああ、とりあえずはな。
だが5人以上集まっての会食と下ネタは自粛だ。
キツイぜ。
『……後半は自業自得かもしれません。
今回の依頼はタップについてです。』
ん? タップだったら、
プロプレイヤーやタップメーカーに
聞くのが一番だろう?
『聞きたいのは、
タップの特徴や性能ではありません。
キューメーカーが完成時に取り付ける
タップについてです。』
つまり新品のキューに付いている
タップのことだな。
『メーカー標準装備のタップと
呼んでも良いでしょう。
それを調べて欲しいのです。』
壮大なテーマだな。
キューメーカー全体に渡る、幅広い調査だ。
『タップの良し悪しではありませんよ。
メーカーが選ぶタップとは何か、です。』
よかろう、オレはキュー探偵。
2022年最初の依頼、引き受けた!
******
キューにタップが無ければ、
玉を撞くことができず、
道具として成立しない。
よって新品のキューには、
タップが必ず取り付けられているもの。
メーカーやモデルにより、
装着されているタップは様々で、
その選択には必ず何らかの理由が存在する。
とはいえ、メーカーの思い入れや
こだわりが伝わるとは限らない。
入手するとすぐ他のタップに
交換してしまうプレイヤーがいるし、
コレクター向けの高価なキューは
そもそもプレーに使われない。
では、キューメーカーはどのような考えで
タップを選んでいるのだろうか?
タップ側から見た、
タップ選択パターンを紹介しよう。
******
まずは一枚革タップを
標準装備するキューメーカー。
量産メーカーでは、製造コストが重要な要素。
タップも安価かつ安定供給されるものを
選ばざるを得ない。
その点長期に渡り大量生産され、
低価格の一枚革タップは理想的だ。
また、積層タップ登場以前からキュー製作を
手掛けるベテラン少量生産メーカーは、
伝統的に一枚革タップにこだわる所が多い。
中には、タップをプレスしたり、
自前の「座」を足したりと、
ひと手間かけるメーカーや、オリジナルの
タップを標準装備するメーカーもある。
タップも含めて一本一本丁寧に
チューニングしているのが、
カスタムメーカーのカスタムたるゆえんだ。
では、タップの製品別に整理してゆくぞ。
******
◆プロフェッショナル/トライアングル/エルクマスター/トライアンフ
アメリカのTweeten Fiber社が製造する
一枚革タップシリーズ。
長年に渡り生産され、
安価かつ安定供給されている。
積層タップ登場以前は、
少量生産メーカーから大手メーカーまで、
標準装備タップとして
幅広く使われたブランドだ。
中でも多かったのが「ル・プロ」とも
呼ばれる『プロフェッショナル』と、
それよりやや硬い打感の『トライアングル』。
『トライアンフ』は知る人ぞ知るメーカー、
ダグ・ボークが採用していた。
ソフトな打感の『エルクマスター』は、
Brunswick社の『ブルーダイヤモンド』
(後述)と合わせ、実は多くの
スヌーカーキューで標準装備される、
いわゆる「ブルー系タップ」だ。
ちなみにポケットキューでは、
ロビンソンが使用していたぐらいしか
オレは知らん。
現在では、ハウスキューや低価格モデルの
タップというイメージが強いが、
一枚革ならではの打感や音にこだわる
少量生産メーカーが引き続き採用している。
例えばザンボッティは
ガスもバリーも『プロフェッショナル』、
サウスウェストの標準タップは
一貫して『トライアングル』だ。
しかし、今や積層タップを
標準装備としているヴァイキングでは、
『プロフェッショナル』をオプションで
指定すると追加料金を取られる。
時代は変わったと思わされるな。
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◆クラウン/マッチ/チャンピオン/ユーリカ/コンプリメ
フランスのChandivert BB社製の
一枚革タップ。
キャロム用キューでは
良く知られたメーカーだが、
ポケット用キューとしては高価なため、
注文時に指定すれば納品時に取り付けられる
オプション扱いが多かった。
オレが知る限りでは、
故レオナルド・ブラッドワースが
『チャンピオン』を標準装備していた程度。
現在ではジョスキューの
オプションで見られるだけだ。
同社の製品はタップ発祥の地、
フランス伝統の植物なめし革が原材料で、
上質な撞き味があるとオレは思うが、
最近は入手が難しいようだ。
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◆WB/スモウ/ブルー・ダイヤモンド
一枚革タップに適した、
良質な牛革の原皮が不足した
1990年代に登場したのが
ウォーターバッファロー(水牛)革。
水牛革が生息・または飼われている
主な地域が中国やインド、東南アジア
ということから、おそらく日本以外の
アジア諸国で生産されたか、
原材料をアメリカに輸入して
製作されたタップと思われる。
良く知られるのは『WB』と『スモウ』だが、
Brunswick社の『ブルーダイヤモンド』も
この革を使用している。
『WB』はラス・エスピリチュが
標準装備しており、そのタップの厚みに
見覚えがあるプレイヤーもいるはずだ。
『スモウ』を標準装備していたのが
マイク・ベンダーやデーヴ・キケル。
1996年にオレがデーヴに初めて会った際、
「日本人ならスモウタップは知っているな?」
と聞かれたのが、
そのタップを知ったきっかけだった。
もちろん、
「知らん」としか答えられなかった(苦笑)。
おそらく『モーリ』が評判となり、
「日本製=高品質タップ」という
イメージから付けられたネーミングだろう。
タップの製品名に
日本語を用いた草分けでもあるな。
******
◆カスタム/ヴィンテージ
メーカーによっては、
市販のタップではなく自社ブランドの
特製タップを標準装備しているところがある。
その代表がタッド。
しかも、タッドタップは
2個セットで別売りもしている。
ちなみに1枚革で座が別パーツとして
付属しているものと、
2枚革貼り合わせのものがある。
意外と知られていないのが、
リチャード・ブラック。
こちらも古くから特製タップを付けていたが、
標準装備のみでタップの市販はせず、
リペアやメンテナンスで戻ってきた
キューのみ特製タップに交換していた。
つまりタップも含め、
第三者の手出し無用という点において、
プレイヤーとキューメーカーの
究極のパートナーシップといえるだろう。
また、これといった標準タップを持たず、
古いタップを使っていたのが、
故デニス・ディックマン。
キャロム・プレイヤーでもあった彼は、
良質な牛革で作られた
ヴィンテージタップを数多く保有しており、
その中から選んで取り付けていた。
今となってはどのようなタップ選びの
基準があったのかは知る由もないが、
シャフトやバットも含めた、
キューの特性におけるトータル
コーディネーションを考えていたに違いない。
******
一枚革タップを語るだけで、
やたら文字数を費やした。
現在主流の、積層タップを標準装備する
キューメーカーについては次回報告しよう。
2022年もよろしくな、BD!
…………
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