「ビリヤード珍品コレクター」の
I氏(あいし)が所蔵している、
約半世紀前の月刊紙
『日本ビリヤード新聞』から、
当時のビリヤード事情を読み解く
企画の第6回。
今回採り上げるのは
昭和44年(1969年)2月号(第46号)。
ビリヤード用品の
「メンテナンス企画」に注目します。
ところどころ現代とは異なる
メンテナンス手法や用語が登場します。
懐かしさを覚える方もいるかもしれません。
…………
I氏・記:
ビリヤードをこよなく愛する皆様、こんにちは。今回は53年前の2月のビリヤード・ニュースを紹介させていただきます。
上の画像は、当方が所有している『日本ビリヤード新聞』昭和44年(1969年)2月号(第46号)の記事です。その内容は、キュー、タップ、ボール、テーブルなどのビリヤード用品のメンテナンスに関するものです。
『日本ビリヤード新聞』の紙面構成は、試合の結果・解説の記事やルール・戦術に関するコラム等が中心で、ビリヤード用品をテーマにした記事は意外と少ないです。今回は、約半世紀前のビリヤードグッズのメンテナンス方法を紹介しましょう。
まず、タップのつけ方については次のような解説をしています(原文ママ、以下同じ):
<タップを上手につけるコツ>
◇底面は目のこまかいペーパで平になる様にこする
◇先角に以前のニカワ等が少しでも残っていると新しくつけてもすぐ取れて了う。
(古いメンダインは熱布でよくしめしてふき取る)。
◇先角面を平らにさせてよく乾燥させておく。
先角中央面は少しくぼんでいる事その部分が逆に出張っていたりするとタップはつきません。この場合はナイフで中心部の木を少しけづり取る。
タップと先角の間は右の図の様になる。
◇中心部が真空になると外れない。
◇メンダインはタップと角の両方につけ充分しめらせこすり合せてからつける。
◇真空にする為に下に向けて真直にトントンと二度程床に向って落下させる。
◇よく乾いたら余分な皮の部分をナイフでけずり取る。
◇ペーパーでよく整理して斜線の部分をしめらせ乾布でこする。
上部をヤスリ又はペーパーでこんもりと山がたにする。
ボンドの場合タップ面、角面の接着剤が充分乾いた頃を見計り乾燥一歩手前で合わせるとよくつく。仕上げはメンダインと同様。
この記事では、画像下のイラストにあるように、タップを接着した後にタップをキューで机の上などに垂直に押し付けて、タップのはみ出た部分をナイフで上から下に削ぎ落とすように切り取る方法を推奨しています。
また、現在ではいわゆる瞬間接着剤のような、扱いやすくて接着力の強い接着剤が普及していますのでタップをつけるのは比較的簡単かもしれませんが、この当時は強力な接着剤も少なかったようで、プレー中にタップが“飛ぶ”ことも多々あったようです。
ちなみに文中の「メンダイン」とはイギリスで開発された万能接着剤のことですが、当時の日本では接着剤全般を表す一般名詞(通称)のように使われていたようです。
…………
次に、ビリヤードのボールについては次のようなメンテナンスが紹介されています:
<玉突用附属部品の手入のこと>
玉(象牙)
玉がよごれていてはラシヤをきれいにしても同じ事です。
玉を突く時はいつもきれいに手入された玉でプレイしましょう。
玉にチョークの汚れが点々と附いています。これはグランド上のラシヤの汚れの最大原因の一つです。しめした布で汚れた部分のみふき取ります。(全体に濡れた布を当てる事は禁物) その後よく乾いたやわらかい布で(ウールを使用する場合が多い)よくくるみ込んで力を入れてみがきます。
※赤玉はぬれた布ではふかぬ事。
玉(人造)
人造玉の場合は洗ザイを使用しても後充分にふき取って有れば差しつかえ無い。
…………
また、別の記事ではビリヤード用品にまつわるトラブルを病気の診断のように説明しているのですが、例えば以下のような“診断”があります:
【病名】 (玉がよろける)
【考えられる主な原因】 玉の変形原因がほとんどの場合
【治療法】 至急玉磨きに入院の事
当時のキャロム競技では、象牙のボールが多用されていました。象牙は天然由来の素材であるため、どうしても経年変化のためにゆがみが生じて、まっすぐ転がらなくなります。そのため、象牙のボールの磨きやけずりなどの調整を行う「玉クリ屋」という職人さんがいました。
ちなみに、象牙のボールに水分は禁物で、なるべく濡らさずに汚れを取っていました(特に赤いボールは染料で染めているため、すぐに色が落ちてしまいます)。
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また、ビリヤード用品の一つとして天花粉(てんかふん)が取り上げられています:
天花粉
これはキューの手入が良く出来ていれば少くて済みます。
天花粉の使用量が多くなると玉台のクッション等が非常によごれが目立つ状態となり品が良くないものです。
天花粉入れの容器の位置は玉台の高さと同じくらいの所に置く様に、あまり低い所に置くとお客様がほうり込む傾向があり、まわりに飛び散って室内が汚れやすい様です。
天花粉とはキカラスウリの根からとったデンプンで、日常生活ではあせもの予防としてベビーパウダーのように使われていたものですが、当時のビリヤード場ではキューのすべりをよくするために常備されていることが多かったようです。もっとも、ビリヤード専用のパウダーは今でも市販されていますが、テーブルが汚れることやグローブの普及で昔ほどは見かけなくなりましたね……。
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最後に、ビリヤードテーブルの当時のメンテナンス方法を紹介しましょう:
<知っている様で案外知られていない事>
玉突台の周辺の掃除は済みましたか?台の足まわりのほこり等はきれいにぬぐい去られていますか。
最近、玉突台は据えて有るが、その器具の手入が一向に出来てない場面によく出会います
知っている様で知られてない事も案外多いものです。
この機会にもう一度初歩の玉台の手入とその附属品の手入を学んでみましょう。
まず最初に……玉突台の周囲の清掃が済んでから台のカバーを外します。
ラシヤのブラシ掛けは矢印の方向にはきます。たいていの場合ラシヤの織目は窓側に向けて張って有ります。
クッションラシヤも同じ方向に張って有ります。
クッションラシヤを先に→の方向に向ってブラッシングして次にグラウンドを矢印の方向に掃きます。
はき集めたほこりは電気掃除器以外は窓ぎわの端の穴から取ります。穴のまわりは雑布でよくはたき取ります。
ラシヤの毛がけば立っている時、雨天でラシヤに湿気の多い時など玉ころびが悪いのでアイロン掛けをします。
アイロンの流れは必ずラシヤの織目にそってかけます。
約半世紀前はビリヤード場の空調や冷暖房設備も不十分でしたので、テーブルの設置やラシャの維持にも苦労がたえなかったようです。また、当時のラシャも現在と比べれば品質が落ちるもので、必要に応じてアイロンがけをしていました(なお、スヌーカーではナップとよばれる“芝目”をラシャにつくりますので、その維持のために定期的にアイロンをかけています)。
また、ビリヤード用品にまつわるトラブル診断の記事では、次のような“症例”も紹介されています:
【病名】 (玉のころびが悪い)
【考えられる主な原因】 ラシヤに湿気が多い時、特に梅雨時
【治療法】 乾燥用ランプ又はコンロを台の下に使用、アイロンかけ
現在のキャロムテーブルでは、ラシャ面にヒーターが内蔵されていることがほとんどですが、この時代は夏場でもテーブルの下に熱源をおいて、テーブルを温めることがあったのです。
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現在では、ビリヤード用品はものすごいスピードで進化しています。以前にビリヤードをしていた方が、しばらくのブランクの後に久しぶりにビリヤード場に入ったら、以前と用具が変っていて驚いた……ということもあるようです。
またメンテナンスに関しても、約半世紀前に比べれば非常に楽になったと言えるのではないでしょうか。そのため我々プレイヤーはどこに行っても、比較的均一のコンディションで気持ちよくプレーできることが多いです。
これもビリヤード用品メーカー各位の日々の研究開発や、ビリヤード業界を支える関係者の皆様の努力の結晶と言えるでしょう。このような環境に感謝して、I氏は今日もプレーしたいと思います。
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I氏、ありがとうございました。
また来月、約半世紀前の3月の
日本ビリヤード界のニュースを
解説していただきます。
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※シリーズ・日本ビリヤード新聞の
過去記事はこちら
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