〈BD〉「キュー尻フェチの妄想~バットエンド&ラバー~前編」――Detective “K” season7 episode 05 

 

私の名はDetective K。

 

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

2022年5月。

ゴールデンウィークが過ぎ、

世界情勢に押されてコロナ禍は

どこかへ行ってしまったのか?

 

どさくさ紛れに世の中が

正常化している気がするな。

おかげで市街地や行楽地は黒山の人だかりだ。

 

ピコン!

 

BDからの連絡だ。

 

『K、スーパービリヤードエキスポには

行かなかったようですね。』

 

ああ、行かなかった。

 

知り合いから

「会場内のどこにいる?」などと

メッセージが入っていたがな(苦笑)。

 

『まあ仕方ありません。

今回はキューの後ろ側についてです。』

 

いわゆるキュー尻のことだな。

 

『そうです。

プレイヤーを背後から見守る観客に

強く印象付けられるのは、キュー尻。

Kも“尻”については思い入れが深いはず。』

 

いやどちらかと言えば、おっ……。

 

『ストップ! 

個人的嗜好はこの際置いておきましょう。

キュー尻の構造や形態は様々。

それを調べて欲しいのです。』

 

……なるほど、

キュー尻フェチは世の中に多いからな。

 

よかろう、オレはキュー探偵。

その依頼、引き受けた!

 

******

 

キューにおけるバット後部、

グリップ部分から下を広い意味で

「キュー尻」と呼ぶ。

 

また狭い意味では、

キュー後部の保護と補強を目的とした

バットエンドキャップと、

ラバーバンパーのみを

「キュー尻」と呼称する。

 

広い意味の「キュー尻」は、

インレイなどによる

デザインのことを指す際に使われる。

 

それではテーマの幅が広すぎるので、

狭い意味の「キュー尻」について語ろう。

 

******

 

木工品であるキューは、

木口(こぐち)と呼ばれる

断面の強度や耐久性が問題となる。

 

キューで言えばバットの後端部。

ぶつけて割れたり、

乾燥してヒビが入ったり、

逆に水分を含んで膨らんだり

曲がったりする部分だ。

 

シャフト側はタップ、

そして先角が装着されていれば、

木口はおのずと保護されるので、

問題はバットの後端部。

 

そこには補強のため、

筒状またはキャップ状のパーツが

取り付けられるようになった。

 

これを「バットエンドキャップ」、

または単に「バットキャップ」と呼ぶ。

 

また、19世紀には、

ラバーバンパーはまだ一般的ではなく、

1960年代まで、一部のキューに装着される、

ある種のオプションパーツだった。

 

高級なモデルには、後端部に金属製の

プレートが装着されていたようだ。

 

古き良き時代のアメリカ、

相手プレイヤーのナイスショットに対し、

キュー尻で板張りの床を

「コツコツ」と叩く習慣は、

ラバーバンパーがないからこそ可能だったのだ。

 

 

まぁ、大切なキューであれば

キューラックに納めるか、

相手のプレー中は、

靴の甲に載せて持っていたはず。

 

よってバットキャップにバンパーが

なくとも大丈夫だったのだろう。

 

雑に扱われることが多いハウスキューの方が、

バンパー装着という点では先だったと言える。

 

こちらもバンパーレスデザイン。ブラッククリーク
こちらもバンパーレスデザイン。ブラッククリーク

 

******

 

標準的なデルリン樹脂のキュー尻。ポール・モッティ
標準的なデルリン樹脂のキュー尻。ポール・モッティ

 

やがて、バットエンドキャップは、

ウェイト調整を兼ねた金属ボルトで

取り付けられるようになる。

 

ちなみに、

このタイプは金属ボルトを抜いてしまうと、

バットキャップが外れてしまうので要注意だ。

 

アメリカ東海岸のバラブシュカやパーマーは、

割れにくいデルリン樹脂製で、

長さ1.5インチ(約3.81cm)の

バットエンドキャップを使用した。

 

これがスタンダードとなり、

1960年代末から多くのメーカーが

採用することになる。

 

とはいえ、デルリン樹脂は接着剤が効かず、

塗装も出来ないデメリットがあり、

ナイロン66やABSなど

様々な合成樹脂が使われた。

 

現在、クラシックなキューの要素と言えば、

4剣ハギにリネン糸巻、そして1.5インチの

バットキャップというのが「お約束」だ。

 

******

 

さて、1.5インチバットキャップが

キューの「型」となると、

「型破り」が出てくる。

 

その一つが長さの変化。

 

バットキャップを短くすると、

キュー尻のデザインバランスが変わり、

のびやかな印象になる。

 

ザンボッティに影響を受けたデザインながら、

1インチ(約2.54cm)のバットキャップを

採用したショーンがその良い例だ。

 

やや短くした樹脂キュー尻のショーン
やや短くした樹脂キュー尻のショーン

 

逆にバットキャップを長くすると、

キュー尻のデザイン可能部分が狭くなる。

 

一見窮屈なのだが、プレーに使われている

キューを後部から眺めると、

バットキャップの長さが際立ち、

独特の美しさを感じる。

 

その代表は何といってもタッド。

 

1980年代に製作された、極端に長い、

2.5インチ(約6.35cm)前後の

バットキャップを持つタッドを

探し求めるコレクターは多い。

 

故タッド・コハラによれば、

これはバット長を長くするための工夫であり、

現代の2インチ長エクステンションにも

通じるものがある。

 

ただし、それらのタッドは

全長58インチ前後で、

現代のレベルでは標準的な長さだ。

 

ちなみにバットキャップを長くするように

注文したのが、ハワイ在住の日系アメリカ人、

ブライアン・ハシモトだったことから、

「ブライアン・スペシャル」と呼ぶこともある。

 

ロングバットキャップのタッド
ロングバットキャップのタッド

 

しかし、単純に長さを変えただけではなく、

構造から変えたキューメーカーが登場する。

 

それが1970年代に製作を開始した

奇才キューメーカー、

ディヴィッド・ポール・カーセンブロック。

 

バットを製作する際、

素材の重さを考慮して組み合わせ、

キュー尻に入れる金属のウェイトボルトを

不要としたのだ。

 

キュー全体でのウェイトと重量バランスを

製作時から計算する設計は、

最後にウェイトボルトで

帳尻を合わせるよりも難しいが、

優れた撞き味を生み出す。

 

バットキャップは、

スタンダードな1.5インチに対して

約0.4インチ(1.02cm)と短くし、

金属ネジを使わずに接着することで、

重量バランスに与える影響を

最小限に留めたのも大きな特徴だ。

 

その結果、1980年代、

カーセンブロックと共同製作していた

故ジェリー・フランクリンが立ち上げた

サウスウェストは、

 

「その特性において、プレイヤーが

バラブシュカを差し置いて手にするキュー」

と当時言われた。

現在でもその人気は衰えていない。

 

またデザイン的にも、キュー尻のリングや

インレイを施すスペースを広く取れるため、

多くのフォロワーメーカーを生み出した。

 

現在ではこの短いバットキャップが主流だが、

ウェイトボルトがない構造は、

重さの微調整ができないデメリットがある。

 

そこで大半のメーカーは、

ウェイト調整用の金属ネジを後端部から

入れられる構造を採用している。

見た目は似ていても、

内部構造はメーカーにより様々なのだ。

 

短尻のパイオニア・サウスウェスト
短尻のパイオニア・サウスウェスト

 

******

 

スタンダードなキュー尻を語るだけで、

文字数を費やした。

 

さまざまなバットキャップの

バリエーションについて次回報告しよう。

 

引き続きよろしくな、BD!

 

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