国産牛革積層タップ、
『BIZEN TIP』(ビゼンタップ)。
2020年夏、まず先に
販売されましたが、
その前から開発研究が続けられてきた
キャロム用タップが遂に完成。
名前は『BIZEN TIP Ⅲ』。
7月1日に発売が始まります。
『Ⅲ』はポケット用と同じく牛革積層で、
「真空結合」製法で作られていますが、
ポケット用がブラックだったのに対し、
『Ⅲ』はブラウンで、
「往年の牛革一枚革タップ」にも
似たルックスです。
「キャロム用」と記されていますが、
「強靭な革タップ」を求める
ポケットプレイヤーからも
すでに注目を集めています。
名称:BIZEN TIP Ⅲ(ビゼンタップスリー)
タップ種別:牛革積層
積層枚数:8枚~9枚 ※入荷した革の状態によって変わります
寸法:※こちらも入荷した革の状態によって変わります(最適な高さに調整します)
硬度バリエーション:1種類(バリエーションなし) ※現在は大量注文に限り個別対応できます。
価格:3,630円(税込)
発売日:7月1日(金)
購入:公式サイト / および販売協力ビリヤード場にて
契約プロ:鈴木剛、肥田緒里恵、肥田明(以上JPBF)、土方隼斗、東條紘典、平口結貴(以上JPBA)、
…………
さて今回は、
BIZEN開発者である苫野裕氏と
開発初期から監修者・テスターとして
関わってきた鈴木剛プロ(JPBF所属。
2010年『アジア大会』金メダリスト)に
ご登場いただき、
対談形式で『Ⅲ』開発秘話をお聞きします。
※取材協力:イナホビリヤード(東京・早稲田)
↑左:苫野氏、右:鈴木プロ
――順番としては、ポケットタップより先にキャロムタップ(『Ⅲ』)を作っていましたね。
苫野:はい、『Ⅲ』が先です。名前は「Ⅲ」ですけど、僕が一番最初に形にしたタップがこれです。商品化は僕ら製作チームの悲願でした。
――発売までの流れは?
苫野:以前にもお話したように、もともと「自分と周りの人達が使う分のタップが作れたらいいな」というところがBIZENのスタート地点です。土方隼斗プロに出会ったことでポケット用は一気に商品化に向かって動きました。鈴木プロにはその前にお会いしています。キャロム用タップはキャロムのプロの目で見ていただく必要があると思っていて、ふと思い浮かんだのが鈴木プロでした。共通の知人を介して『ルーツ』(※鈴木プロのお店)に会いに行きました。
鈴木:僕は僕で長い間「自分の理想に近いタップがない。何を使えばいいんだろう」と思っていたので、これも何かの縁かもしれないと思い、喜んでお話をうかがいました。
――その初面談は何年前ですか?
苫野:4年前の今ぐらいの季節(6月)です。その時よく覚えているのは、鈴木プロの目の前でサンプルタップの積層が剥がれたこと(笑)。
鈴木:(笑)そうでしたね。
苫野:その時点の選りすぐりの自信作を持って行ったのに剥がれたので、正直「終わった……」と(笑)。当時はまだその程度の接着クオリティーだったということです。でも、それがあったからより接着にこだわり、『真空結合』製法に繋がったので、今思えば良かったです。あの時剥がれてなかったら低い完成度のまま商品化していたかもしれない。あと、早い段階で鈴木プロに「ポテンシャルはすごく高いと思います」と言っていただけたことも覚えてます。
――鈴木プロは初期の試作タップをどう感じていましたか?
鈴木:すでに性能はすごく良くて、まさに高いポテンシャルを感じました。でも、商品としての安定感という部分や僕個人の好みという面で「100点か」と問われると、「まだ追求出来るところはあると思います」と。僕はタップ製作経験もないですし、牛革に出来ること出来ないことの境目もわからないですが、思いつくまま意見を述べさせてもらいました。それは、単純に昔の牛革タップを蘇らせること以上の熱意を苫野さんから感じたからでもあります。
――鈴木プロはキャリアの中で様々なタップをお使いになっていたと思います。
鈴木:今は豚革の積層タップが主流で、製品の安定感やメンテナンス性の面ではほぼ完成されていると思います。選手としては「替えが利く」ことが大事なので、長いこと豚革積層タップを使って来ました。数十年以上前は牛の一枚革のタップを使っている人が多かったですが、個体差があって当たり外れが激しいのが普通という時代。当たりのタップでも使ってるうちに横(タップ側面)が膨らむものが多く、メンテナンスが必須でした。今回僕は久しぶりに牛革タップを撞いて、「ああ、牛革ってこんな感じだったな」と昔の感触を思い出しました。
――商品化まで約4年。苫野さんと鈴木プロの間ではどんなやり取りが?
苫野:言ってしまうと、タップとしては早い時期にほとんど完成していました。でも、僕ら製作側としては鈴木プロの100点を取りに行きたかった4年と言いますか(笑)。
鈴木:僕は100点を出さないっていう4年でした(笑)。でも、練習はもちろん、試合も『Ⅲ』の試作品で出てました。平均点はとっくに超えてるので、試合で使うのも全く問題はなかったです。
――では、他に求めていたこととは?
鈴木:撞き味とか音とか感触とか、五感に訴えてくるところを大事にしていたんですけど、そのニュアンスをお伝えするのはすごく難しくて、上手く言葉に出来ない。でもちょっとだけ違うな……という期間が続いていました。例えば、さっき言ったような「豚革には出来るけど、牛革では出来るかどうかわからない」という部分です。僕は撞く時にブリッジ(左手)の親指の根本までキューを引くんですが、タップの側面が肌に触れた時にチクチクするのがイヤで。豚革タップは側面がボサボサになりにくいから気にならないんですが、繊維の長い牛革だと気になってしまう。もちろん今の『Ⅲ』はそこもクリアしています。
――そうこうしているうちに2020年にポケット用BIZENの販売がスタート。苫野さんはその製作販売とキャロム用タップの試作を並行して行っていたのですね。
苫野:はい、でも、基本は同じタップですし、キャロムタップの研究がポケットタップに還元された部分もあれば、その逆もありました。何が好きって僕は研究と試作が一番好きなんですよ。だから、鈴木プロのご意見はありがたかったですね。研究の原動力でした。
鈴木:作ることに関して僕は素人だから、僕の注文を「それは無理ですよ」で済ませちゃうことだって出来たと思うんですが、苫野さんはいつも「わかりました。やってみます」。そのバイタリティというか探究心はすごいと思います。
苫野:実はこの4年で2回、僕らの中では終わらせに行った時があったんです。「これ以上のものはもう出来ない。ここがゴールだ」と感じて。
鈴木:そのメッセージを読んでテストしたんですけど、正直に伝えました。「もう一歩行ける気がします」「僕にとっては100点ではないです」と。あの時はごめんなさい(笑)。
苫野:いえいえ(笑)。それでまたすぐ試作に取り掛かって……。今思うと鈴木プロに上手く導かれて、限界と思っていた所をまた乗り越えて、より良い物が作れたと思います。
――鈴木プロから「100点」が出たのはいつですか?
苫野:今年4月でした。「え、終わり? まだあるでしょう?」って信じられなくて(笑)。
鈴木:(笑)最後に送られてきたタップは、五感レベルで評価する部分も完全に満たしてくれたんです。具体的にどう製法を変えたのかは聞いてないんですが、撞いた瞬間に「あ、これだ」と、足りないパズルのピースがはまった感じがしました。
苫野:一発のプレスの差だけなんです、その前のものとの違いは。ギリギリまでもがいてそこに行き着きました。
――ちなみに、苫野さんが試作品を送る時や、鈴木プロがフィードバックする時に、テーマや改良ポイントなどは双方から事細かに伝えていたんですか?
苫野:いや、お互いにそんなにしっかり言葉で伝えたことはないです。タップが手紙代わりというか、タップで語っていたというか(笑)。でも、今こうやってお話させていただくと、お互いに同じようなことを感じていたんだなと思います。
鈴木:どんなタップを作りたいかは言葉では聞いてなかったです。そこを念頭に置くと純粋な評価が出来ないと思ったので。だから、ずっと僕は自分の感覚に基づいた意見……いや、ダメ出しばっかりしてました(笑)。でも、最終的に僕が使いたいものと、苫野さんが作りたいものがこうやって重なったことは奇跡的だなと思います。
――『Ⅲ』はポケット用とは明らかに色が違いますし、他にも仕様上の違いがありますね。
苫野:染色はしていません。ナチュラルな牛革(なめし革)の色です。自分の出身地である岡山の備前焼の色をしているから、これを「BIZEN」と名付けました。ただあまりにも強いタップだったんで、ポケット用はそこを調整して色も変えました。
――積層枚数と高さは「入ってきた革による」というのも面白いですね。
苫野:その時入荷した革の状態によって調整しながら作っています。だから常に同じ枚数・高さではありません。そのため多少のばらつきはありますが、明確な基準があるので性能的にはほぼ毎回同じものを提供出来ます。
――価格は3,630円(税込)と高価ですが、それだけ材料費・製作コスト・製作時間がかかると?
苫野:その通りです。
鈴木:僕はむしろ安いと感じています。もちろん他に安価で性能のいいタップもあると思います。2,000円前後のタップがたくさんある中で、3,000円を超えるタップはたしかに珍しい。だけど、僕は差額の1,000円を払うだけの価値がこの『Ⅲ』にはあると思います。「1,000円でこれだけ違うなら安いでしょう」と。
――鈴木プロの思う『Ⅲ』の特徴や良さとは?
鈴木:繊維が長い牛革だからこその「食い付きの良さ」と、それと一見相反する要素である「球離れの良さ」。この両立といいますか、絶妙なバランスが最大の特徴です。牛革の特性を最大限に活かした製法に秘密があるのだと思いますが、「芯のあるタップ」って言えばいいのかな。タップの中に芯が詰まってる感じがします。そして、先ほど言ったように五感に訴えるものが素晴らしい。撞いていて気持ちのいいタップです。
――「気持ちよさ」がキーワードですね。
鈴木:そうです。ビリヤードって難しいものですし、特にスリークッションは失敗するのが普通です。ショットが上手く行くかどうかは様々な要素の組み合わせで決まることで、そのうちタップが占める割合はもしかしたら大きくないかもしれない。良いタップなら全部当たるとか全部入るなんてことはありません。でも、極論ですが、失敗したとしても撞いて楽しければ、撞いて気持ち良ければいいんだと思います。なんならタップを選ぶ時に、性能より気持ちよさを優先したっていい。BIZEN『Ⅲ』はもちろん性能も高いですが、撞き味や音といった五感に訴えかけて来るものは本当に素晴らしいものがあります。だから一度試してほしい。
苫野:僕ら製作側はタップを世に出したら、それはもうお客さんのものという考えなので、評価は使ってくださる皆さんにお任せします。ただ、多くの人に「こういうタップもあるんだ」「BIZENが作りたかった牛革タップはこれなんだ」ということを体験してもらえたら嬉しいです。そして、鈴木プロとのやり取り全てが財産になっているので、今後も試作は続けていきますし、サンプルを送らせていただきます(笑)。
鈴木:きっと終わりはないんだろうと僕もなんとなく感じていました(笑)。タップの可能性を追求し続ける熱意ある方々とチームを組めて光栄です。これからもよろしくお願いします。
(了)
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