突然の悲報にプール
(ポケットビリヤード)界が
揺れました。
9月5日、
オセアニアNo.1女子プレイヤーの
モルディ・カセンチャヤナン
(Molrudee Kasemchaiyanan)が
亡くなりました。
カセンチャヤナンは7月の
女子9ボールプールに
ニュージーランド代表として出場。
それが最後の試合となりました。
WPA(世界プールビリヤード連盟)の
ニュースリリースによると、
大会期間中に体調不良を覚えていた
カセンチャヤナンは
帰国してから検査を受け、
そこで脳腫瘍であることが明らかに。
しかし、もはや処置を施すことも
出来ないほど病状が悪化していたとのこと。
そのまま彼女は旅立ってしまいました。
…………
いつも笑顔を絶やさず朗らかで、
誰にも優しくて親切。
ニュージーランドのみならず
世界中のプールプレイヤー、
ビリヤードファン、
関係者と打ち解けて、
皆から愛されていたカセンチャヤナン。
日本にも『全日本選手権』出場のため、
何度か訪れていました。
↑1枚目は2018年全日本選手権、2枚目は2019年USオープン
親交のあった人達は皆、
彼女の早すぎる死を悼み、
哀悼の意を表しています。
2019年にニュージーランドに滞在し、
現地ビリヤード事情をBDに
寄稿してくださった岡﨑智也さんも、
カセンチャヤナンと交流を深めた一人。
当時は大学生で現在は会社員の
岡﨑さんに、カセンチャヤナンとの
思い出を教えていただきました。
…………
岡﨑智也・記:
「ニュージーランド(以下、NZ)で一番お世話になった人は?」と質問されたとき、様々な人の顔が思い浮かびます。
ホームステイしていたときのホストファミリー、シェアハウスさせていただいた家族、仕事先の同僚……。
そのような人々と一緒に必ず思い出されるのがモルディ・カセンチャヤナン、MKです。
彼女と初めて言葉を交わしたのは2018年の『全日本選手権』。
既にNZに行くことを決めていた自分は、共通の知人の紹介で彼女に挨拶させてもらうことになっていました。緊張してうまく話せなかった自分に、彼女がやさしく笑いかけて「NZでもよろしくね!」と明るく返してくれたことは今でも覚えています。
そしてその言葉通り、翌年自分がNZに渡ってから彼女は本当に良くしてくれました。試合でドリンクやフードをふるまってくれたこと。近いからと練習帰りに車で家まで送ってくれたこと。BCA(リーグ戦)でチームメンバーに誘ってくれたこと。
細かなエピソードを数えるときりがないので、彼女とのエピソードをひとつだけ紹介させてください。
↑3枚目はBCAリーグにて。左端が岡﨑さん
NZで規模の大きな公式戦といえば、『NZオープン』と『NZ選手権』です。
ナインボールのみの『NZオープン』と比べて『NZ選手権』は、エイトボール・ナインボール・テンボールの種目ごとにそれぞれ別日程で開催される、ビッグスケールな試合。
そのような全国規模の試合ということもあり、ナインボールとテンボールは自分が住んでいたNZ北島のビリヤード場『Pool&Blues』で、エイトボールは別の島である南島のビリヤード場『Bowey’s』での開催となりました。
南島で開催されるエイトボールの『NZ選手権』に出るためには、現地までの往復の飛行機代や宿代など、ざっと数万円は確実に飛んでいくことになります。
当時アルバイトをしていたものの毎月の生活費はギリギリ。貯金などする余裕もなかった自分にとってはビリヤードのための遠征など夢のまた夢。今回はあきらめるしかないと考えていたところに、彼女からメッセージが来ました。
「仕事の休みは取れる?」
「飛行機の予約、しておいたから!」
「向こうでは友達の家に一緒に泊まることになってるわ」
突然の展開についていけないまま、いくら払えばいいの? と聞いたら
「気にしないで(笑)。私からのプレゼントよ!」
とはぐらかされてしまいました。
こうして試合に出られることになり現地のプレイヤーとの交流や観光を楽しんだわけですが、それは過去の記事でご紹介したとおり(当時の記事はこちら)
彼女の申し出がなければそんな経験はできませんでした。機会をくれた彼女には今でも感謝しています。
とはいえ、そのような豪華な「プレゼント」をもらってこちらもそのままというわけにはいきません。彼女がほぼ毎年『全日本選手権』で来日するのは知っていたので、次に彼女が日本に来たときには、こちらも「プレゼント」を用意しておこうと考えていました。
しかし私が日本に帰国後、新型コロナウイルスにより状況は一変。私達は一度も顔を合わせることなく、このような別れとなってしまいました。
彼女の周囲には常に老若男女様々な人が集っていました。
複数回の国内タイトルやオセアニア地域のタイトルを有し、女子ながら男子の試合にも積極的に参戦して好成績を残すほどにハイレベルなビリヤードプレイヤーとして尊敬されていたということもその理由としては十分でしょう。
一方で、「BOSS」と評されるような姉御肌な性格、誰とでも分け隔てなく笑顔で接する彼女の姿勢こそが周囲の人々から慕われる所以でもあったのだと思います。
彼女に一度「なぜ自分にここまでしてくれるのか」と尋ねたことがあります。
彼女から見れば自分は「海外から来て間もないただの外国人」。言葉もままならない、そんな人間になぜそこまで尽くしてくれるのか。
彼女の答えはいたってシンプルでした。
「だって、あなたはビリヤードファミリーでしょ」
「仲間が困っているときは助けるものよ」
Thank you, MK.
Rest In Love and Peace.
…………
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