私の名はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
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さて、今回は
『ハギ数の偶数・奇数』後編。
※前編はコチラ
「なぜハギの数にはバリエーションがある?」
をテーマに、
「ハギの本数が多ければ高級」
と考えたキューメーカーは、
ハギ数をどれだけ増やしたのか?
を解説したい。
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前回、ハギの数は
「2」→「4」→「8」→「6」→「5」
と進化したことを解説した。
また、「4」を間引く形で「3」が、
工作機械の高度化(単に角度を
分数で考えれば済む事だが)により、
360を割り切れない「7」が
登場したことも説明した。
では、「9」以上のハギはどうなのか?
世間では明確な定義がないが、
ここでは「9」以上を
「多ハギ」として解説しよう。
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さて、数の他に挙げられるハギの要素は、
「長短」とハギ同士の「重なり」。
ハギの数を増やし、
かつデザイン的なバランスを取るため、
隣り合うハギの長さを変えた
デザインが生まれた。
「ハギの数を増やすには、大きさを変えれば良い」
という発想だ。
ジナキューが考案した、
ハギを「インレイ」で入れる
いわゆる「インレイハギ」技法による
「長短8剣」は、現在メーカー問わず
好んで用いられる形式。
これに触発されて、
「剣ハギ」技法で製作されたのが、
ザンボッティの「長短8剣」だ。
また、前回追悼記事を掲載した
故ビル・シックが、1990年代初めに
「長短12剣」を製作している。
それは、長4剣+短8剣という
変則的なもので、
【長短短長短短……】という
配列になっていた。
オレ自身、長6剣+短6剣の
キューに出会ったことがなく、
おそらく「長短」の限界が
ここなのだろう。
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一方、ハギを入れる製作工程で、
先に入れた剣と「一部が重なる」ように
後から剣を入れる「子持ちハギ」と
呼ばれる形式が生まれた。
最初に入れたハギを、
次の工程でその一部を削り、
さらにハギを入れる手法だ。
この考えはハギにとって
非常に重要な進歩で
「ハギを入れるスペースがないなら、
一部重なっても構わない」
という考えが生まれたことを意味する。
4剣ハギをベースにした子持ち8剣ハギは、
1980年代にヘルムステッターの
上級モデルに用いられたことで、
日本のプレイヤーにはなじみが深い。
そして、1990年代には、
5剣を生み出したオメガ/dpkから
スピンアウトしたマイク・ベンダーが
「子持ち10剣」を製作する。
子持ちハギは10剣が限界と思うが、
6剣ハギベースの子持ち12剣ハギが
存在していればそれが限界だろう。
あいにくオレは見たことがないがな。
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しかし、
「ハギが一部重なっても構わない」なら、
「ハギの中にハギを入れても構わない」はず。
そうして登場したのが「重ねハギ」。
英語では「リカットポイント」と
呼ばれる形式だ。
これは製作時、種板(ベニヤ)を使わず、
一旦剣ハギを入れた後に荒削りして、
さらにハギを入れる技法。
手間はかかるがハギの数として
カウントされない。
見た目は種板を使ったハギと大差なく、
製作技法が違うだけだからだ。
ところが、
「ハギがそこにあるのならカウントする」
メーカーがある。
その元祖がサウスウェスト。
長短6剣のうち、
長剣のみ「重ねハギ」とした
シンプルなデザインなのだが、
人気メーカーだけにわずかな差でも
プレイヤーやコレクターからすれば大違い。
「9剣ハギ」は高級モデルの
代名詞となっている。
このサウスウェスト流の
数え方を用いると、
【剣ハギ数=最も外側のハギ数+重ねハギ数×リカット回数】
となる。
例えば、一見4剣でも
2回リカットしていれば、
4剣+4剣×2回=12剣ハギ、となる。
この考えをフォローするのが、
上海で製作されているゼン・キュー。
高級モデルでは、
6剣+6剣×リカット3回=24剣ハギだ。
今のところこれが最多だろう。
しかし、単にインレイハギを重ねる、
あるいは剣ハギの中に
「インレイハギ」を入れたキューでは、
「重ねハギ」と認識されず、
カウントされないケースもある。
結局のところメーカーやコレクターの
主観で数え方が異なるのだな。
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やがて、バット前半部のハギは
限界があると見たのか、
グリップ部を境に上下対称となるよう、
ハギをキュー尻にも入れる「上下ハギ」が
1990年前後に生み出された。
本来「キュー尻」にハギは
必要ないのだが、ハギの数を
増やすためにデザイン領域を
拡張したといっても良いだろう。
約束としては、
バランスを取るため上下は必ず
同じハギの形式と本数にすること。
例えば上が長短6剣ならば
下も長短6剣となる。
しかし、ややこしい点が一つある。
それは上下も重ねハギも
まとめて数えることだ。
ハギの数を聞いただけでは、
全体のデザインを想像するのは難しい。
しかしこれが「多ハギ」の神髄。
数を聞いて、「どんなキュー?」と
実物を見たくなる事が重要なのだ。
前述のゼン・キューには、
上24剣+下24剣が存在し、
合算して「48剣ハギ」と呼んでいる。
つまり
(長短6剣+重ねハギ6剣×リカット3回)×上下2回
という構成だ。
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多ハギは果たしてどこまで増やせるのか?
60剣や80剣モデルは、
限界に挑戦するキューメーカーの
有無次第だが、木材同士を結合し、
強度を高めることを目的とした
「ハギ」本来の役割からすれば限界がある。
貴重な木材を削り落とすロスが増え、
ハギが細くなるにつれ、
加工が難しくなり、
強度も弱くなるからだ。
とはいえハギの進化は、
数を増やすだけでない。
これまでになかった発想のデザインが
生まれることを期待しているぜ。
さて、2022年もあとわずか。
来年も依頼を待っているぜ、BD!
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