CBS NEWS(アメリカ)の
『60 MINUTES』という番組で、
アメリカNo.1プールプレイヤーの
シェーン・バンボーニングが
特集されました(13分)。
本放送がいつだったのかは不明ですが、
12月5日にネットでもアーカイブが
見られるようになりました。
長い日数をかけて作られた特集で、
スポーツジャーナリスト/作家の
J・ベルトハイムが、
数回にわたってバンボーニングと
言葉を交わし、取材班は
大会遠征にも同行していました。
バンボーニングという当事者=
現代プール競技界のアイコンと、
ベルトハイムという傍観者=
競技ビリヤードには詳しくない
スポーツジャーナリストという
2つのフィルターを通すことで、
「プールという競技の現状」や
「プロスポーツ化への歩み」
(マッチルームが目指す形)が、
近視眼的にも包括的にも
把握できるようになっているところが
この番組のミソです。
英語での放送ですが、
競技ビリヤードを愛する人には
ぜひ見ていただきたいです。
長さは約13分。↓
※余談ですが、映像の終わりの方の
SVBジュニア会場(USオープン会場)の
シーンで、一瞬ちらっと
照屋勝司プロが映っています。
※埋め込んでいる動画が
見られない場合や、
ビューワーが見づらい場合は
こちらに飛んでください。
※急にアーカイブが視聴不可に
なることも考えられますので
ご視聴はお早めに。
…………
以下、内容の書き起こしを残しておきます。
誤訳や事実誤認もあるとは思いますが、
参考になれば幸いです。
…………
『World Number 1 Pool Player Shane Van Boening : The 60 Minutes Interview』
サウスダコタ州のシェーン・バンボーニングが、新時代を築こうとしているプール(ポケットビリヤード)でアメリカで最も偉大な選手の一人になることについて、ジョン・ベルトハイム(スポーツジャーナリスト/作家)に語っています。
…………
【スタジオにて】
ベルトハイム(スポーツジャーナリスト):600年の歴史を持つ競技は存亡の機を幾度も乗り越えてきたのか? プールにおいてその答えは「ノー」だ。
その競技の名は賭け金を「プール」することに由来し、その習俗によってビリヤードには神秘的な雰囲気が漂う。
賭けとビリヤードは、キューとチョークのように切っても切り離せない関係なのだ。しかし、そのことは功罪両面を併せ持つ。業界の大部分が闇、そのような状況でこの競技が最高の成長を遂げるにはどのような方策があるのか。
サウスダコタ州ラピッドシティ出身のシェーン・バンボーニング。39歳にしてギャンブルに目もくれない彼は、間違いなくアメリカ史上最高のビリヤードプレイヤーであり、2022年に世界ランク1位となった。その一方で彼には聴覚障害がある。
TVではなくバーや地下室で人気のビリヤードを正式なプロスポーツへ――「サウスダコタキッド」はその一助となるか。謎を探るべく、密着取材した。
…………
【ダービーシティクラシック会場】
ナレーション:ある日にはまた別のカジノホテルへ――。シェーン・バンボーニングは1年のうち300日を、プロプール選手としてツアーに費やしている。
そして今日(2021年1月)、アメリカンプール界随一の試合、『ダービーシティクラシック』に彼は参戦していた。
ルイビル近郊で毎年1月に開催されるこの試合では、二分されるビリヤード界が鮮明に描き出される。階下では世界中のトッププレイヤーが集い、台上での戦いを繰り広げる。彼らは様々な試合に参戦し、1日12時間、9日間に渡って戦い抜く。この優勝者(J・フィラー。※ビッグフット10ボール部門優勝)は満面の笑みで、賞金16,000ドルを受け取った。
一方で、階上は別世界だ。マネーマッチの場が立ち、プロもアマチュアもファンも非公式の戦いを求めて一堂に会する、これがビリヤードの刺激的な一面だ。
ここには「タバコ禁止、ギャンブル禁止」の看板がある。たしかに、タバコを吸う者は見かけなかった。だが夜が明けるまで、数十ドル、時には数百、数千ドルの札束(いわゆる“デカいヤツ”)が飛び交う。
階上で見かけなかったプレイヤーのうちの1人、バンボーニングは、破壊力抜群のブレイクショットで名を知られている。
バンボーニングは『USオープン』を5度制覇し、「2010年代のベストプレイヤー」の座に輝いた。生まれながらにして聴覚障害を持つ彼は補聴器を着用し、プレーをより難しくするこの障害についての疑問の声を封じ込めている。
SVB:(聴覚障害で補聴器を使っていることは)実は大きなアドバンテージなんだ。
ベルトハイム:というと?
SVB:試合の時は音をシャットダウンできるからね。
ベルトハイム:プレーしている間は補聴器を切っているのかい?
SVB:そう。USオープン初優勝の時は完全に切っていた。集中できていたね。
ベルトハイム:何も聞こえなかった?
SVB:全く。100%ゾーンに入っていた。
ナレーション:彼が最もゾーンに入っていたのは2018年、ビリヤード界での『ライダーカップ(ゴルフの欧米対抗戦)』にあたる『モスコーニカップ』で、アメリカチームを勝利に導いた時だ。
(モスコーニカップの上がり際映像挿入)
試合実況者:彼は攻めるつもりだ。
ナレーション:角度が付いたロングの1-9コンビネーションショット。ハイリスク・ハイリターンの緊張感溢れるショットでバンボーニングが試合を終わらせた。
試合実況者:素晴らしいショット! シェーン・バンボーニングとチームUSAが優勝だ! 信じられない幕切れだ!
ナレーション:あなたにこんなショットができるだろうか?
…………
【ラピッドシティ『ブレイクルーム ビリヤード』】
ナレーション:我々はアメリカのど真ん中、サウスダコタ州ラピッドシティにある、バンボーニングのビリヤード場へと向かった。
「球をポケットすることはビリヤードの醍醐味の半分に過ぎない」と彼は語る。次の球へのポジション、手球のコントロールもビリヤードの面白い要素だ。
SVB:ここに手球を止めて、そうすると2番をサイドに入れられる。(バンボーニングが撞く)それから……。
ベルトハイム:ちょっと待ってくれ、どうやったんだい?
SVB:真ん中ちょっと下を撞くだけだよ。
ベルトハイム:するとこうやって次の球に一直線ってわけだ。
SVB:そう。
ベルトハイム:幾何の世界に圧倒されるね。
SVB:僕は好きだよ。全部角度の問題なんだ。
ナレーション:バンボーニングが言うには、彼は台上のあらゆる配置の角度がわかるそうだ。1日10時間以上の練習、1年50万球撞いて得た、第六感だ。
SVB:パーフェクトなショットをしたい。そのためには何度も何度もやるしかないんだ。
ベルトハイム:きみはパーフェクトにできる?
SVB:いや。だから何年も練習している。
ナレーション:これがバンボーニングの本音だ。
彼の祖父でアーティスティックビリヤード選手のギャリー・ブルームバーグは、州間高速90号線沿いにビリヤード場をオープンした。
グレートプレーンズを横断するハスラーにとってはアクセス良好だったが、このビリヤード場は家族連れで訪れられる雰囲気の店だった。だから、バンボーニングは2歳の時にキューを持ち、学校帰りには毎日ビリヤード場に行った。プレーするためだけでなく、耳が聞こえないことを理由にいじめる同級生から逃れるために。
ベルトハイム:いじめはどうエスカレートしていったんだい?
SVB:最初は自分に向かって石を投げつけてきた。髪の毛にガムをつけてきたり。よく泣きながら家に帰ったよ。そしたら僕の気を紛らわすために母さんが聞くんだ。『ビリヤード行きたい?』って。
ベルトハイム:なぜそれが気を紛らわすことに?
SVB:ビリヤード場に入れば何が見える? みんなが楽しい時間を過ごしているだろう?
ナレーション:それだけではなかった。様々なストロークを考察できる驚異の能力が彼にはあった。バンボーニングは18歳になると遠征に出た。叔父と共にRV車に乗り込み、マネーゲームを求めて旅をした。
(映画『ハスラー』のワンシーン挿入)
ファスト・エディー・フェルソン(ポール・ニューマン):球を撞きに来たのかい、ファッツ?
ナレーション:もちろんだ。自信にあふれ、木の棒だけを片手に闇の世界を渡り歩く者、ハスラー。生まれ育った土地を捨てて賭け金で生きていく姿勢は、ポール・ニューマンの影響に限らず、長年に渡って美化されてきた。
今回取材をしているこのリポーター(ベルトハイム)もハスラーの世界に魅了され、それについての本を書いたこともある。しかし、バンボーニングの人生の中で、そのようなロマンあふれる生活は突然終わりを告げた。
SVB:その時はちょうどテネシーでプレーしていた。そこである男とマネーマッチをやっていたんだ。長いことプレーして、そいつが負けそうになっていた。するとそいつは手球を取って俺に向かって投げてきたのさ。
ベルトハイム:どこに当たったんだい?
SVB:ちょうど胸のど真ん中にね。
ベルトハイム:喧嘩上等じゃないか。
SVB:まあね。
ベルトハイム:どうしたんだい?
SVB:叔父に言ったんだ。もうやってられない。ロードはこりごりだ。危なすぎる、って。
…………
(『USオープン』の上がり際映像挿入)
試合実況者:タイトルまであと1球!
ナレーション:バンボーニングは表舞台で生きる道を選び、公式の試合で成績を残し始めた。ギャンブルで生計を立てていた頃に比べると収入は減ったが、バンボーニングはプロ生活を楽しんでいた。
ベルトハイム:ロードの生活を捨てることで、金銭的に影響が出るという不安は?
SVB:トッププレイヤーが稼げているのは知っていた。彼らにできるんだったら、自分もできると思った。
ナレーション:しかし、ビリヤードは一筋縄ではいかないスポーツだ。
(ダービーシティでのSVB vs J・ショウ戦のバンキング映像挿入)
試合実況者:さあ、2大巨頭のぶつかり合いだ。
ナレーション:バンボーニングに比肩する腕前のスコットランド人トッププレイヤー、ジェイソン・ショウに話を聞こう。今年の初め、ショウはヴァージニアのビリヤード場に5日間こもり、714球を連続で沈めて14-1の新記録を達成した。
(ショウのインタビューシーン挿入)
ショウ:台上で起こることは頭の中をめちゃくちゃにしてしまう。
ベルトハイム:つまり?
ショウ:例えばショットを見て、『何が起こったんだ?』って感じだ。毎日だよ。『なんでそこで球が止まるんだ?』とか『なんでその球が入るんだ』とか。ビリヤードの世界では日常茶飯事さ。何かおかしなことが起きるんだよ。
ベルトハイム:それは気分が上がること? それともムカつくこと?
ショウ:どちらもだ。心の中ではビリヤード台をひっくり返したくなる
ベルトハイム:実際にやったことは?
ショウ:ないね。何回かやろうと思ったけど。
ベルトハイム:普通の人はビリヤード場に来て、『どんなもんだい。6つ穴のあるただの長方形の台じゃないか』って言うよね。
ショウ:ああ、それで20分後に見たら台上には15個球が残ってる。1球も入れられないで、頭を掻きながら『簡単だと思ったんだけどな』ってね。違うんだよ。
(ダービーシティでのSVB vs J・ショウ戦の映像挿入)
ベルトハイム:ダービーシティでジェイソン・ショウと試合しているのを見たよ。
SVB:ジェイソン……誰だっけ?(笑)
ベルトハイム:(笑)彼はライバル?
SVB:そうだね。ここ数年は。良い選手だよ。これからも当たる機会はあるだろうね。
ベルトハイム:勝てそう?
SVB:まあね。でも、負けも受け入れなければいけない。そうじゃなかったらおかしくなってしまうから。
…………
【ブラックヒルズのパクトラ湖】
ベルトハイム:ここの氷は厚そう?
ナレーション:素晴らしい選手になるためにライバルを持つことが必要なのであれば、頭の中を空にする時間を持つこともまた必要だ。
我々はバンボーニングを追って、ブラックヒルズのパクトラ湖を訪れた。試合がない期間、自宅で過ごしている時は毎朝彼は釣りに出掛ける。我々が取材した時に魚は釣れなかった。しかし、彼の言わんとすること、無音の世界の素晴らしさを我々は知ることができた。
(バンボーニングの車のナンバー「RACKM 9 BILLION」の映像挿入)
ナレーション:このようなナンバープレートを付けているが、プールの世界でナンバーワンになっても見返りは少ない。今や落ちぶれたプロツアーがアメリカ国内でTV放映されることはほとんどなく、凝り固まったプールの世界の外からの関心を引いたり投資を受けるのは難しいのが現状だ。
ベルトハイム:スポンサーは何社から受けている?
SVB:6社だ。
ベルトハイム:キューやビリヤードテーブル、ビリヤード製品の会社?
SVB:そうだ。
ベルトハイム:ビリヤード業界以外からのスポンサーは?
SVB:ない。
ベルトハイム:トッププレイヤーが稼げる額は?
SVB:十数万ドル。出費を除けば数万ドルかもね。
ベルトハイム:プールプレイヤーで100万ドル稼ぐ選手は……。
SVB:いない。そんなことは起こりえない。
(ダービーシティクラシック会場映像挿入)
ナレーション:ビリヤードからマネーゲームを排し、クリーンなスポーツにすることで、大企業からのスポンサードや多額の放送契約が生まれ、プロスポーツとして成長できるとバンボーニングは語る。ギャンブルやそれに関するものに対しての彼の不快感を、我々はじかに目にすることができた。
ベルトハイム:ダービーシティでインタビューしている時に、覚えているかどうかわからないけど、インタビューを中断したんだ。覚えてる?
SVB:ああ、ギャンブルのこと? そういえばあったね。
ナレーション:それは早朝のダービーシティでの出来事で、階上の空気は前夜に続いて荒れていた。
(男の叫び声が響く)
SVB:揉めてる?
ナレーション:数分後、賭け試合をしていた2人のプレイヤーが一触即発になっていた。
SVB:自分はもうギャンブルはできない。
ナレーション:バンボーニングはただ頭を振った。
SVB:ビリヤードはクリーンな競技であるべきなんだ。
…………
【USオープン試合会場】
ナレーション:最近になって、プロビリヤードの世界に似つかわしくない新たな守護者が参入した。イギリスのスポーツプロモーター、『マッチルーム』のエミリー・フレイザーだ。『マッチルーム』は近年、イギリスのプロダーツ業界やスヌーカー業界の再生を担い、トーナメント環境を整備し、トップ選手を億万長者のセレブへと変身させてきた。
フレイザー:ここがトロフィーを置く場所よ。
ナレーション:フレイザーは同じことをプールでもやろうとしている。そんな彼女は、ギャンブルについてほとんど心配していないと語る。
ベルトハイム:近年のプロビリヤードの状況は?
フレイザー:ああ、間違いなくめちゃくちゃだわ。
ベルトハイム:なぜ?
フレイザー:私達が初めて主催した2019年の『USオープン』でびっくりした。選手達が着替え終わったらジーンズを履いているのよ。ちょっと待って、何が起こってるの? どうしてこの人たちはジーンズに着替えたわけ? って。
ナレーション:フレイザーはプロ選手に適切な服装をするよう求めたが、試合以外の場でのマネーマッチは禁止しなかった。
フレイザー:アングラなビリヤードやマネーマッチのこと、私は素晴らしいと思っているの。それで……。
ベルトハイム:本当に?
フレイザー:ええ! ファンタスティックだと思うわ。その裏に歴史があるから。
ベルトハイム:ギャンブルや金を賭けてのマネーゲームは構わないと?
フレイザー:私の見立てでは2、3年の間にマネーマッチは必要なくなるでしょうね。
ベルトハイム:賭ける文化は廃れる、業界は良くなっていく?
フレイザー:その通り。でも、現在はビリヤードはプロスポーツとして認識されていない。でも、そうなるための素質は揃っているのよ。
ナレーション:彼女は試合形式を統一しようとしている。その形式とは、商業化され、スポンサーに受けるナインボールであり、アメリカでよくプレーされるソリッド/ストライプのエイトボールではない。
10月にアトランティックシティで『USオープン』が開催された時、フレイザーは多数の観客を入れ、ライブ放送の設備も増やした。一方でプールのトレードマーク、紫煙の漂う空間は残した。タバコ? 似て非なるものだ。会場の隅には煙を吐く機械が置かれていた。
煙が晴れると、シェーン・バンボーニングの登場だ。
(SVB『世界選手権』優勝シーン映像挿入)
ナレーション:今年4月に初の世界選手権タイトルを獲得した彼は、ビリヤード界の頂点に名を残した。その後1ヶ月の間、トロフィーと一緒に寝ていたと彼は我々に打ち明けてくれた。バンボーニングが試合会場を歩くとファンに取り囲まれる。そんな彼でも空港では邪魔されずに歩くことができる。
フレイザー:彼はレブロン・ジェームズではないし、私もそのことをよくわかってる。それを変えるのが私達の仕事。私達の手で世界1位の賞金を8万ドルから100万ドルにするのよ。それが賞金の話。だからもっと試合を増やして、選手達を知ってほしいの。間違いなく好きになると思うわ。
ベルトハイム:好きになれる?
フレイザー:ええ、何人かはね(笑)。私はそう信じてる。
(SVBジュニアトーナメント映像挿入)
ナレーション:業界の健全化は新世代のプレイヤー育成にもかかっている。このトーナメント(USオープン)では、プロトーナメントの横でジュニア部門を開催している。その名は――これ以上にふさわしい名前があるだろうか――シェーン・バンボーニング・ジュニア・オープンだ。
ベルトハイム:彼らも将来はプロ選手に?
SVB:ああ、間違いなく。当然だ。このゲームに対する熱意が違う。
…………
【ラピッドシティ『ブレイクルーム ビリヤード』】
SVB:それから6番を入れる。
ナレーション:ラピッドシティのビリヤード場に戻ろう。我々はわずかな時間でビリヤードの天と地をともに経験した。
(取り切るSVBの映像挿入)
ベルトハイム:1球も撞かせてくれなかったじゃないか。
ナレーション:紳士のスポーツを嗜む者として、バンボーニングは我々をそのまま帰すことなく、トリックショットにチャレンジさせてくれた。
プールの世界の現状が一新されるかどうかは定かではないが、このような純粋でシンプルな快感をもたらしてくれる競技は――
ベルトハイム:下を撞けばいいんだね?
SVB:ああ、真ん中下だ。
――これからも続いていくだろう。
ベルトハイム:(笑)。どんなもんだい!
(了)
…………
◆ SVBの2016年のインタビュー記事はこちら
…………
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