〈BD〉「キューの径~太いやら細いやら」――Detective “K” season7 episode 10

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

「貧乏暇なし」とはよく言ったもので、

2023年はやたらと忙しい。

 

新たなキューを手に入れる余裕すらないのは、

キュー探偵としていかがなものか、だな。

 

ピコン!

 

BDからのメッセージだ。

ちとご無沙汰しているな。

 

『K、生きていますか?』

 

まぁな。

ほどほど、そこそこに生きるのが、

オレのモットーだ。

 

『今回は、太さについて聞きたいのです。』

 

ナニ? オレのサイズか?

それは、ぐふふふ。

 

『……パーソナルデータは要りません(苦笑)。

シャフトのテーパーや先端径サイズは

皆こだわりますが、

バットの径はあまり語られませんね。』

 

確かにそうだな。

だが実は重要なファクターではある。

 

『その通りです。

バットにも太い・細い、あるいは

可変のバットもあるかもしれません。

それを調査してください。』

 

後は硬さや色や握り心地が……

 

『それは結構です(怒)。

ちゃんと目を覚ましていますか!?』

 

わはは(汗)、

ちょっと言ってみただけだって

 

とにかく分かった、オレはキュー探偵。

その依頼、引き受けた。

 

*****

 

ビリヤードキューのバットは、

プレイヤーが玉にエネルギーと意思を伝え、

撞いたインパクトによる振動を

プレイヤーにフィードバックする重要な部分。

 

キューメーカー、時代、ゲームにより、

バットの太さやテーパーには、

様々なバリエーションが存在する。

だが、シャフトほどには議論されない。

これは考えてみると不思議だ。

 

ノーマルかハイテクか、

メイプルかカーボンか、

先端径は何ミリかと

こだわるプレイヤーは多いが、

ジョイント部は直径何ミリ、

バットエンド部は直径何ミリなどと

こだわるプレイヤーに出会ったことはない。

 

******

 

今から半世紀以上前、

1940年代から1960年代にかけて

大量生産された業界標準キュー、

ブランズウィック社製

『タイトリスト』を手に取ると、

まるで棍棒のように思えるほど太い。

 

性能よりも耐久性を

第一に考えて製作していたか、

木材が現在より豊富だったか、

キャロムでもポケットでも

撞けるようにしていたかのいずれか、

または全てだろう。

 

しかし、このバットでは

上級プレイヤーたちは

満足が行かなかったに違いない。

 

そこで登場するのが、

プレイヤーの要望に合わせて製作する

カスタムキューメーカー。

 

1950年代以降、様々なリクエストに

応えてゆく過程で、バットの径は

細くなり始めたと言っても良い。

 

******

 

オレがバットの太さを意識したのは、

1988年の晩秋。

 

雑誌『ビリヤードマガジン』に掲載された、

ショーンSPシリーズの広告。

 

ちなみに、「SP」とは、

“Super Professional”の略称だった。

 

「バットは、同じショーンの

Rシリーズよりひと回り太くなっています。

掌にしっくりなじむ、重厚な感触。」

 

と説明が添えられていた。

 

当時ショーンR6を使用していたオレは、

単純に「そうか。高級モデルの

バットは太いのか」と思い込んだ。

 

とはいえ、当時はSPシリーズを

手にすることも見ることも難しく、

違いを確かめる術はなく月日だけが過ぎ、

やがて忘れていった。

 

******

 

初めてオーダーしたバリー・ザンボッティ
初めてオーダーしたバリー・ザンボッティ

 

忘れたはずのバットの太さについて

再び考えるきっかけは、

キューを初めてバリー・ザンボッティに

オーダーした1993年11月。

 

デザインや重さを聞かれるものと

思っていたオレに対する最初の質問は、

「掌(てのひら)を見せてくれ」だった。

 

言われるままに手を差し出すと、

バリーは「きみの掌は薄いね」と一言。

 

オレは、ちょっとムッとしつつ

「それが何か?」と聞いた。

 

バリーは「自然な力で握ったとき、

バットと掌に隙間がないのが理想だ。

だから、バットを少し太めに作るよ」

と微笑みながら、

親が子供を諭すように説明した。

 

オレが「では掌が分厚い

プレイヤーだったら?」と聞くと

 

「バットは細くする。

自然な力で隙間なく握れるようにね」

と教えてくれた。

 

その時、あの広告の文言

「掌にしっくりなじむ」を

突然思い出した。

そして、その意味を初めて理解したのだ。

 

******

 

さてバットの

「太い」「細い」とは相対的な表現。

 

そこで、キューの直径を何本か測定してみた。

 

実際のところ、

テーパーが付いた円筒形ゆえ、

バット各部の直径を計測し比較すべきなのだが、

単純にジョイントカラーとバットエンド、

つまり一番細い部分と太い部分のみ計測した。

 

※J=ジョイント部、E=キュー尻(バットエンド部)

※1インチ=2.54cm

 

 

↑ 1988年頃のマクダモットは【J=0.86インチ/E=1.29インチ】

 

 

↑ オレが愛用した1987年製ショーンR6は【J=0.83インチ/E=1.26インチ】

 

 

↑ 1994年頃のメウチは【J=0.82インチ/E=1.265インチ】。全体が細い印象を受けるが、キュー尻がさほど細いわけではない。

 

 

↑ 1993年製タッドは【J=0.85インチ/E=1.24インチ】。バット後部が細い印象。

 

 

↑ バリーがオレの掌をみて決めたザンボッティは【J=0.85インチ/E=1.3インチ】と太い。

 

 

↑ オレ所有のムサシは【J=0.83インチ/E=1.26インチ】。ミリメートルに換算するとそれぞれ約21mm、32mmとなる。メートル法で設計されているかもしれない。

 

 

↑ メッヅのパワーブレイク魁(Kai)は【J=0.83インチ/E=1.24インチ】。スポーツグリップのせいかやや太く感じる。

 

******

 

ジョイントカラーは、

0.82~0.88インチで、

0.85インチが中央値。

 

シャフト側と径を合わせる必要があり、

どのキューでもあまり差はない。

 

ところがバットエンドは、

キューにより様々。

 

バリーがオレのために製作した

キューの直径は1.3インチ(33.0mm)。

 

他のキューは、

およそ1.24~1.28インチ

(31.5mm~32.51mm)で、

明らかに「太め」に製作されたことがわかる。

 

オレは様々なキューを握る機会が多いのだが、

細身なら1.25インチ程度、

太目なら1.28インチ以上

というのがオレの感覚。

 

しかし、極端な直径のキューもあり、

手持ちの中では1991年頃製作された

バリー・ザンボッティが、

1.33インチ(33.78mm)と極太、

逆ネジで知られるロビンソンは

1.19インチ(30.23mm)と極細だ。

 

 

↑ このバリー・ザンボッティは【J=0.86インチ/E=1.33インチ】の極太キュー。

 

 

↑ 【J=0.83インチ/E=1.18インチ】と全体的に細いのが特徴のロビンソン。

 

冒頭で述べた極太の

ブランズウィック社『タイトリスト』の

実物を計測したことはないが、

おそらくバットエンドで

1.35インチ(34.3mm)

ぐらいはあるだろう。

 

十分な削り代があったゆえ、

キューを作るための素材として

重宝されたのだ。

 

******

 

 

最後に、

一概に太さだけで語れないキューを1本。

 

ステルス社の『ドゥーリ―ハンドル』、

別名「イボイボ」グリップは、

 

【J=0.88インチ/E=1.3インチ】と、

一見太目のスペックだが、

細い部分は1インチ。

 

太さやカタチを変えることで、

バットのデザインは進化する(笑)のだ。

 

ここまで過激なデザインは例外として、

キューを選んだり、

メーカーに注文したりする際は

重さやウェイトバランス、

シャフトだけでなく、

バットの太さもプレイヤビリティに

影響する要素として

考慮に入れると良いだろう。

 

******

 

さて、太さの次に気になるのは、

硬さだろうか?

 

次も依頼を待っているぜ、BD!

 

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