昨秋オーストリアで行われた
『世界チーム戦』で
フィリピンチームメンバーとして
初優勝に貢献。
(第31回 東南アジア競技大会 in ハノイ)の
9ボールで金メダル獲得。
フィリピン代表選手としての
活躍が目立つヨハン・チュア。
現在30歳のチュアは来日経験も多く、
『全日本選手権』では2度の
日本のプールファンにも
お馴染みのプレイヤーです。
そんなチュアの
最新インタビューをお届けします。
2月中旬、新イベントに出るために、
カナダ・トロントを訪れていたチュアを、
トロント在住のK. MORI氏がキャッチ。
(※このイベントは収録イベントで、
まだ全容は公開されていません。
大井直幸プロも参加していました)。
話は、見応えたっぷりだった
2021年『10ボール世界選手権』の準決勝、
大井直幸vsチュア戦の
ラストラックから始まります。
…………
聞き手:K. MORI
語り手:Johann Gonzales Chua(以下JC)
――2021年『10ボール世界選手権』(ラスベガス)の準決勝(大井直幸 vs チュア)は、目の前で見ていてずっとハラハラドキドキしていました(試合動画はこちら)。解説者が最後のラックで大井の勝利が見えてきた時に「終わってほしくない。このままずっと見ていたい」と言っていましたが、本当に素晴らしい試合でした。
JC:あの試合、9-9のヒルヒルで迎えた最終ラックは僕のブレイクだったんだけど、ノーイン。ただ、1番は直接は狙えない形だったんだ(1番はコーナーポケット近くで手球はテーブル中央。その間に5番と7番があった)。
――大井がプッシュアウトでほんの少し手球を障害物(5番7番)に近付けました。依然1番は直接は見えてません。
JC:ターンが回って来て最初に思ったのは「ジャンプで狙うにしても手球が遠くて届かないな」ということ。一旦構えてみたけど、だいぶ厳しい体勢になって頭の位置もずれていた。ちらっとショットクロックを確認したら残りは15秒。ここで無理してジャンプに行っても、手球が飛び出してしまうかもと思って大井に返した(パスした)んだ。大井がジャンプキューでらくらくと構えるのを見て「しまった」と思ったね(※チュアは片足をテーブルに上げて身体を伸ばして構えていたが、大井はテーブル横から普通に構えていた)。とにかく大井のあのジャンプは見事だった。
――あの1番を仮にジャンプで入れたとしても、2番へのポジションも難しい配置でした。
JC:それも思ったよ。入れても5番や7番で隠れてしまう可能性もあったからね。それもパスした理由の一つだ(※大井は1番をジャンプで入れてバタバタ2クッションで手球を5番に当てながら2番へ出した)。
(※筆者追記:取材後、大井プロにこのプッシュアウトについて尋ねてみたところ「背が届かないまでは考えていなかったが、手球が飛び出す可能性はあったし、たぶん自分で撞くことになるだろうなと思った」とのことだった)
――話は変わりますが、キューが変わりましたね。CUETEC(キューテック)にスポンサードされた経緯を教えてください。
JC:あれは3年ぐらい前かな。当時は別のメーカー(Fury)と契約していたんだけど、CUETECから「次の契約更新の頃に連絡をくれないか」と言われていたんだ。その後、何度かCUETECとミーティングをして細かい内容も話し合って契約した。CUETECのキューも好きだったしね。
――キューにはすぐ慣れましたか?
JC:自分にとっては簡単だったとは言えないし、そもそも簡単に行くとも思っていなかった。長いことノーマルシャフト(サウスウエスト)に慣れていたから、トビの少ないキューで撞くのは新しい感覚だったね。でも、1週間ほどでこのキューが身体の一部になった。
――CUETECの色々なシャフトを試しましたか?
JC:いや、カーボン(『シナジー』)しか試してない。2021年『10ボール世界選手権』の会場でCUETECがブースを出していて、そこで色々試していいと言われたんだけど、最初にシナジーを使ってすぐに気に入ったんだ。当時はまだ契約はしてなかったんだけど、その後フィリピンのローカルトーナメントでCUETECでプレーしたらファイナルまで残った。まだ使って2日目だったんだけどね(笑)。ローカルと言っても強いフィリピンプレイヤーがたくさん出ていたから、「これは行ける」と思ったよ。
――CUETECキューのどこが好きですか?
JC:パワーが違うよね。以前サウスウエストを7年ぐらい使ってた。皆「サウスウエストは最高」と言うし、それは間違いないんだけど、パワー、テクノロジーなど、CUETECには他メーカーにはない良さがある。少なくともジャンプキューはCUETEC(『プロペル』)が最高なのは誰もが認めてると思うよ。
――タップは何を使っていますか?
JC:6、7年前からTaom(タオム)のソフトを使っている。今はスポンサーもしてもらっているんだ。その前はトライアングルをずっと使ってた。積層でもなんでもない安いタップだけど気に入ってたよ。僕は柔らかいのが好きなんだ。自分では柔らかいタップの方が回転をかけやすい気がする。柔らかいタップを長年使ってるから特性はよくわかっているし、パワーにも不満は無いよ。
――あなたが好きな種目と試合のフォーマットは?
JC:9ボールかな。そしてラック数が多い方がいい。10ボールも好きだよ。
――フィリピンのプレイヤーは育ってきた環境から“シャークプルーフ”(プレー中に周りの環境に惑わされにくい)と言われてますが、そう思いますか?
JC:周りがガヤガヤしている環境で小さい頃から撞いているから、それはあると思う。周りのことは全然気にしない。むしろ騒がしいぐらい注目されていた方が気分良くプレー出来るね(笑)。
――プロとして活動する前、どんな練習をしていましたか?
JC:フィリピンでは一人で練習することはほとんどなかったね。たいていタフな賭け球をやっていた。若いうちにトッププレイヤーと本気の勝負をしていたのが、上手くなった理由の一つではある。でも、トーナメントプレイヤーになってからは逆に一人で練習することが多くなった。もしこれを読んでいる人がプールを始めたばかりのプレイヤーなら、他のプレイヤーとゲームをプレーすることを勧めるよ。他の人のプレーから学ぶことはたくさんあるからね。
――あなた自身は今よりもう少し上に行くためには何が必要だと思いますか?
JC:メンタルかな。大会の準決勝ぐらいに進むと結構ナーバスになってしまうんだ。もちろん皆そうだろうけど、本当のチャンピオン達はそこを克服していると思う。今僕は負けた後に何が原因だったのか考えるようにして少しでも良くしていこうとしている。簡単ではないけどその努力は続けているよ。毎試合少しずつ良くなっている感触はあるしね。必ず目指す所に到達出来ると思ってるよ。
――最後に、あなたのようになりたいと思っている日本の若いプレイヤーにアドバイスをお願いします。
JC:第一にプールを楽しんでほしい。好きなことを楽しむのが大事だ。そして、しっかり練習することと自分のスキルを客観的に見ることも大切だね。出来ることもあれば出来ないこともあると思うけど、出来ないことは素直に認めて、出来るようになるためには何が必要か考えるんだ。色々なプレイヤーを見てコピーすることも良いね。もし僕のプレーが好きなら僕の真似をしてほしい。でも、もし上手く行かなかったり、合わないと思ったら他のプレイヤーを試せばいい。良いプレイヤーはたくさんいるから、誰か一人にこだわる必要はないと思う。そんな感じで、自分に合う方法やプレイヤーを探して色々と試してみて、良いと思ったら自分のものになるまでしっかり練習してほしい。
――ありがとうございました。今後の活躍を期待しています。
(了)
Johann Gonzales Chua
ヨハン・チュア
フィリピン・バコロド出身
1992年5月31日生(取材時30歳)
主な戦績は、
『世界チーム戦』優勝(2022)
『SEA Games 2021』金メダル(2021)
『全日本選手権』優勝(2015、2017)
他、優勝・入賞多数
使用キューはCUETEC
…………
◇ 同時期にK. MORI氏が取材した
W・ジーリンスキのインタビューはこちら
S・ウッドワードのインタビューはこちら
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