私の名はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
今年はやたら雨が多く暑い。
マスクは不要となりつつあるのは
ありがたいが、キューにとって湿気は大敵。
保管時のコンディションには気を遣うぜ。
ピコン!
BDからのメッセージだ。
『最近はあれこれキューを替えて、
撞いているそうですね、K。』
まあな、キューの好みが迷走している状態だ。
『それは、キュー探偵ならではの
贅沢な悩みでしょう。』
そんなもんじゃない。
バカンスの行き先を悩むような
ハナシとは違うぜ。
もちろん、昼飯のメニューを決めるほど
気軽なものではないがな。
『何を気取っているんですか(苦笑)。
まさか、プレイヤーとして
キューの性能を突き詰めようと?』
単にオレが最近ブレているだけだ。
一時的な悩みさ、多分な。
『……お大事に。
ところでキューのインレイですが、
デザインを言葉で伝えるのは難しいですよね。』
あぁ、カタチを表現する言葉を
知らないと苦労するな。
『そこで、インレイの形状を表す言葉を
調べて欲しいのです。』
なるほど。
『誰でも分かる言葉や、コレクターや
マニアの間では通じる用語があるはず。
それを調査して、整理してください。』
分かった、オレはキュー探偵。
その依頼、引き受けた!
******
以前、『キューのインレイ学』として、
3回にわたり材料やデザインを説明した。
インレイの本質は単純で、
「見れば分かる」デザインであれば良い。
しかし、実物がない状態で
他人に説明しようとすると難しい。
インターネット普及以前は、
電話でショップにキューの在庫を
問い合わせると、デザインを説明して
もらうのに時間の大半を費やしていた。
例えばこんな感じだ。
【TAD: 8 points; fancy butt section with diamonds and feathers; abalone diamonds. 18.8oz.】
仕方なくファクスを使うと、
手書きのイラストやキューの実物を
コピー機でスキャンしたものが
送られてきたものだ。
もちろんモノクロだ。
それでキュー購入を決めていたのだから
悠長な時代だった。
それゆえ、
キューコレクターやディーラーは、
「デザインの言語化」を発達させた。
一つのデザインに一つの言葉を与え、
皆が共通の認識を持っていれば分かり合える。
キューデザインに様々な名称が
付いているのはそのためだ。
******
☆ トライアングルとレクタングル(ボックス)
キューにおけるインレイの初期例は、
キュー尻部分におけるプレート。
平らに面取りされた部分にはめ込まれたのが、
三角形の「トライアングル」と
長方形の「レクタングル」。
真珠母貝や象牙のインレイは、
持ち主の名前を入れるため
「ネームプレート」とも呼ばれる。
しかし、現在では
見られなくなったスタイルゆえ、
三角形や長方形のインレイを表現する
一般的な用語として使われる。
また「レクタングル」は、
アメリカのコレクター達との会話では、
「ボックス」と言った方が通じやすい。
…………
☆ ドットとスクエア
純粋な装飾を目的としたインレイの元祖は、
円形の「ドット」。
ドリルで丸く溝を彫り、
同じ直径の真珠母貝をはめ込む技法ゆえ、
「サークル」とは呼ばれない。
ドット素材は、インレイパーツメーカーが
供給する既製品を使う方が多い。
一個ずつ丸く切り出す手間を考えれば、
その方が楽だからだ。
正方形の「スクエア」は、
「ドット」とは逆に、
はめ込む素材を切り出すのは楽でも、
正方形の溝を彫るのは案外手間がかかる。
四隅をきっちり90度に仕上げられる、
飾りリングの技法を用いる方が多いだろう。
どちらもキューの円周に沿って
等間隔に複数個入れるのが一般的で、
その個数と共に「8ドット」、
「12スクエア」などと表現される。
******
☆ ダイヤモンドとスロッテッドダイヤ
いわゆる菱型の「ダイヤモンド」は、
タッドやバラブシュカを始め、
入っているだけで「クラシック」
「トラディショナル」なデザインとなる
定番中の定番。
これは1960年代、パーマー社が
取引していたインレイパーツメーカーの
素材ラインナップに元々あった
ギター用の既製品
(『インレイ学』材料編参照)。
四辺に切り込みが入ったものを
「スロッテッドダイヤ」と呼ぶが、
これも最初は既成パーツだった。
とはいえ、円筒形のバットに
はめ込んで平らに仕上げるため、
ギター用パーツの厚み(およそ1.5mm)
では端部が削れてしまう。
そこでパーマー社はパーツメーカーに
厚めのインレイパーツを特注。
これを少量生産メーカーにも
供給したことで広まったものだ。
******
☆ スター(ファイブポイントスター)
アメリカのキューであれば、
星条旗にも見られる「スター」は定番……、
と思いきや使用例は稀。
コレはオレの仮説だが、尖りが5つある
「ファイブポイントスター」(五芒星)は、
上下が決まっていて、それを横にすると
傾いて見えてしまうからだと思う。
重要なのは、キューを眺める場合は、
地面に対し垂直に立てるのが
基本でありながら、
撞く際には水平にして使用されることを
考慮したデザインであること。
つまり水平でも垂直でも、
不自然とならないインレイが要求される。
だからといって斜めに傾けたデザインでは、
キューは上下に長いため落ち着かない、
というわけだ。
だが、デザインはトータルで決まるもの。
平口結貴プロが使用するエクシードに
入れられたスターインレイは、
ドットと交互に並べたパターン。
リング状のデザインとして実に美しい。
「スター」プレイヤーならではの
パーソナルキューとして、
見事にデザインを成立させている。
要はセンス次第なのだ
******
☆クロス
いわゆる「十字」形のインレイは、
小さなレクタングル(長方形)を
組み合わせれば良く、
縦に見ても横に見ても
変わらないキューに適した図形。
しかし、あまり使用例が多くないのは、
「クロス」といっても、
その図形によっては特定の宗教や民族、
あるいは過去の様々な歴史の
象徴ともなるためだ。
また、斜めに使用すると
「バツ印」となり、ネガティブな意味に
捉えられる可能性もある。
注文主が、自身の考えに基づき特注した
デザインは例外だが、不特定多数に
受け入れられるキューを製作するならば、
用いない方が無難と考える
キューメーカーも多いだろう。
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☆ オーバルとキャッツアイ
「オーバル」と呼ばれる楕円形は、
インレイパーツメーカーの既製品が
あるだけでなく、はめ込む溝を彫るための
工具や工作機械があれば製作しやすい。
初期の例では、
1960年代半ばのジナキューや
1970年代前半のタッドがあるため、
アメリカ西海岸で生まれた
キューデザインかもしれない。
「オーバル」は単体で
インレイされることは少なく、
中にスロッテッドダイヤなど
他のインレイを添えるパターンが多い。
「キャッツアイ」は、楕円形の
両端が尖った「猫目」の形をしたインレイ。
「オーバル」よりも
シャープな印象があるためか、
ダイヤやスロッテッドダイヤの代わりに
インレイされるのが一般的。
オレが知る限りでは、
アダム・ヘルムステッターの
『86シリーズ』、『87シリーズ』に
使われていたのが最初の例だ。
「キャッツアイ」はギターの指板上で
弦を抑える位置の目安となる
「ポジションマーク」でも
使われる形でもあり、
やはりギター用インレイから
転用されたと思われる。
******
基本的な形状を説明するだけで
1回分を費やした。
次に続くぜ、BD!
参考文献:Dictionary Of Symbols, Carl G. Liungman, 1991, W.W. Norton & Company, Inc,.
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