〈BD〉対立? 協働? WPAとマッチルームの公開書状【抄訳】

現在マッチルームが開催している『ヨーロピアンオープン』もWPAの“公認”は受けていない
現在マッチルームが開催している『ヨーロピアンオープン』もWPAの“公認”は受けていない

 

「新イベントの“公認”」や

「独自ランキング」、

「大会日程の重複」を巡って、

長年のパートナーシップに

摩擦が生じている

WPA(世界プールビリヤード協会)と

マッチルームプール(以下「マッチルーム」)。

 

8月に入り、双方が

オープンレター(公開書状)の形で、

主張を述べあっています。

 

その抄訳を以下に記します。

 

非常にざっくりと要約するならば、

 

WPA側が、

「マッチルームが新設した大会はWPAの公認を取っていない。公認を受けて(公認料を払い、WPA方式に則って)から開催してください」

と言い、

 

それに対してマッチルームは、

「ワールドナインボールツアーは独立した営利目的のプロツアーなので、WPAからの認可や規則の適用、承認を受ける必要はありません」

と答えています。

 

とはいえマッチルームも、

「WPAや各国の団体と今後も友好的に協働できると信じている」

とも言っていますので、

好んで対立したい様子ではありません。

 

『9ボール世界選手権』に関しては、

「来年もWPAの公認を得て開催する」

とも明言しています。

 

ただし、

「WPA側がナインボールツアーに参戦するプレイヤーに対してペナルティを課すような事態は我々の意図するところではありません」

と明確に釘を刺しています。

 

まだこの件は決着を見ていません。

今後さらにオープンレターが交わされたり、

首脳会談が行われたり、

という展開もあるでしょう。

 

…………

 

レターの抄訳の前に、

ざっくりとマッチルームとWPAの

関係性について触れておきます

(※ご存知の方は飛ばしてください)。

 

1999年、すでにスヌーカーなどの

スポーツイベントのプロモーションと

番組制作で実績のあったマッチルームが、

 

WPAの認可を得て、

『9ボール世界選手権』を

ウェールズのカーディフで開催したのが、

マッチルーム―WPAの協力関係の始まりでした。

 

(※マッチルームは1994年から

『モスコーニカップ』をSky Sportと

共催していますが、あくまで団体戦の

TVイベントであるため、

WPAの認可は必要ではありませんでした)

 

その後、マッチルームは

『9ボール世界選手権』の主催から

離れた時期もありましたが、

『モスコーニカップ』や

『ワールドプールマスターズ』、

『ワールドカップオブプール』など、

“招待制”のイベントは開催し続けていました。

 

そして2019年、マッチルームは

『USオープン』の開催権を前主催者から

譲り受け、WPAの認可も得た上で、

マッチルーム式の演出や

TVプロダクションを駆使して

新装開催しました。

 

翌年(2020年)には独自の

「マッチルームワールドランキング」も

運用開始

(2022年に

「ナインボールワールドランキング」と

改称し、本格運用開始)。

 

2021年には『9ボール世界選手権』も、

14年ぶりにマッチルームが

主催することとなりました。

 

この頃から、世界ランキングと言えば、

WPAワールドランキング

マッチルームナインボールワールドランキング

2つある状態に。

 

マッチルームは他の大会主催団体との

ジョイントも積極的に推し進め、

世界各地の大会が新たに

ナインボールワールドランキングの

ポイント対象試合として加わりました。

 

さらに、2022年には『UKオープン』、

『ヨーロピアンオープン』といった

新「メジャー」イベントも創設。

 

今年(2023年)10月には

アジアオープン』も初開催します。

 

マッチルームは「WNT.」

ワールドナインボールツアー)構想を

着々と、少なくともBDの想像よりも

早いスピードで形にしています。

そこに「本気」「情熱」を感じる

プレイヤーも多いだろうと思います。

 

WPAとしては、

いちイベンター/プロモーターの域を越え、

すでに「競技団体」のような振る舞いを

見せるマッチルームに対して、

自制・自重を求める意味で

牽制球を投げたというところでしょう。

 

しかし、マッチルームはおそらく

WPAの遺憾の意を受け流しつつ、

変わらず拡張路線を進んで行くと

思いますので、

また軋轢が生じる危険性があります。

 

…………

 

◇ WPA→マッチルーム(2023年8月1日)

 

マッチルームマルチスポーツ

エミリー・フレイザー様へ

 

「非公認イベントに関する懸念」

 

ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

 

1999年、世界プールビリヤード協会(WPA)とMatchroom Multi Sport Ltd. (以下、MS)の間に協力的なパートナーシップが結ばれました。2022年までWPAの旗の下、WPA公認の様々な国際イベントを成功裏に開催することができました。

 

20年以上にわたり、私たちの協力関係は相互の尊敬と信頼によって築かれてきました。この信頼関係は、2019年に新しい契約が締結されることでより強固なものとなりました。この契約は、2021年以降の『WPA9ボール世界選手権』の組織とプロモーションに特に焦点を当てています。しかし、今年に入ってから、MSは、WPAとその大陸メンバー、そして各国連盟を無視するような態度を示しています。

 

大会の公認は、スポーツと関係するアスリートを守ることを第一の目的として、レベルに関係なく全てのスポーツに普遍的に適用される基本的なルールです。遺憾なことですが、MSは、今年2月にポーランドで開催された『WPA9ボール世界選手権』は別として、WPAの適切な認可を求めることなく、数多くの国際大会を開催してきました。さらに、これらのイベントのいくつかは、私たちがすでに予定していた主要なイベントと重なっていました。

 

新しい主催者なら、こういったルールに不慣れであることを言い訳にできるかもしれませんが、MSは経験豊富であり、自らの行為を十分に認識しています。全ての連盟に対して公に侮蔑の意を表明していることは明らかでしょう。このような行動は、スポーツに害を与えるだけでなく、関係するプロ選手たちにも直接的な影響を与えます。選手たちは現在、どちらかの大会に参加するという困難な選択を迫られ、それによって収入を得る可能性が制限されています。

 

この手紙の目的は、MSがすでに気づいていることに注意を喚起することではなく、私たちのスポーツにおける全ての利害関係者と同様に、ルールの遵守が最も重要であることを強調することにあります。あなたが20年以上にわたって忠実に守ってきた慣習を継続することによって、MSのイベントが認可され、スケジュールが重複しないようにすることによって、MSは選手の満足感を高め、MSが収入を得ているスポーツの誠実さを維持することができます。貴社が追加費用を負担することなく(※BD注「公認料を払わずに」という意味でしょう)、現状のやり方を維持できていることは注目に値します。

 

この書簡はWPAが発行したものであり、大陸連盟、各国連盟、そしてビリヤードとビリヤードの既得権益を持つ世界中の数多くの企業を含む、WPAの全メンバーの一致した支持を表しています。

 

私たちの懸念を真摯に受け止め、この状況を是正するために適切な措置を講じるようお願いいたします。フェアプレー、誠実さ、協力の原則を守ることは、私たちのスポーツの長期的な成功と成長に貢献します。

 

本件にご配慮いただき、ありがとうございました。

 

敬具

イショーン・シン

世界プールビリヤード協会(WPA)会長

 

…………

 

それに対するマッチルームの

エミリー・フレイザーのレター。

→ 公式サイトのニュースページはこちら

 

◇ マッチルーム→WPA(2023年8月4日)

 

2023年8月4日

World Pool Association

イショーン・シン様へ

 

このたびはご連絡いただきありがとうございます。

 

マッチルームとWPAはこれまで実りある関係を築き、多くのイベントを成功に導いてきました。例えば2022年1月にマッチルームが発案し、WPAとの協調のもと立ち上げられた「ナインボールワールドランキング」は大きな一歩であり、プールプレイヤーに人生を変える機会を与えるとともに、プール界をより発展させ規範を作り、プロスポーツ化を加速させるためのものでした。

 

しかし残念ながら、我々が推し進めるプール界の将来像についてWPAは支持しない判断を下されることとなりました。一方で、マッチルームが「ナインボール」という競技の普及において確固たる貢献をしたのは事実であり、世界中で放映し投資を呼ぶなど、過去20年間のこの競技における献身的な取り組みは比類なきものです。そのため、「ナインボールワールドランキング」については単なる正式なランキングとしてではなく、プール界において耳目を集める存在として見ていただきたいと強く願っているのです。

 

もちろん、WPAやその下部組織たる地域団体、各国連盟団体に対して我々は最大級の敬意を抱いています。なぜなら、プール界の未来を担うスターを生む、アマチュア選手層の管理者としての非常に重要な役割がWPAにはあるからです。しかしながら、いただいた文書の中で何点か根本的な部分で賛同できない箇所がありました。そのうちの最も根源的なものとしては、WPNPC(World Professional Nineball Pool Corporation。マッチルームが8月4日に設立したワールドナインボールツアーを推進・運営するための新会社)は、世界を舞台にしたナインボールの独立したプロツアーであるということです。そのため、いただいた文書内で言及されている旨と異なり、我々はWPAからの認可や規則の適用、承認を受ける必要はありません。

 

「WNT.」(ワールドナインボールツアー)はプロスポーツとしてのナインボールを発展させ、現代にフィットするよう設立された、営利目的のツアー形式トーナメントです。つまり、もとよりWPAやその関連のアマチュア組織と衝突するものではありません。マッチルームの中継を見た若きプレイヤーが感化されプロになる、素晴らしい大会場で戦うことを夢見てWPAのアマチュア組織の中で成長するといったこともあるでしょう。WPAがIOC(国際オリンピック委員会)のルールの下で、アマチュア組織を統括する母体として存続するのは当然のことです。ひるがえってプロツアーに関しては、ナインボールツアーに対するWPAの認可は不要であり、WPA側からのいかなる提案もかえって独占禁止に抵触する恐れがあることをここでお伝えしておきます。

 

我々マッチルームはプール界の新時代到来に力を注ぎ、プールの普及や賞金の増額、プロ選手のプレー機会を増やす予定です。我々が手掛けてきたスヌーカーやダーツといった競技での成功実績が示す通り、「ナインボールプール」をメディアに露出させるための技術や意欲、創造力が我々にはあるのです。

 

ここで明らかにしておきたいことがあります。それはつまり、WPA側がナインボールツアーに参戦するプレイヤーに対してペナルティを課すような事態は我々の意図するところではありませんし、可能な範囲で試合スケジュールの重複を避ける計画です。我々はプロ選手に最大で最上のプレーの場を提供したいだけなのです。上記のとおり、我々はプール界の発展のためにWPAや各国の団体と今後も友好的に協働できると信じていますし、その結果多くの人がキューを手に取り、アマチュアとしてその競技人生を歩み始めることで各地域の団体を支えることにつながると感じています。この趣旨を明確にすべく、この文書は全プレイヤーに向けて公開します。

 

我々マッチルームは、「ナインボールプール」を世界規模のメジャーな競技にするにあたって、この競技におけるスポーツインテグリティ(高潔で清明なスポーツ像)を保ちながらより良いものにしていくことが最も重要だと考えています。そのためにここでお伝えしておくことがあります。我々マッチルームが主催するナインボールツアーは、総合的で独立したドーピング検査を実施、完全独立のインテグリティユニットを設置し、検討を重ねて制定したWNT.ルールを採用することで、公平性や透明性、競技としての存続性を守ります。

 

万全を期すために注記しておくと、以前お伝えしたとおり『9ボール世界選手権』はマッチルーム主催かつWPA認可の両者合意のもとでの単独イベントとして継続される予定です。去る5月にもお伝えしましたが、来年の『9ボール世界選手権』でWPAの皆様と協働できることを楽しみにしております。

 

WPAが「ナインボールプール」の発展における弊社の役割をご理解いただけることを願っております。また、WPAの皆様に私の考えを伝えていただけますようお願いいたします。ご質問などありましたらお気軽にご相談ください。

 

幸運を。

エミリー・フレイザー

マッチルームマルチスポーツ マネージングディレクター

 

………… 

 

BD Official Partners :  

世界に誇るMade in Japanのキューブランド。MEZZ / EXCEED 

国内外著名ブランドのビリヤード用品販売中。Billiard Square

創造性と匠の技が光る伝統の国産キュー。ADAM JAPAN 

ビリヤードアイテムの品揃え、国内最大級。NewArt 

ビリヤード台・用品のことなら。レッスン場「Poche」併設。日勝亭

カーボン繊維構造REVOシャフト発売中。PREDATOR JAPAN

徹底した品質の追求。信頼できる道具をその手に。KAMUI BRAND

カスタムキュー、多数取り扱い中。UK Corporation 

国内外トッププレイヤー達が信頼する国産積層タップ。斬タップ

ジャストなビリヤードアイテムが見つかる。キューショップジャパン

13都道府県で開催。アマチュアビリヤードリーグ。JPA

2022年9月『池袋西口店』リニューアルオープン。 BAGUS

川崎と横浜でビリヤードを楽しむ・習う・競う。MECCA 

カスタムオーダーシャフト『focus1』新登場。Geezシャフト

極上の撞き味を今ここに。国産牛革積層タップ。BIZEN TIP

徹底的なプレイヤー目線でできたJapanタップ。NISHIKI PREMIUM TIP

「チャンピオンのタップ」HOW Tip(ハオ)登場。SHOP FLANNEL

世界が注目。東京発のキューケースブランド。3seconds

第5巻発売中! ビリヤード漫画『ミドリノバショ

Cue Ball Samurai―ビリヤードサムライLINEスタンプ 

 

 

<<<前の記事   次の記事>>>