4月にアメリカ・ペンシルバニア州オークスの
『グレーター・フィラデルフィア・
エキスポ・センター』で開催された
『Super Billiards Expo』
(スーパービリヤードエキスポ。以下SBE)。
そこに今年、以前BDで
連載していた「酔爺」氏が参加。
スリークッション(3C)プレイヤー視点で
2019年以来5年ぶりの現地レポートを
寄稿していただきました。
※ともにSBEに赴いた「キュー探偵K」の
SBE 2024レポートはこちら
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酔爺・記:
【前日、会場にて】
1枚目=PREDATOR CRMブース。今年は残念ながらキャロムテーブル(3C台)は置かれていなかった。2枚目=昨年の3Cワールドカップラスベガス戦で使用されたPREDATORの3C台
今回のブースレイアウトでは、プレデター(PREDATOR)社があえて一部のブースを「PREDATOR CRM」(プレデターのキャロムキューブランド)として出展していた。これはプレデターのキャロムビリヤードテーブル(3C台)が用意されるのではないかという期待が持てる。
プレデターの3C台は国際大会の中継で見たことがあるだけで撞いたことがなかったので、「おしおし、これで練習がてら遊べるぞ」とひそかにほくそ笑む酔爺。しかし、現実はそう甘くはなかった。
前日になり、知人のブースのセットアップを手伝いがてら様子をうかがう。例のごとくプレデターブースは会場の入口真ん前にあり、キャロム関連は知人のIra Lee(アイラ・リー)が仕切っているようだ、早速話をしてみる。
「ヘイ、アイラ。久しぶり。今回3C台は置いてないの?」
「ああ、手持ちの台が全て売り切れてしまったため今回は3C台は無しだ」
「オーマイガッ」
悲嘆にくれる酔爺。「なんでねぇんだよう、1台くらい残しとけよぉ」などと心中で呪詛の言葉を吐きながら失意のうちにブース準備へと戻っていく。
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【プレデターキャロムシャフトREVO 3C-U〈ULD〉】
PREDATOR CRMのブースに陳列されているキューや小物類。3枚目はキャロム用シャフトREVO 3C-U
翌日からがSBE本番である、CRMブースにめぼしい製品はないかと見ているとアイラがやってきて、「この3C用REVOシャフトを試してみろ」と言ってきた。名前は『3C-U』。
Uとは「ULD」のこと。何となくハンバーガーの種類の様であるが(それはBLT)、それとは全く関係なく「Ultra Low Deflection」の略である。適当に意訳すると「チョートビ少ない」
現在アメリカのスリークッション(3C)界を牽引しているのはプレデター社だといっても過言ではない。そして、その主力製品がキューとシャフトであることは論を待たない。現在キャロム用のカーボンシャフトでは『3C-S』というトビのあるタイプ(Sは「スタンダードディフレクション」の意)と、『3C-U』というトビをできるだけ抑えたバージョンが販売されている。
Uはわかるが、なんでSという、カーボンなのにわざわざトビがあるようにしたシャフトが出ているのかというと、これまでのシャフトとの互換性・移行性を高めるためである。
これはプレデター専属となったスペイン人世界チャンピオン、ダニエル・サンチェスの「トビがないと思ったように当てられない。トビがほしい」という要望から開発されたと言われている。ご存じの通り、3Cではほとんどのショットをヒネって撞くため、皆キューの持つトビやカーブをセットにして厚みを狙っている。幼少から叩きこまれている撞き方ならしかたない所であろう。「三つ子の魂百まで」というやつである。
そして、トビの少ない『3C-U』はフランスのプレイヤー、ジェレミー・ビューリーが開発段階から関わり、現在も使用しているモデルである。日本でも販売されているので、これまでに試したことはあったのだが、いまいちピンときていなかった。だがそれは、既存のキューのシャフトだけを交換した状態であった。今回プレデターのバットとセットで初めて試してみたが(今回3C台がないのでポケット台とポケットのボールではあるが)、極めてトビが出づらいことが体感できた。プレデターではこういったトビを極力抑えたシャフトを開発することによって、現在のプールプレイヤーからの移行を促していきたいという考えがあるようだ。
とりあえ一本いっとく? とその場で『CRM P3』バットとセットで購入するか考えたが(合わせて約$2,000)、なんとか踏みとどまる。
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【ヨーロッパの雄、ロンゴーニ】
1枚目=ロンゴーニの社長、ピエルイージ、2枚目=ロンゴーニブース、3~5枚目=ロンゴーニのキュー。特に5枚目は世界チャンピオンのヤスパースやコードロンのモデルなど豪奢で風格のあるキューが並ぶ
創業75周年を越え、もうすぐ80年になるイタリアのキューメーカー、ロンゴーニ(Longoni)がブースを出しているということも注目である。最近はカーボンシャフトだけではなく、“カーボンではない黒いシャフト”も開発しており、旺盛な開発意欲を感じさせる。
ポケット用のニールス・フェイエンモデルキューなども置いてあるが、やはりメインはキャロムキューである。ディック・ヤスパース、エディ・メルクス、フレデリック・コードロンといったワールドチャンピオン達のモデルをここぞとばかりに展示していた。
ちなみに、現在品薄で購入は困難である。アメリカにおいても3Cの需要はあるようで、イタリアからやってきてブースを仕切っていたロンゴーニ本社社長、ピエルイージは対応に追われていた。個人的にピエルイージとは旧知の間柄である。挨拶に行くと「ちょっと飯買いに行きたいから店番してくれ」と言われ、留守番を頼まれる。報酬は当然ビールである。
ついでに最近のアジアにおけるビジネス状況についてピエルイージに聞いてみた、キャロムに関しては「韓国は相変わらずで、ベトナムがすごく伸びている」とのことであった。ベトナムは旧フランス領であるため、以前からバンドやフリーゲームなどが盛んであったが、近年における3Cへの関心の高まりはすさまじく、ワールドランキングTop 10プレイヤーだけではなく、若くて優れたプレイヤーも輩出している。「今年の3Cベトナムワールドカップもタイミングが合えば行きたい」と言っていた。個人的にも一度見てみたいと思っている。
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【謎のキューMariposa】
1枚目マリポサキューの代表、カイル・バンデンボッシュ。2枚目=マリポサキューのバナー。3枚目=マリポサのキャロムキューの木ネジは一般的なものとはネジの雄雌が逆。4枚目=マリポサキュー
名前だけ知っていても実際に見たことがないキューメーカーが出展していることがあるのが、SBEの魅力である。そんなキューメーカーの一つがマリポサ(Mariposa)である。そして、さらに「キュー探偵K」より、マリポサにはキャロムキューの展示があるとの情報が寄せられる。
『Blue Book』によると、マリポサは1990年代からシカゴでキューを製作しているメーカーであり、アメリカンキューメーカーでは数少ないキャロムキューを製作しているメーカーでもある。特長はWood to Woodの木ネジ。
キャロムキューの木ネジといえば、バット側にネジ穴を開け、シャフト側が雄ネジとなっているのが一般的だが、マリポサのキューは逆で、バット側に雄ネジが付いている構造になっている。このジョイントの特長を代表のカイルに聞いてみたが、「Hits Great!」との回答であった(大体変わったジョイントを採用しているキューメーカーはそう言う)。ちなみに、彼もプレデターが3C台を置いていないことに不満を持っているようだった。
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【2024 SBEにおけるキャロム】
アメリカも3月の『3C世界タッグ』(3C世界選手権 国別対抗戦)で日本と同じく3位入賞となるなど、キャロムビリヤード復権の兆しも感じられるため楽しみにしていたのだが、今回SBE全体として見ると、3Cの台とボールが無いため低調であったと言わざると得ない(だいたいプレデターのせい)。プレデターブースでは、プール台を使ってカイルンをしてお茶を濁していたが、プレデターブースにいたNYの『キャロムカフェ』の常連だという少年も残念そうであった。
しかしながら、今年もプレデターの肝いりで3Cワールドカップがラスベガスで開かれる予定となっており、そこにはアメリカはもとより世界中のビリヤードキューメーカーが集まる事であろう。以前に一度、『BCAエキスポ』とタイミングを揃えて3Cワールドカップが開催された時に見たことがあったが、いかんせん現在の為替事情では観戦に行くのも懐が厳しいのが実情だ。ただ、中南米系ですさまじく当てるプレイヤーがごろごろいるという話もあるので、こちらも一度見てみたいものである。
結局今回キューを購入することはなかったのだが、これは為替による影響も大きい。$1=150円としても、$2,000=30万円である。カスタムキューの相場も上がり、最低ラインがそれくらいになっていることを考えると、おいそれと手を出すのも難しくなってきている。
来年以降のSBEについても事情は分からないが、相場が好転していることを祈りたい。それとは別に、年に1度のご挨拶の機会と思えばなんとか都合をつけて行きたと考えている。
ちなみに、個人的な収穫としては、あるメーカーにオーダーしているキャロム仕様のキューが6月に出来上がる予定になっていることを製作者本人から教えてもらうことができ、テンションが上がったことだろうか。会場でのキュー購入はセーブせざるを得なかったこともあるが、まぁそれだけでも来た甲斐があったというものである。
(了)
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酔爺、ありがとうございました!
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※酔爺のキャロムキューの話
※酔爺の2019年SBEレポート
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