〈BD〉「キューの価格~カスタムキュー黎明期編」――Detective “K” season 8 episode 10

バラブシュカキュー
バラブシュカキュー

 

私の名はDetective K。

ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。

 

梅雨明け前から異様に暑く、湿度も高い。

カーボンシャフト装着キューが

増えているとはいえ、

湿気対策は欠かせない。

 

手汗も染み込むキューグローブは、

洗濯するか買い替えた方が良い季節だな。

 

キューケースに仕舞い込みっぱなしはNG。

ニオイやカビの元だ。

 

ピコン!

 

BDからのメッセージだ。

 

『K、5編にわたるSBE 2024レポート

感謝します。』

 

ちょっと力みすぎだった。

何しろ6年ぶりの参加だったからな。

 

『そんなこと誰も気にしていません(微笑)。

円安とアメリカの物価高で、

さぞ大変だったと思いますが。』

 

確かにそうだな。

削れるのは食費ぐらいで、

浮いた分はキュー購入に回していたぜ。

 

『そこで、キューの価格変動について

調べてください。』

 

キューの相場ということか?

 

『その通り。キューの新品価格は、

まぁ上がってゆくもの。

中古であっても価格が上がるキューも

中にはありますね。』

 

確かにカスタムキュー市場、

ヴィンテージキュー市場は

それで成り立っている。

 

『それ以外にも日本円とアメリカドルの

為替レートや、国ごとの経済動向で

キューの価格は変わるはず。』

 

もちろんそうだ。

 

『ここ半世紀でみた、キュー価格の

変化を調べてレポートしてください。』

 

何やら経済記事的な切り口だな。

 

分かった、オレはキュー探偵。

その依頼、引き受けた!

 

******

 

↑Brunswick社公式サイト内「ヒストリー」ページの一部。テーブルのイメージが強いBrunswickだが、1845年の創業以来、キュー、ボール、ラシャ、チョーク、タップなど全てのビリヤード用品を手掛ける総合メーカーだ。今もハウスキュータイプのキューを製作している

 

 

ひとつの目安として、

アメリカの大手ビリヤード用具メーカー、

ブランズウィック社における

キュー価格を調べてみた。

 

19世紀から20世紀初頭まで同社は、

安価なハウスキューから

凝ったデザインのツーピースキューまで、

数十種類のモデルを生産していた。

 

しかし1930年代以降、世界恐慌と

世界大戦により高級モデルは消滅。

 

1942年のブランズウィック社カタログでは、

 

【Tru Balanceモデル:$1.50】

【Titlistモデル:$2.36】

【Titlist Professionalモデル:$8.46】

 

の3種類しか販売されていない。

 

当時は第二次大戦中。

金属不足ゆえ、ジョイントカラーは、

真鍮の代用としてファイバー樹脂製だった。

 

まぁ、戦時中でもキューを

製作・販売していること自体がすごいが。

 

↑ビリヤード史に名を残すアメリカ人キャロムプレイヤー、Willie Hoppe(ウィリー・ホッペ)の1942年、つまり第二次世界大戦中の大会表彰画像。BrunswickのTitlist(タイトリスト)キューは正式名称を「Willie Hoppe Titlist」と言う

 

 

第二次大戦終了後、1948年には、

 

【Challengerモデル:$2.25】

【Tru Balanceモデル:$3.50】

【Titlistモデル:$5.50】

【Master Strokeモデル:$8.95】

【Titlist Professionalモデル:$13.95】

 

の5種類に増えるが、

凝ったデザインの高級モデルは見当たらない。

 

これに満足できない上級プレイヤーの

好みに合わせた特注品や、

装飾が施された高級キューを

製作するメーカーが1950年代から出現。

 

それが、いわゆる

「カスタムキューメーカー」だ。

 

******

 

1960年初頭、

アメリカのカスタムキューメーカー

草創期の価格はどうだったか。

 

まず、ブランズウィック社の

1963年カタログでは

 

【Challengerモデル:$3.95】

【Tru Balanceモデル:$4.95】

【Titlistモデル:$7.95】

【Master Strokeモデル:$13.75】

【Titlist Professionalモデル:$17.75】

 

となっている。これら量産キューの

価格を基準として考えよう。

 

1960年代前半、

少量生産メーカーの草分け、

ハーヴィー・マーティンは$25.00、

ジョージ・バラブシュカは$40.00、

ハーマン・ランボーは$75.00で

キューを直接プレイヤーに販売していた。

 

ハーマン・ランボー
ハーマン・ランボー

 

アメリカ東海岸のメーカー、

フランク・パラダイスは、

凝ったデザインのキューを

$100.00(100ドル)で売ったとき、

「これ以上の価格を付けたら

誰も買わない限界値」と思ったという。

 

量産キューの価格帯からすれば、

少量生産メーカーは高価だった。

とはいえ、

飛び切り高いというほどではないな。

 

******

 

しかし、同時期に

キュー価格の限界突破を図ったのが、

西海岸のジナキュー。

 

当初は$75.00で販売していたが、

凝った装飾のキューであれば、

上級プレイヤーや富裕層は

もっと払うはずと、$200.00を超える

モデルを製作し始めた。

 

もっとも当初は

「キューにそんな高額は払えない」

と誰もが思ったという。

 

ところが、強豪プレイヤーが

ジナキューを使用し、

優勝したことで評価が一変、

高価なキューに注文が集まるようになった。

 

1960年代末になると、

週300本の生産量を誇ったキューメーカー、

パーマー社の価格帯は、

$30.25から$150.00。

 

ジョージ・バラブシュカは

上級モデルが$300.00を超えるようになる。

 

バラブシュカキュー
バラブシュカキュー

 

一方、1969年の

ブランズウィック社カタログでは、

 

【Challengerモデル:$6.00】

【Tru Balanceモデル:$8.00】

【Titlistモデル:$12.00】

 

と、低価格のラインナップにこだわった。

 

これが結果的に

「良いキューなら高くても売れる」

というビジネスチャンスを拡大し、

多くのキューメーカーが

登場するきっかけとなった。

 

ちなみに、巨匠、ガス・ザンボッティが

最初の一本を製作したのは1969年。

それはわずか$25.00で売られたという。

 

そのキューは今なら、

数百倍の価格が付くだろう。

 

しかし、ガスはそれを数年後に買い戻すと、

ノコギリで真っ二つに切って

処分したため現存していない。

 

******

 

1980年代前半まで、

概してカスタムキューメーカーは、

評判が高まるにつれ注文が増えても、

あまり値上げしなかった。

 

それでも価格が上がったのは、

「需要と供給のバランス」。

キューが転売されるようになったからだ。

 

ジナキューは1973年、突然製作を中止。

 

バラブシュカは1975年12月に亡くなり、

注文不可となった。

 

ガス・ザンボッティは、増加する注文に

対する製作が追い付かなくなり、

すぐに入手可能な未使用新品や

中古の需要が高まっていた。

 

メーカーは、一旦キューが手元を離れたら

価格をコントロール出来ない。

亡くなったり製作を止めていたりすれば、

なおさらだ。

 

さらに1980年代後半、

キューの価格は突如として急激に上昇する。

その引き金を引いたのは日本だった。

 

******

 

カスタムキュー黎明期の話をするだけで

長くなってしまったな。

 

次回、アメリカドルと日本円の

為替レート変遷を踏まえ、

円高・円安から見る

キュー価格の変化を説明するぜ。

 

とりあえずよろしくな、BD!

 

…………

 

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