〈BD〉『8ボール世界選手権』 in ニュージーランドのちょっと裏側 by 吉岡正登

TVテーブルで行われた鈴木謙吾 vs C・ビアド戦
TVテーブルで行われた鈴木謙吾 vs C・ビアド戦

 

J・フィラー(ドイツ)の優勝で

幕を下ろした今年の

WPA 8ボール世界選手権』。

 

出場していた吉岡正登プロが、

開催地、ニュージーランド・

ハミルトンと会場内外の様子を

教えてくれました。

 

大井直幸プロのYouTubeでも

大会の裏側が見られます。

 

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吉岡正登・記:

 

こんにちは、ニュージーランドから帰国した吉岡正登です。早速ですが、大会を振り返ります。

 

◇ 渡航~宿

 

 

開催1週間前に急遽ワイルドカード(主催者推薦)により出場が決まった『WPA 8ボール世界選手権』に向け、8月の『USオープン』から帰国して大慌てでスケジュールを調整。『ポッシュ』(※吉岡プロが代表を務めるレッスンスタジオ。大阪)のお客様にはご迷惑をお掛けしました。レッスンをリスケジュールさせていただいて行くからには……と気合いが入りました。

 

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ニュージーランドはもちろん、南半球に渡航するのは初めて。それだけビリヤードの国際大会が少ないということでしょう。今回は関空→上海→オークランドという乗り継ぎ。オークランドでは先着した大井直幸プロがレンタカーを借りて待っていてくれたので、ハミルトンまで車移動。1時間半ほどでした。他にもバスで2時間ほどで行けます。

 

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宿は今回もエアビー(Airbnb=民泊の宿)を選択。大井プロ、鈴木謙吾プロ、そして、『WPA 女子9ボール世界選手権』に出る村松さくらプロと大きな一軒家にステイ。

 

寝室は4つとのことだったんですが、1つ見当たらず。すると、なんとプールの横に離れがあり、そこにベッド&バスルームも。村松プロがそこを使うことになりました。

 

このエアビーはとても静かな住宅地にあり、会場までも徒歩15分ほどと好立地。大きなキッチン、ダイニング、リビングルームにはサンルームまでありかなり快適でした。ハミルトンの気温は10℃~20℃で、朝晩は少し冷え込みました。

 

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ハミルトンに到着したのは開催日2日前の夜。その日はスーパーで買い出しをして夕食を摂るだけになりました。ニュージーランドはワインの生産量が多いそうで、ビールを含めたお酒コーナーはとても充実していました。肉や魚、野菜なども豊富で早速大井シェフの目利きが入っていました。

 

現地通貨はニュージーランドドル(1ドル90円台)。少し前までアメリカにいたこともあって(1ドル140円台)、物価的にはさほど高くは感じませんでした。例によって大井プロが食事を用意してくれたのでほとんど外食はしなかったのですが、円安傾向と言ってもおそらく街のレストランでもストレスなく食事ができる値段だと思います。レンタカー代、エアビー代なども他の国に比べれば安かったです。

 

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ハミルトンはニュージーランド第4の都市。ですが、ほとんどの目的地へ車で10分ぐらいで着くというほどよい規模感でした。

 

1ヶ月前に訪れたフィンランドは世界幸福度ランキングで堂々の第1位。ここニュージーランドはトップ10に入っています。共通しているのは自然が多く、人口の過密度合いが低いところでしょう。人と人との距離が自然とパーソナルスペースの外側に保たれている感覚。日本にいると慣れてしまっているのですが、他人が近くに存在している空間というのは、害はなくとも知らず知らずのうちにストレスになっているんだなぁと気付かされました。

 

そうそう、ニュージーランドはイギリス文化の影響で車は右ハンドルの左車線。道路の造りなどは日本にとても良く似ていました。

 

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◇ 大会前日

 

 

試合の前日はお昼からオープニングセレモニーに参加しました。当初、午前中から始まる予定だったのでひとまず大会公式ホテル(『ノボテル』)まで車で移動。これも時間は10分ほど。そこは街の中心エリアで、個人的には京都の繁華街(四条通り)のような店の並びに感じました。もちろん人も店の数もこちらの方がはるかに少ないですが…。

 

ホテルに着くと案内板が置いてあり、「12時より『ハミルトンガーデン』にてオープニングセレモニー」とのこと。2時間ほど時間ができたので会場の『クロードランズアリーナ』も偵察することに。会場はホテルとエアビーのちょうど間ぐらいの場所にあり、広々とした敷地内に建つ大きな施設でした(会場の写真はのちほど)。

 

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『クロードランズアリーナ』の中にはまだ入れず。隣のエリアでちょうど毎週日曜日開催のファーマーズマーケットが開かれていたので覗いてみました。そこでは野菜や肉、魚、牛乳などを売っているブースが30ほど出ていました。その中の魚屋さんのご夫婦は奥様が日本の方でした。その日の夕食にはここで購入したシマアジなどが食卓に並びましたが、とても新鮮で美味しかったです。

 

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そして、12時から始まるオープニングセレモニーのために『ハミルトンガーデン』へ移動。ここはハミルトンの観光スポットにも挙げられている所で、僕らの宿から10分ほどで着きました。自然豊かで、日本や中国、エジプトといった様々な国をコンセプトにした庭園がいくつもありました。

 

その中の中心にある広場にてオープニングセレモニーが開かれました。WPAのメイン大会ではだいたいこのようなセレモニーが催されます。今回もハミルトン市長、WPA会長、冠スポンサーのプレデター社の社長とスピーチが続き、軽食タイムという流れでした。

 

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終了後は会場で練習ができました。外観とは裏腹に会場内は少し狭く、テーブル台数も15台+TVテーブル1台(計16台)でプラクティステーブルはなし。観客席はTVテーブル周りにしかありませんでした。

 

テーブルやボールなどの用品は全てプレデター社製品。プレデターテーブルは日本ではまだ馴染みがないかもしれませんが、そこまでクセのあるテーブルではありません。ポケット幅も球2個弱と渋くも甘くもない感じです。今の男子プールの世界基準で言うと甘い方ですね。

 

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現在、話題のトピックとしてWPAとWNT.の公認/非公認問題があります。

 

これはWPAが、非公認試合(アジア圏のWNT.系大会)に出場した選手に対してペナルティを与え、一定期間WPAの試合には出場不可とするもの。しかも、現状ではアジア選手に対してのみこのペナルティが発動しており、先日それに抗議をする形でWNT.の10数名のプロ達が「WPAの試合をボイコットする」と声明を出しました。

 

それにより今大会もキャンセル者が続出し、急遽ワイルドカード枠が生まれたという訳です。今年『9ボールグランドスラム』(ワールドプールマスターズ、世界選手権、USオープン)を達成したF・ゴースト選手(アメリカ)もハミルトンに来ていましたが、『8ボール世界選手権』には出場せず、同時開催の『女子9ボール世界選手権』に出場するフィアンセであるK・トゥカチ選手のサポートをしていました。

 

しかし、大会中にゴースト選手が「WPAの大会をボイコットすると声明を出した選手が今大会に参加しているのは残念だ」などとSNSで発言したため、選手達はざわついていました。

 

これはドイツのJ・フィラー選手とオーストリアのA・オーシャン選手に対してだと思われ、両選手もそれぞれの考えを投稿する形で応えていました。各国の状況、またスポンサーなどが複雑に絡み合っており、選手の苦悩が見えます。我々日本選手もこの動向にこれまで以上に注視して自身の参加大会を決定する時期にきています。

 

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いつも国際大会には陽気なスペイン選手団がいるのですが、今回はJ・A・デルガド選手が1人でスペイン代表として参加していました(画像左)。

 

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◇ DAY1

 

 

このWPAニュージーランド世界選手権は、かなり余裕のある日程が組まれていて、僕の出る『8ボール世界選手権』は64名しか参加していませんが7日間もあります。『女子9ボール世界選手権』、『10ボール世界ジュニア』の3ディビジョンを含めて、実質的に5大会を同時に開催するので仕方がないとは言え、『8ボール世界選手権』に出ている選手の時間的・経済的負担はなかなか大きいです。

 

1日遅れで始まる『女子9ボール世界選手権』に出る村松プロが前日練習をできるようにと、『Massé Hamilton』というビリヤード場へ行きました。ここも会場から車で10分以内、公式ホテルからも近くて、到着すると8台ほどあるプレデターテーブルは全て埋まっていました。

 

顔見知りの台湾女子選手に声を掛けるも「いっぱいだから入れてあげられない」と断られ、すごすごと帰ろうと店を出た時、1人の男の子が「一緒に使えるよ」と呼び止めてくれました。彼は現在ジュニアのマッチルームイベントや欧州選手権などで優勝・入賞を繰り返しているスロベニアのマクス・ベンコ君。見た目のイケカワ容姿だけでなく性格も良いのか(笑)。ということで、さくらプロは彼とスパーリングをしていました。

 

ちなみに、『女子9ボール世界選手権』の冠スポンサーである「Massé」はこちらのビリヤード場のことだそう。プレデターテーブルも多いですし、以前からこの地域での大会誘致を積極的に行っていて、今回念願叶ったということのようです。

 

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◇ 日本女子勢

 

 

今回『WPA 女子9ボール世界選手権』には、河原千尋プロ(1枚目)、村松プロ(2枚目)、小西さみあプロ(3枚目)、平口結貴プロ(4枚目&5枚目)の4名が参加。河原プロが見事に3位入賞を果たしました。また、写真はありませんが、『WPA 10ボール世界ジュニア』のU19部門では金澤蒼生選手が3位に輝きました。

 

動画は村松プロのシュートアウトの後半。勝者側最終戦(vs 王婉菱)でシュートアウトになりましたが、村松プロはより距離の遠い形になっても入れまくってました。

 

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◇ 試合内容

 

 

8ボールは好きな種目ですが、日本ではすでに公式大会がなく(何を隠そう僕のプロ初優勝は『8ボールオープン』〈2012年〉。しかし、翌年から非開催……)、8ボールの国際大会を撞くのも、2年前にプエルトリコ開催の『8ボール世界選手権』に出た時以来でした。

 

1回戦は地元ニュージーランドのベテラン選手(T・グエン)と対戦。バンキングを取ってブレイクはノーイン。取り切られて0-1(8先)。2連マスで0-3。かなり焦りました。相手は8ボールに完全に慣れている感じ。

 

何とか粘ってやっと6-6に追い付いてからは相手がプレッシャーからミスをしてくれて8-6で勝利。しかし、この試合はブレイクが毎回ノーイン(内2回は飛び出しファウルとスクラッチ)でした。やはりトライアングルラック使用のレフェリーラックではブレイクがかなり難しいです。

 

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2回戦はA・パグラヤン選手(カナダ)。6月の『9ボール世界選手権』でも対戦して敗れています。パグラヤン選手は手球コントロールが上手いし、頭も良いからこういう種目はかなり手強いイメージ。付け入る隙があるとすればやはりブレイクの成否だろうと思っていました。この試合も序盤はやはりブレイクに苦戦。パグラヤン選手も試行錯誤しており、ラックの先頭の球ではなく3段目ぐらいに当てるブレイクもしていました。

 

1-5と離された僕はサイドブレイクにチェンジ。これが功を奏して5-5に追い付き、一つ取られて5-6で迎えた第12ラック。個人的には記憶に残るラックになりました。と言うのも、残りグループボール3球同士で20分以上に渡るセーフティの攻防になったのです。自分のグループボールと相手のグループボールの位置を微妙に変化させつつ、有利な配置に持っていく狙い。最後は空クッションインからの前クッションインでポジションを取って、4球取り切りでラックを取りました。

 

これで6-6に追い付いたのですが、次ラックのブレイクイン後の取り出し、ここでトラブル処理すれば取り切りが見えるというショットで残り球を難しくして、バンクに行き失敗。相手の取り切り→マスワリであえなく敗者側へ回りました。

 

敗者2回戦は土方隼斗プロと日本人対決に。この試合は流れが良く、途中3連マスでリードできたので勝つことができました。海外戦でしかも敗者側で日本人選手と当たってしまうのは少し複雑です。

 

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そして、敗者3回戦はドイツのT・ホーマン選手。こちらもエニーボールが得意なベテラン選手。しかも直近の『USオープン』勝者2回戦で敗退している相手。気合いは十分だったのですが、序盤のミスで離されて、最後はブレイクがハマって上がり3連マスを喰らい、敗戦となりました。

 

パグラヤン選手もそうでしたが、8ボールを撞き慣れているトップ達は9ボールなら攻めているような球も8ボールではリスクを取って守ってきます。やはりプレッシャーの掛かり方も違いますし、よりクレバーに戦う必要性を感じました。加えて今大会はTVテーブル以外も早い段階でショットクロック(30秒)が入りました。8ボールにおいてはとても短く、かなり酷なタイムルールでした。

 

しかし、9ボールや10ボールとはまた違ったチャンスを感じるので、また8ボールの国際大会にチャレンジできるように頑張りたいです。

 

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ただ、今大会は残念ながらラックはもとより、レフェリーの習熟度の低さからくる不可解なジャッジが際立つケースが多かったです。日本チームで言えばジュリアン・セラディラプロがショットクロックのコール間違いで急かされてミス。村松プロもエクステンションの使用に関してレフェリーが勘違いをして説明のために試合中断。

 

そもそも各部門によって種目もルールも違うのに、それぞれが入り乱れて進行しているから未熟なレフェリーには務まるはずがありません。ほとんどのレフェリーに逆に選手がルールを説明するような形でした。

 

極め付けはTVテーブルでのソソア選手 vs K・トゥカチ選手のゲーム(画像2枚目)。ソソア選手のショットをレフェリーがファウルと判定。これは確実にセーフでした。VTRでも確認できるはずですが、レフェリーがすぐに手球を取り上げてファウル扱いにしてしまいました。他にもソソア選手のプレー時にショットクロックの警告音が鳴らないアクシデントもあり、かなり不利な状況になっていてかわいそうでした。

 

おそらく僕たちが見ていた以外にもあちこちで細かいトラブルが多かったことは、各選手のその場での反応やその後のSNS投稿などを見れば明らかです。『世界選手権』を謳っているのであれば、レフェリーもそれ相応のスキルを習得して臨んで欲しいと思います。

 

ただ、このような男子/女子/ジュニア共催の国際大会は、単独開催とはまた規模も雰囲気も異なりますし、イベントとして素晴らしいものになっていると思いますので、地域活性化も含めて色々な国で開催されると良いなと思いました。

 

次の僕の海外遠征は、ベトナムで開催されるWNT.イベントの『ペリオープン』と『ハノイオープン』の予定でしたが、状況が状況なだけにキャンセルしました。早く問題が解決することを切に願います。

 

ということで、今年の後半は『ジャパンオープン』『北陸オープン』『全日本選手権』と日本の試合がメインとなりそうです。本大会を含めてこの夏は5つの国際大会に出ることができました。この経験を活かせられるように頑張ります!

 

(了)

 

※吉岡プロのSNSでも現地情報が発信されています。

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