〈BD〉今週末の『GPE-6』がラスト実況。「GPEの声」“なおるだ”インタビュー【前編】

 

16年にわたって

JPBA東日本男子プロツアー、

『グランプリイースト』(GPE)の

実況を務めてきた“なおるだ”こと

加藤直哉さん。

 

2008年GPE-1から109大会。

少なく見積もって327試合で、

解説者(プロプレイヤー)とともに、

プロのすごさとビリヤードの

面白さ・奥深さを伝えてきました。

 

ビリヤードビギナーの目線を忘れず、

時に情熱的に感じたままに、

時に細かく丁寧に。

親しみやすいガイドのような

“なおるだ”の実況は、GPEになくては

ならないものになりました。

 

そんな“なおるだ”が、

今年いっぱいでGPEの実況を卒業。

 

今週末(10日〈日〉)の

GPE-6 in BAGUS川崎』が

最後の実況となります。

 

ラスト実況を間近に控えた

加藤さんにインタビュー。

 

プロのアナウンサーでも

実況の専門家でもない加藤さんが

どのようにしてGPEの実況を

担当することになったのか。

 

ビリヤードの試合を実況する

醍醐味や難しさとは。

実況者という立場から見た

ビリヤードとGPEの魅力とは、など、

16年分の記憶と思いを

たっぷりとお聞きしました。

 

まずは前編をどうぞ。

 

※後編はこちら

 

ーーーーーー

 

――11月10日(日)の『GPE-6』が“なおるだ”こと加藤さんのラスト実況です。長年お疲れさまでした。なぜ卒業することにしたのでしょうか?

 

加藤:一言で言えば、疲れました(笑)。「ビリヤードを盛り上げたい」というモチベーションでずっとやってこれたんですけど、年を重ねて体力的にも疲れを感じるようになりましたし、昔のようなフレッシュさもなくなったと思います。僕は普通のサラリーマンで、GPEのある週は日曜日も丸1日働いているような感覚だったので、単純にしんどい時もありました。それと、そろそろ自分に代わる人が出てきてくれた方がGPEにとって良いのではと思うようになりました。自分以外にやる気のある方に引き継いだ方がいいのかなという心境です。

 

――最後の実況を目前に控えた今はどんな気持ちですか?

 

加藤:今年の頭に辞めることを決めてから、毎回実況をする度に「あと◯回で終わりか」ぐらいの感じでしたけど、「次が最後」となるとさすがにちょっとさみしさがあります。でも、完全にビリヤードから離れるということではないし、レギュラーでJPBA(GPE)の実況をやることはなくなりますけど、もし不定期でそういうお話があればどこかで実況をさせてもらうこともあると思います。

 

1枚目:2011年『GPE-3』。解説(左から):井上浩平、照屋勝司

2:2012年『GPE-5』。松田渉、塙圭介

3:2013年『GPE-3』。藤原貴志、菅原利幸

 

 

――今日は加藤さんの実況ライフをさかのぼってお聞きします。いつ、どの試合でデビューしましたか?

 

加藤:これがね、辞めることを決めてから色々な人に聞かれるんですけど、正確にはわからなくて、たぶん2008年のGPE-1です。当時は今みたいにGPEのライブ配信がなくて、会場に来たお客さんだけが楽しめるコンテンツとして実況解説がありました。お客さんにラジオ受信機を貸し出して、それで場内FMで実況解説を聴いていただいてました(※今も行われている)。

 

――あの頃は場内FMだけでしたね。2008年というと『東日本男子プロツアー』が『GPE』に生まれ変わって6年目。その数年後にUSTREAM(ユーストリーム)でライブ配信が始まり、その後YouTube Liveになるという。

 

加藤:そう、自分は喋るだけだったので、場内FMだけだった時から、いつUSTREAMとYouTubeに移って行ったかはよく覚えてないです。たぶんライブ配信に実況解説音声を乗せるようになってから10年経つか経たないかぐらいじゃないかなと思います。なにせ昔の配信映像のアーカイブがないのでわかりません。

 

――そもそもどういう経緯でGPE実況者になったんでしょうか。

 

加藤:割とヌルッとした感じで決まったから、それもあまりよく覚えてないんですけど(笑)、前任の方が辞めることになり、GPE側が後任を探していて、その頃よくプロの応援や観戦で会場に行っていた僕にお声が掛かったという流れです。

 

――前任者と言えば、加藤さんも私(BD)も影響を受けた進藤裕一郎さん(現在は灰田姓。ビリヤードブログの草分け的存在『Dame de motomoto』の管理者)ですね。

 

加藤:そうです。場内FMラジオ実況解説は2003年のGPE立ち上げ当時からやっていて、はじめは進藤さんが実況していました。その頃僕は「高野智央応援団(自称)」として、アマ時代からトモヲ(高野プロ)を応援していて、トモヲがプロ入りしてからは出ている試合のほぼ全てを観に行っていました。たとえトモヲが予選落ちしてもGPEの決勝日を観に行ってましたし、色んなプロを応援してました。それで、GPEの総合プロデューサーだった銘苅朝樹さん(当時プロ)ともお話しさせてもらってました。

 

で、進藤さんが実況を辞めることになった時に、銘苅さんが当時の関東ブロック長の横田英樹さんに「いつも会場にいる加藤くんは熱心に楽しそうに試合を観ているし、喋れそうだから、後任としてお願いしてみませんか」と提案してくれて。横田さんは当時僕のことをそんなに知らなかったと思うんですけど、「じゃあ、そうしますか」と。それでオファーをいただいたのが2007年の途中で、2008年の第1戦から実況することになった……と思います。

 

――オファーが来た時、ポジティブに受け止めましたか?

 

加藤:「楽しそうだな。未経験だけどできるんじゃないかな」って思ってました。それにGPE側も困っていた状況だったから、少しでも力になれるならという気持ちでお引き受けしました。

 

――実況初回のことは覚えていますか?

 

加藤:当然緊張はしたんですけど、割とすんなりいけたと思うし、楽しかったですね。基本的に人が好きで会話が好きというのもありましたし、小さい頃から野球、ゴルフ、テニスとかスポーツ全般の中継を見るのが好きで、特に実況者の喋りや解説者とのやり取りを聴くのが好きでした。野球中継とかは「今日の実況は誰だ?」なんて意識してたし、変わってたのかもしれません(笑)。昔からスポーツの見方が実況者目線っぽかったところはあったと思います。

 

――まさに適任。

 

加藤:実況ってただ喋るだけじゃなくて、そこで起きていることを見ながら、解説者とやり取りしながら、いっぱい考えながら喋るじゃないですか。それが上手く行った時の満足度というか快感みたいなのは初めからありました。ビリヤードをプレーしていても、一瞬のひらめきで自分が考えた通りに2、3球上手いことこなせたらすごく楽しいですよね。あれと同じ感覚です。だから、当時は丸1日実況をしても楽しさや充足感が上回っていて、あまり疲れを感じてなかったですね。

 

――そこから今に至るまでGPEで109大会。それぞれ基本的にベスト8・準決勝・決勝戦の3ラウンド実況していたので、単純計算で327試合は実況しています。他にもJPBAのプロ大会やアマチュア公式大会でも実況していましたね。

 

加藤:そうですね。JPBAの『グランプリウエスト(GPW)』、『関東オープン』、『全日本女子プロツアー』、それからアマチュアのKPBA(神奈川)の『東日本神奈川10ボール』、CUE’Sさんのイベント(JPBA東西対抗)などでも実況させてもらいました。

 

1:試合の合間に選手のデータをチェック。2014年『GPE-4』

2:実況席の設営も自ら行う。2015年『GPE-3』

3:おそらくGPE立ち上げ当初(2003年)から今も使われている場内FM用のラジオ受信機。この画像は2016年『GPE-1』

4:BDの記憶の限りでは2010年前後から2017年までがUSTREAM(当時隆盛を誇ったライブ配信用ソフトウェア)時代。2018年からYouTubeライブに移行。この画像は2016年『GPE-7』

 

 

――どんなことを心掛けて実況に臨んでいますか? 

 

加藤:時期によって違ってました。初期の場内FMだけだった頃は、聴いているのはほぼ全員がビリヤードファンだったので、どちらかと言えばコアで専門的なことを解説者から聞き出しつつ、一方で各選手の素の一面を紹介したりしてました。

 

――当時はプレイヤーの特徴や個性を粒立てて、実況解説で軽くイジッたりもしてましたね。

 

加藤:ダラダラ淡々と喋るよりも、聴いててちょっとクスッとなるようなところも意識してました。それが来場者に楽しんでもらえる現場限定の放送だと思っていたので。その後、ライブ配信に実況解説の音声が乗るようになったあたりからは、コアな話もありつつ、意識的に目線を下げて、ビギナー、C~B級の人にもわかりやすい表現や言葉を選びながら喋るようにしてました。抽象的な言い回しはなるべく噛み砕いて伝えたり。

 

――加藤さんは「このポケット」「そこのクッション」という言い方は極力避けていました。解説のプロ選手がそんな言い方をした時はすぐ補足していて。

 

加藤:そこを拾っていただいてありがとうございます(笑)。解説の方々は皆さんビリヤードのプロプレイヤーですし、固定カメラの映像をモニターで見ながら喋っているので、普通に喋ると「こっちのコーナー」とか「右上のポケット」という言い方になってしまいます。でも、ライブ配信を見ている人には伝わりにくいことがあるので、そこはフォローするようにしてました。単純にポケットにアルファベットを振ってくれてたらいいんですけどね、A、B、C、D、E、Fって(笑)。

 

――あとは、選手のGPEでの戦績や直近の活躍なども挟み込んでいましたね。

 

加藤:なるべくデータは出していこうと心掛けてました。データがあることでスポーツ中継っぽくなるというか。アメリカでスポーツ中継があれだけ楽しまれている背景には、やっぱりアメリカ人ってデータが好きで、ファンも視聴者もデータとともに盛り上がっているというのが大きいと思います。ビリヤードはまだまだデータが貯まってないから、シュート率までは出せないんだけど、せめて選手の過去の成績ぐらいはパッと言えるように心掛けてました。「このプロは◯回決勝戦を戦ってますが、まだ一度も優勝できていません」っていうバックボーンを伝えられた方がドラマにもなるので。実況前の準備としてはそれが一番大事なところだったかもしれないです。

 

――事前に「この試合ではこれを喋ろう」というようなトピックや、その時々の解説者に聞きたいことなども考えていましたか?

 

加藤:「こういう話をしようかな」っていうネタは何個か仕込んでました。でも、10~20用意しても、実際に喋れるのは2~3つぐらいですけどね。

 

1:2014年『GPE-4』。鳴海大蔵、松村学

2:2015年『GPE-2』。(岡田將輝)、栗林達、高野智央

3:2016年『GPE-1』。横田英樹、鈴木清司

4:2017年『GPE-1』。東條紘典、有田秀彰

 

 

――実況者として楽しさを感じる瞬間とは?

 

加藤:なんだろう……。とにかく会場のお客さんや視聴者に「聴いてましたよ」っていう反応をもらえるだけで「楽しい」になってましたね。自分とは大きく異なる意見やネガディブな反応を見聞きするとメンタルやられそうになることもあるんだけど、基本的にはまず「聴いてくれてたんだ」っていう嬉しさがあります。その上で「あの場面のやり取りが良かった」とか「あの言い回しが面白かった」って言われたら、「こういうトークが喜ばれるんだ」と勉強になるし、「上手く言えてよかったな」とやり甲斐にもなります。今はネガティブな意見を聞いても自分なりの芯があるので、「そういう意見も出てくるよね」っていう程度で、なるべく取り込むようにはしています。

 

――いちビリヤードファンとして、プロと一緒に試合を見ながら喋る楽しさみたいなものは?

 

加藤:もちろんそれもあります。単純にプロの方々との掛け合いは楽しかったです。実況という立場にいられたおかげで普段会わないプロと話したり、たくさんのプロと交流を持てました。そうやって関係を築けたおかげで、解説のプロの方々の面白い一面も引き出せたと思います。例えば、キヨシ師匠(鈴木清司プロ)。キヨシさんのあの人間性をお伝えできたことは「ナイス、俺」と思ってます(笑)。今はSNSとかでプロ自ら発信できますけど、当時はまだプロのパーソナリティはそこまで知られてませんでした。GPEの実況解説でそれをお届けできたプロが結構いると思います。

 

――反対に、ビリヤード実況の難しさは?

 

加藤:やっぱり「目線」の設定が難しいです。聴いてる人全員に満足してもらえる実況はできないんだなというのはよくわかりました。どの層に向けて喋ればいいのか悩んだこともありましたね。

 

――大きく分けると、ビリヤードをわかってる人向けにするのか、ビギナー向けにするのか、ですか?

 

加藤:そうです。例えば、「この球は逆ヒネリで割れないように押して」とか「ここは撞点は真ん中で良いけど、もらいヒネリがあるから」みたいな言い方も自然と出てきますよね。聴いている人の大半はそれでわかると思います。実際ライブ配信を1,000人が見ていたとしたら、たぶん990人ぐらいはビリヤード経験者。だから、そこに向けて実況すればいいんでしょうし、それもできるんですけど、僕はやっぱりたまたま観に来た10人のビギナーが、一瞬でもいいから「ビリヤード、おもしろっ」「何このわーわー騒ぎながらやってる感じ、楽しそう」って思ってくれる方が興味を持ってもらえるんじゃないかなと思ってます。だから、コアな人に嫌われてもいいから、ビギナーさんに向いて喋りたいという気持ちは大事にしてました。それを忘れている時もよくあるんですけど(笑)。 

 

――いつもGPEの実況からその姿勢は感じていました。

 

加藤:例えば、大学生がたまたま友達と4、5人でビリヤードをしに行って「ビリヤード、面白いな」ってなって、「ビリヤード」でYouTube検索をしてくれることもあると思います。それで「なんかビリヤードの試合がある 」とライブ配信やアーカイブを観に来てくれた時に、「全然何言ってんだかわからない」ってなるのは嫌なんです。だから、一時期かなり意図的にエンジョイ側の実況に振っていた時もあります。「こんな球が入るんですか!」とか「なに今のポジション、すごくないですか!?」とか、とにかく「ビリヤードって楽しいもんなんだよ」を伝えたくて。 

 

(了)

 

前編はここまで。

近日公開の後編に続きます。

 

※後編はこちら

 

ーーーーーー

 

加藤直哉Profile:

ニックネーム:なおるだ

生年月日:1975年4月4日

出身・在住:新潟県/神奈川県

職業:会社員

ビリヤード歴とクラス:約25年(実況を始めてからはほとんど撞いていない)/Aクラス

使用キュー:オリビエ

好きな海外ビリヤードプレイヤー:トーステン・ホーマン(ドイツ)

 

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