24歳にして
『USオープン』の
3大会を同一年度(2024年)に制し、
プールビリヤード界の
『グランドスラム』を達成した
フェダー・ゴースト
(ロシア出身・アメリカ在住)。
この偉業は彼の名前をもじって
“ゴーストスラム”とも呼ばれています。
ゴーストは2019年に1度目の
『9ボール世界選手権』制覇。
その後、大小様々なタイトルを
獲得していましたが、
祖国(ロシア)の事情で
2022年の大半は国際大会参加不可に。
時同じくしてゴーストはアメリカへ移住。
2023年以降はAIN=中立選手
あるいはアメリカ選手として
ハイアベレージな活躍を見せ続けています。
そんなゴーストに、
先週プエルトリコのトーナメント会場
(『プエルトリコオープン』
『チャレンジオブチャンピオンズ』
『ミックスダブルス』
『女子10ボール世界選手権』)で、
著者のK. MORI氏がインタビュー。
今年の好成績の背景と
現在使用中の道具について。
そして今後の展望を語ってもらいました。
ーーーーーー
――今年は3つの大きなイベントで優勝を果たしました。「グランドスラム」ならぬ「ゴーストスラム」と呼ばれていますね。今年これほど素晴らしい成績を残せた背景とは? 昨年またはそれ以前と比べて何が変わったのでしょうか?
G:やっと試合に集中できる環境が整ったというのが一番かな。アメリカに移住してしばらくはビザの関係でアメリカの外に出られず、マッチルーム(WNT.)のイベントにもほとんど出られなかった上に、ロシアの戦争の影響で出場不可になった試合もあったから、アメリカ中を色々回ってアマチュア向けのトーナメントなんかにも出ていたんだ。その後やっとプロトーナメントに出られるようになった時には、しばらく学校を休んでいた生徒が久しぶりに教室に戻った時のような感じで違和感もあったし、皆が当たり前に知っていることを知らなかったり、なじむのに時間がかかったね。
その後、以前のキューテックから新しいスポンサーの『トリプル60』(Triple Sixty)に移って道具が全て変わった。それからマッチルームの試合にはアメリカ人選手として出られるようになって、昨年(2023年)の『モスコー二カップ』には初めてアメリカチームで参加したりと、本当に色々大きな変化がこの数年の間に起こったんだ。
去年と今年で大きく違うのは、アメリカにしっかりと自分の居場所(家)を構えて落ち着いて、あまりプレッシャーを感じることなくトーナメントに出られるようになったことかな。自分自身も成熟してきているし、理解が深まった気がするよ。道具についても同様で、『トリプル60』との契約内容の一つに、僕自身のキューの開発とファンにも使ってもらえる新しいキューの開発があるんだ。たくさんテストを繰り返しているんだけど、シャフト一つとってもすごい数のオプションがあって、それぞれを試すことによって道具に対する理解も深くなったね。
――今はそのたくさんのプロトタイプをテストされているということですが、あなたにとって理想的なキューもしくはシャフトとは?
G:シャフトで言えば、(ストレート部が)長いテーパーを備えた全長の長いシャフト。今30インチのものを使っているんだ(※一般的なシャフトは29インチ)。シャフトの太さに関しては今色々テストしているけど、その人の好みにもよるんじゃないかと思う。僕の場合、指が細くて長いから太めが良かったんだけど、そうすると(ヒネった時の)トビも増えるから、ちょうどよいバランスを見極めるのに苦労しているよ。今のところ、先端径12.25~12.60ぐらい/30インチ/テーパー長め、あたりがいい感じかな。カーボンの厚みやシャフトのウエイトバランスとかも変えることができるから、組み合わせに際限がないんだ。テストには本当に時間がかかるよ。一つのことが気に入らなくて変えようとしても、関連する3つぐらいのことを同時に変えないといけなかったりして終わりが見えないね。
――でも、どこかの段階で「これ」というのを決めないといけないんですよね?
G:その通り。開発チームの人達には嫌われているんじゃないかな(笑)。でも、確実に前進しているし、もうすぐきっと良いものができると思うよ。
――先ほど試合を見ていて気が付いたのですが、バットエンドに短いエクステンションを付けたり外したりしていましたよね? 手球に届かないから付けるという感じでも無かったように見受けられたのですが。
G:あのエクステンションは手球に届かせるためじゃなくて、キューバランスを変えるためなんだ。特にドローショットや大きなストロークが必要な時に付けている。それ以外のショットでは短いエクステンションがない方が良い。他の人にこのセッティングを勧めるかと聞かれたら勧めないね。特にショットクロック(時間制限)の入ってる試合では、付けるか外すかの余計な判断に時間を使うし、気を散らす原因にもなるからね。ただ、今年このやり方で2度優勝しているし、自分には合っていると思うよ。
――ブレイクキューのグリップもちょっと特殊ですよね。何を使っているんですか?
G:テニスやゴルフのグリップ用テープを使っているんだ。以前はプレーキューにも巻いていたけど、今使っているプレーキューのグリップ部はレザーで普通のものより長く、バットエンドまで覆っているから必要がない。ブレイクキューはまだテニス用のグリップテープを使っているけど、ゴルフ用のものに変える予定なんだ。なぜかと言うと、僕はすごく汗っかきで手がすぐベタつくから。特にプレッシャーの掛かる試合では、汗でキューが滑ったりしてほしくないからね。
――先ほどの試合の時、キューを4本手元に置いてましたよね。プレー、ブレイク、ジャンプ……あと一つは?
G:あれは軽めのブレイクキューをロングジャンプ用にしているんだ(筆者注:別の試合では長めのジャンプキューを4本目に置いていて、その後の試合ではさらに多く、5本のキューを並べていた)
――タップは今何を使っていますか?
G:僕はプレイヤーだけど、ビジネスマンとしても成功したいと思っていて、タップも自分で色々テストしているところ。かなり時間がかかりそうだけどね。今付けているのはプレデターのビクトリーMで、先週はZANを使っていたし、2週間前はまた別のタップ、3週間前は自分のブランドのプロトタイプを使っていたよ。来週はまた別のタップを付けているかもね。来年にはゴーストタップが市場に出るかもしれないよ。
――トーナメント中や試合中、自分が良いパフォーマンスを出せていないと気付いた時、どうやって修正していますか?
G:それはちょうど今年学んだ事なんだけど、優勝するためにベストな状態である必要は必ずしもないということなんだ。優勝した全てのトーナメントで好調だった訳ではないからね。自分が優勝できる力があると信じることは重要だと思うけど、「その時に一番確率が高いことをやるのが良い」と思っている。適切なタイミングで攻めに出て、適切なタイミングでしっかり守る。攻撃一辺倒ではなく頭脳的なプレーが大事だと思う。怖がって攻めないのではなく、自分に何が出来て何が出来ないのか、確率を元にしっかり判断することが大事だね。それ以外に、運やラッキーロールも優勝できるかどうかに関わってくる。もちろんメンタルも重要で、決して諦めないことや勝ちに行く気持ちも大事だと思うよ。あとは、自分の置かれている状況に気付いて、その時に必要なことに集中することかな。
――メンタルという言葉が出ましたが、メンタルトレーニングはしていますか?
G:している。試合に負ければ何が悪かったんだろうと考え、勝った時はあまり考えなかったり(笑)。心理カウンセラーとも話をするし。ヨハン・ライシングという人がいるんだけど、僕にとって彼はプールのコーチと言うよりも、メンタルのトレーナーと言った方が良いかもしれない。彼の奥さんは元オリンピアンで、ヨハン自身スポーツマンでもあり、すごくタフなメンタリティを持っている。何か困ったり悩んだりした時には彼に助言を求めているんだ。
(筆者注:ヨハン・ライシングはオランダ出身のビリヤードコーチで、オランダのアレックス・レリーやニールス・フェイエンといったトップ選手の育成に貢献。近年ではジャスミンとアルビンのオーシャン姉弟への指導でも知られている。今年の『ワールドプールマスターズ』では、会場に赴いてゴーストのそばに控えていた。彼の実績として特に有名なのは『モスコーニカップ』で、ヨーロッパで7回・アメリカで3回コーチ(監督)を務め、両チームで優勝を果たしている。特にアメリカにとっては長い低迷期を脱する勝利となった。ライシングは選手達のトレーニングプログラムを強化し、戦略的な指導でチームを一体化させる能力に長けており、選手達からも高く評価されている)
――ミスからどう学んでいますか?
G:ミスにも色々あるからね。気が散ることからミスが起こったり、プレッシャーによって起こることもある。たいていはちょっと違和感があったり、少し無理をしているショットの時に起こるから、試合後にビデオを見てアナライズして、家に帰って練習し、問題なくできるレベルまで持って行くことかな。そうやって少しでも上を目指しているよ。
――ちょっと早いですが、来年の目標は?
G:まず、今年の目標の一つがまだ残っている。『モスコー二カップ』でアメリカを勝利に導くことだ。注目度も高いから、それが今年のメインゴールと言っても良いかもしれない。アメリカは昨年までの4年間苦戦しているから、今年こそなんとか勝ちたいね。
そして来年は……大変だと思うな。今年これだけ良かっただけにモチベーションを保つのも大変だし、疲れもある。とにかく『モスコー二カップ』が終わったらゆっくり休養して、それから来年のスケジュールを考えるかな。今年はちょっと忙しく飛び回りすぎたし、来年はもう少し出場する大会を絞っても良いかもしれない……といつも言ってるけど、結局気が変わって色々出るかもしれない(笑)。断るのが難しいものもあるし……まあ、新年を迎える前には自分の目標を定めたいね。
――『モスコー二カップ』以外で優勝したい大会は?
G:「これは絶対に獲りたい」というのはもうないかなぁ。でも、全てのメジャー大会や世界大会を獲りたいよ。メジャーな大会は長い歴史があったりと、プレイヤーにとってそこでの優勝は意味のあることだからね。
――今のスポンサーについて教えて下さい。
G:さっき言った『トリプル60』と、中国のテーブルメーカーの『星爵』(XingJue)と、アパレルの『JAM UP』。あと、僕(ゴースト個人ブランド)のマーチャンダイズは今ここで買えるし、12月には新しいサイトもオープン予定なので、日本からも注文よろしく!
――お忙しい中インタビューに答えていただき、ありがとうございました。
(筆者後記:余談ですが、ゴーストとパートナーのクリスティーナ・トゥカチは今年日本行きを検討していましたが、実現には至りませんでした。しかし、トランジットで日本の空港に立ち寄る機会があり、その際に2人で日本のお菓子を持ちきれないほど買ったそうです)
(了)
Fedor Gorst フェダー・ゴースト
2000年5月31日生まれ
ロシア出身/アメリカ在住
※プレイヤー国籍はWNT.系大会では「アメリカ」、WPA系大会では「AIN=中立選手」
2017年『世界ジュニア』優勝
2019年&2024年『9ボール世界選手権』優勝
2022年&2023年『ダービーシティクラシック』総合優勝
2024年『ワールドプールマスターズ』優勝
2024年『USオープン』優勝
他、欧州・アメリカでタイトル多数
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