オレの名はDetective K。
ビリヤードキューの調査を引き受ける探偵だ。
2024年夏以降、南国のビーチで
長めのバカンスを取っていた。
都会に戻ってきたら、仕事はゼロ。
ま、探偵業が休業状態なのは、
平和な証拠だがな。
ピコン!
お? BDからのメッセージだ。
久しぶりだな。
『K、生きていましたか?』
ああ、平和ボケしているが生きているぜ。
『最後のレポートから
半年以上経ちましたね。』
おかげで気楽な生活だ。
財布はカラッポだが。
『そこで調査依頼です。
カスタムキューは、メーカーが
製作したままの状態が良いと思いますか?』
ん? それは、ケースバイケースだ。
『そこです!
キューは、塗装やグリップが
劣化していてもオリジナルのままが良いのか、
リペアやリフィニッシュにより
新品同様にした方が良いのか、
価値の面から調べてください。』
久しぶりの依頼にしてはハードル高めだな。
よし分かった。
オレはキュー探偵K。
新たなシーズンの始まりだ。
その依頼、引き受けた!
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キューの「オリジナル」とは何か?
ここでは、
「完成時のままで、タップ交換を除き、
パーツやシャフト交換などの
手が加えられていない状態」
とおおざっぱに定義する。
プレーに使用していても、
製作当時のシャフトであれば
「オリジナル」と呼んでよいだろう。
オリジナルには、
新品または新品同様のキューも含まれる。
試し撞き程度だけならば、
「ミント」(mint)。
一球たりとも撞いていないものは、
チョークをタップに塗っていないことから
「アンチョークド」(unchalked)
と呼ばれる。
******
キューは使い込まれるうちに、
シャフトは手垢やチョークで黒ずみ、
バットには凹みができ、
グリップ・キュー尻ゴム・塗装の劣化が進む。
ケースに保管した状態でも
経年変化は避けられない。
数年ぶりにケースから取り出すキューは、
その瞬間とても緊張する(苦笑)。
ケースのインナーに触れていた
塗装表面の凸凹、
バンパーゴムが加水分解してベタベタ、
シャフトからタップが外れている等々、
経験したトラブルは数知れない。
******
カスタムキューの創成期、
1960年代に製作されたキューならば、
現在60年以上が経過。
ジナやタッド、
バラブシュカやパラダイスなど、
製作当時のオリジナルを保ったままの
個体はめったにお目にかかれない。
では、製作後数十年経過したキューは、
果たして文化財保護、あるいは
美術品修復という文脈で
メンテナンスされ、評価すべきなのか?
という問題が出てくる。
プレーに支障が出るほど
経年劣化したオリジナルと、
プレイヤー自身やリペア業者が
手を入れてプレー可能な状態とは、
どちらの価値が高いのか?
という問いかけだ。
まぁ、価値基準は人それぞれなのだが、
大きく分ければコレクター目線か
プレイヤー目線で変わってくる。
まずそのあたりを説明してゆこう。
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純粋なコレクターは
キューを「資産」と捉え、
他人に譲渡する際は
購入時以上の価格となるよう、
コンディションの維持に力を注ぐ。
「ミントコンディション」
「アンチョークド」を最上とする
「オリジナル」に価値を見出しているわけだ。
およそ2年に1度アメリカで開かれている
『インターナショナル・キュー・コレクターズ・ショー』
(ICCS)にはこの手のコレクター
(ガチコレクターとも言うが)が多く集う。
そこで話を聞くと、極論すれば
キューを使用すること自体が資産価値を
減じる行為と考えているフシがある。
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一方プレイヤーにとって、
キューは大切な道具。
使えないキューには価値を見出さない。
キューの特性やクセを知るため、
キューを手に入れた直後から
撞き込むのが普通だろう。
その過程で不満を感じ、
自分好みに手を加えるプレイヤーもいる。
タップを替えるだけでなく、
グリップ交換や重さの変更、
シャフト交換はよくあること。
今ではエクステンションを
装着可能にする改造も流行している。
プレイヤーが使いやすさを
追求すればするほど
「オリジナル」は失われるが、
古く貴重なカスタムキューであっても、
むしろ高価だからこそ
徹底的に使い倒す傾向が強い。
自分の思いのまま、玉を操れる
道具であることが一番の価値なのだ。
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そして、コレクターとプレイヤーの中間派。
「様々なキューを使ってみたい」という
好奇心・探求心から次々とキューを購入。
打感や特性の違いを味わうため、
手元にあるキューが増えて
結果的にコレクションするタイプだ。
極力「オリジナル」を維持する傾向が強く、
改造は好まない。
手を加えるぐらいなら別のキューに
持ち替えた方が早いからだ。
所有するキューはどれも、
いつでもプレー可能な状態に保ち、
メインのプレーキューを
頻繁に替えるのもこのタイプ。
一本のキューを極めるより、
キューそれぞれの個性を見極めることに
価値を見出している。
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コレクター/プレイヤー/中間派。
それぞれの価値観は違っても、
撞くのが好きなのは一緒。
「キューはプレーの道具として健全であるべき」
という考えに異論はないだろう。
しかし、製作後10年以上経過すると、
バットの再塗装やグリップ交換、
シャフトクリーニングなどが
必要になってくる。
撞いた際にビビリ音が出るような
不具合を放置すれば、
プレーに支障をきたしてしまう。
気になることがあれば、
製作元のメーカーや、
リペアショップへ早めに相談した方が良い。
大手メーカーであれば
「ファクトリーリペア」、
つまり純正部品や素材による
修理が可能だが、一人で製作する
カスタムキューメーカーの場合は、
後継者がいない限り不可能。
リペアショップが代替素材を
用いるのはやむを得ない。
また、作者のサインや
エングレーヴィング、スクリムショーなど、
再塗装時に失われる可能性がある
デザインは、オリジナルのまま
残すのが困難なものがある。
ただしリペアは
完全に元通りに修復することではない。
正解がない答え探しのようなもので、
キューオーナーは任せきりにせず、
リペア方針をしっかり打合せることが大切だ。
オリジナルがある程度失われても良いのか、
費用がかかっても極力残すよう
手間をかけてもらうか、
あるいは現状維持か、
それを決めるのは持ち主の考え次第だ。
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もちろん、すでに製作を止めた
メーカーの「オリジナル」は、
それだけで価値があり、
ましてや「ミント」「アンチョークド」の
個体であればなおさら価値が高い
というのも異論はない。
しかしその価値を維持するため、
プレーに使わないとすれば、
玉を撞く道具としての価値は分からない。
「ミント」「アンチョークド」に
最上の価値を持つという考えには、
ある種の矛盾があるのだ。
キューを所有する目的が、
より高値で売却する投資のためだとしたら、
いつだれがプレーに使用するのか?
プレイヤーの信頼できる相棒になり得るのか?
ビリヤードのゲームやルールが
時代によって変わり、
キューに求められる
撞き味や特性が移り行く中、
過去のキューがマッチするのかどうか、
撞いてみないとその価値は分からない。
オレとしては、
古いキューや超絶インレイが施された
キューがどんなに高価で、
どれだけレアであったとしても、
プレーして、その打感や特性を
味わった上で大切すべきと思う。
我々はアンティークコレクターではないのだ。
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プレーに使用されないまま
大切に保管されたキュー。
あれこれ手を加えて、
そのプレイヤーにとって
他に代えがたい存在となったキュー。
どちらも価値ある存在で
あることに変わらない。
ビリヤードを愛する気持ちさえあれば、
オリジナルにこだわらずとも、
適切なメンテナンスにより、
一生の道具として残り続けるのだ。
たとえオーナーが代わっても、
大切に扱われたキューから、
道具を慈しみ大切にする心は
受け継がれるもの。
単なる道具以上の、苦楽を共にし、
時には人格を持つかのような
存在であること自体が、
キューが持つ真の価値だとオレは思う。
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オレのキュー好きは、これからも健在だぜ。
よろしくな、BD!
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