北谷好宏・14年ぶりの海外遠征

今また世界へ。ヨーロッパ勢の強さとは? 日本勢は戦える?

2022年12月

 

 

カリブ海の島、プエルトリコで

初めて行われた

プール(ポケットビリヤード)の

2つの国際大会、

プエルトリコオープン』(10ボール)、

8ボール世界選手権』。

 

現地に向かった7名の日本選手の中に、

北谷好宏の姿もあった。

 

14年ぶりの海外遠征が、

初めての国での約2週間の滞在。

そして戦績は決して誇れるものではなかった。

 

しかし、北谷はしみじみと実感を込めて、

「楽しかった。行って良かった」と

繰り返した。

 

プエルトリコで見定めた自身の、

そして日本勢の現在地とは?

 

Photo : 森覺摩(Kakuma Mori 2022) 

 

久しぶりに行って勝てる訳ないとわかってました


 

――長旅お疲れ様でした。

 

北谷:楽しかったけど遠かったー(笑)。出発してから14日目に帰国したんですけど、そのうち60時間ぐらい移動にかかってます。

 

――14年ぶりの海外遠征。準備から大変だったと思います。

 

北谷:「プエルトリコってどこ?」からのスタート(笑)。エントリー関連は自分でやりましたけど、ホテルや飛行機の手配などは一緒に行った栗林(達)プロがやってくれて本当に助かりました。パスポートは2年ぐらい前に新しく作り直してました。その頃海外に行くつもりだったんで。結局当時はコロナがあったんで保留しましたけど。

 

――今回このタイミングで海外遠征に出たのは?

 

北谷:単純に言うと、コロナがだいぶ落ち着いてきたのと、『8ボール世界選手権』の出場枠をいただけたから。それと、来年(2023年)から本腰入れて海外に行こうと思ってたんですけど、10年以上海外で撞いてないヤツが久しぶりに行っていきなり勝てる訳ないっていうのはわかってました。もちろん行く以上は一つでも多く勝ちたいと思ってましたけど、「今から海外の感覚に慣れておきたい」という気持ちがまず先にありました。

 

――約2週間のプエルトリコ滞在。楽しめましたか?

 

北谷:楽しかった。アパートメントホテルを借りて、栗林プロと赤狩山(幸男)プロとシェアしたんですけど、まあまあ良い物件で快適に過ごせました。費用的にもホテルを取るより安かったし、栗林プロは年下なので気を使ってたと思いますが(笑)、3人で気兼ねなく色々な話をしながら過ごせたし、ちゃんと睡眠も取れました。難点を言うなら、シャワーの水圧が弱かったことと、ガラス窓が付いてなくて鉄製のブラインドみたいなものを開けるか閉めるかしか選択肢がなかったことかな。そんな窓だから防音性はゼロで、夜、近くのコンビニみたいなところにたむろしている若者たちの酒盛りの声が丸聞こえでした(笑)。

 

↑北谷プロ撮影画像

こんな素晴らしい会場で試合ができるのか


 

――食事は赤狩山プロが作っていたそうですね。

 

北谷:そうです。家から10分かからないところにスーパーがあって、そこで食材を調達して、赤狩山プロが毎日色々なメニューを作ってくれました。それがすごく美味しくて。行く前は食事と体調管理が不安だったんですけど、おかげさまで良い食生活を送れて、体調も良く、精神的にもリラックスできました。本当に栗林プロと赤狩山プロには感謝しています。僕は食器を洗うぐらいしかやることがなかったです(笑)。

 

――家から会場までは?

 

北谷:歩いて15分ぐらい。治安も良くて夜でも一人で歩けます。

 

――プエルトリココンベンションセンターは素晴らしい会場でしたね。

 

北谷:広くてきれいで最高でした。「こんな素晴らしい会場で試合ができるのか」と。行く前から「TVテーブルで撞けたらいいな」って思ってたんですけど、運良く『8ボール世界選手権』のC・ビアド戦でそれも実現できました。

 

――テーブルコンディションはどうでしたか?(※テーブル、ラシャ、ボールなど、イクイップメントは全てプレデター社製)

 

北谷:撞きやすかったです。基本的にクッションが速い台が多かったけど、下手したら日本より撞きやすかったかもしれない。スロウが全然出ない感じと言えばいいかな。的球が(厚く)持って行かれなくて厚み通りに走ってくれる感じでしたね。だから、スキッドだけは仕方ないけど、それ以外は持って行かれてトバしたっていうのは全然なかったです。

 

このフォーマットは誰にでもチャンスがある


 

――今回、2大会でプレーしました。まず『プエルトリコOP』は勝ち→負け→負けでしたが、ご自身の感想は?

 

北谷:全体的にあまり地に足が着いてない感じで不完全燃焼感はありました。初戦のM・シュナイダー(スイス)戦は、「どんなんなるんやろ?」って全く予想も付かなかった割にはよく撞けた方かな。シュートアウトの練習も日本でしてから行ってたし、球を外すイメージはあんまりなかったですね(セットカウント1-1からのシュートアウトで勝利)。

 

――2戦目はアメリカのジュニアのJ・テイトに敗戦(0-2)。そして3戦目はアメリカの中堅プレイヤー、J・シーマンに敗戦(1-2)。

 

北谷:テイト戦はほんともったいなかったなと思います。なぜか集中できず、いつのまにかシュッと終わっちゃった感じで。シーマン戦は、テーブルは初戦と同じ台だったんだけど、夜9時スタートだったこともあってクッションがめちゃくちゃ出ててだいぶ気を使って撞いてました。それでもあれは僕が勝たないとダメな試合でしたね。自分のミスでセットカウント1-1にしてしまって、それを引きずったままシュートアウトに入って1ショット目を外しちゃった。その後僕は3回入れたけど相手はノーミス(4発成功)で上がられてしまいました。

 

――北谷プロはこの『USプロビリヤードシリーズ』に出るのは初めてで、【10ボール4ラック先取×2セット先取。1-1の場合はシュートアウト】というフォーマットも初めてでした。どうでしたか?

 

北谷:「誰でもチャンスあるな」と。最終的に優勝する人は知ってる名前になることが多いですけど、僕らでも上に行けるチャンスがあるフォーマットだなって。セットカウント1-1にしてシュートアウト勝負に持ち込めたら、格上選手にも勝てるチャンスがある。だから逆に、本当に上手い人たちからしたら「はーん?」って感じでしょうね。僕個人は色々な大会がある中ならこういうフォーマットの大会もありだと思います。

 

――あのシュートアウトはプロでも難しい球でしょうか?

 

北谷:プレッシャー次第ですね。「あと1球決めたら勝ち」みたいな場面になるとやっぱりプレッシャーがかかるんで、結構皆トバしてました。僕は延長戦まで行かんかったから、そこまで体験してみたかったなと思います(※互いに4ショットずつ撞いて同点だった場合、より手球を遠ざけた難しい配置でサドンデス戦を行う)。

 

僕の勝負心が全然足りてないんだなと思わされた


 

――プエルトリコオープンが終わった段階での北谷プロの手応えは?

 

北谷:3試合だけで終わったから結果については何も言えないですけど、1試合目はそこそこ撞けたし、「まず1勝」は出来たのでなんとか最低限は出せたかなと思います。結局日本の試合と一緒で、負けた試合は相手どうこうじゃなく自分がバラバラになったから負けたって感覚なので、やっぱりまずは自分次第だなと。

 

――続けて『8ボール世界選手権』について。こちらも3試合して勝ち→負け→負けでした。

 

北谷:8ボールが結構好きなので楽しみでした。振り返るとよく撞けたと思えるところもあったし、「チャンスあるな」とも思えました。でも、「絶対に勝ってやる」という気持ちの強さとブレイクの完成度はだいぶ足りてなかったなと思います。最後のF・カンデラ(イタリア)戦は単純に僕の自滅やね(苦笑)。

 

――初戦のR・ゴメス(フィリピン)戦は勝利。

 

北谷:ゴメス戦は僕のブレイクが決まってて上手く取れたなと思うラックもありました。僕が7-0に出来るラックで失敗してすぐパッと追い掛けられたけど、相手もワールドクラスなんでそれも想定内というか、「どうせどこかで俺がやらかして、もつれるやろな」ぐらいに思ってたんでテンパりはしなかったです。でも、次のC・ビアド(フィリピン)戦は僕がテンパってたというか気圧されたというか……。

 

――相手から圧を感じた?

 

北谷:そう。プレー内容だけを見れば途中からはそこそこ戦えてたとは思います。でも、威圧されるような感じで、結構テンパってる状態で撞いてたなと。僕の勝負心が全然足りてないんだなと思わされました。「こいつに絶対勝ってやろう」とか「優勝してやる」っていう気持ちでいかないと相手の気迫に飲まれてしまう。

 

最後までやり抜いたから悔いはない。でも悔しい


 

――このビアド戦はTVテーブルでした。

 

北谷:行く前からTVテーブルでやりたいと思ってたんで、負けたけど今回の6試合の中で一番楽しかった。TVテーブルは30秒ショットクロック(時間制限)があるんですけど、30秒って結構早いんですよ。序盤はそれで焦って失敗してたけど、途中から少し掴めてきて思ったように撞けた時間帯がありました。それだけに序盤もたついたのはもったいなかったけど、それも経験だなと思ってます。

 

――今日本では8ボールの公式戦がなくて(※2012年までは『8ボールオープン』があった)、北谷プロも久しぶりに試合で撞いたと思いますが、技術的なカギはやはり「ブレイク」ですか?

 

北谷:そう。ブレイク、大事です。いっぱい練習して行ったけど、入らん時はずっと入らんもんやなと。ちょこちょこ手球をずらして打ったりしてたけど、あんまり効果なかった。ただの精神論になりますけど、たぶんそれも勝負心次第だったんじゃないかなと思います。「絶対ブレイクで入れてやる」とか、入らなくても「クッソ~、次は絶対」みたいな必死さがないからノーインが続くのかもしれない。終わってみるとそれはブレイクだけじゃなくてプレー全般に当てはまるかなと思います。

 

――プエルトリコで2大会を戦い終えて合計6戦2勝4敗という戦績でした。

 

北谷:「悔しい」がかなりありますね。あの舞台で今の自分の力は出せたと思うし、諦めることなく最後までやり抜いたので悔いはないです。でも、「まだまだ全然やれてたはずだ」って思う自分がいます。地元に帰って来て皆に「惜しかったですね」とねぎらいの言葉をかけていただいて、すごくありがたかったんですけど、内面では「いや~、惜しくなかったんですよ……」と(苦笑)。

 

日本のレベルは高い。精神面は海外勢に及ばない


 

――負けた後は会場で他選手の試合をたくさん見ていたようですね。

 

北谷:勉強したいと思ってたし、今回たくさんの方にサポートしてもらってプエルトリコまで行けたので、僕が見たことを何でも報告できるようにしたいと思って見てました。

 

――見て感じたこととは?

 

北谷:自分が負けといてなんですけど、「日本選手のレベルは高い。でも、精神面は海外選手に追い付いてない」ということです。国が違えばビリヤードも違うと思いますけど、日本選手がやっていることや細かい技術は世界的に見てもだいぶレベルが高いと思います。ただ、今の国際大会、今のフォーマットでその技術がいるのかいらんのかって言われたら、特に今勢いのあるヨーロッパ選手たちから見たら「?」なんじゃないかなと思います。

 

――なるほど。

 

北谷:今回、海外の有名どころの選手をじっくり見ましたけど、僕の目では、今の日本のトップ達も技術的に引けを取るところはないなと思いました。行く前からきっとそうだろうなと思ってたんですけど、僕も長いこと海外に出てないし、特に日本人は海外に行った人や海外に詳しい人の体験談や情報を真に受けて先入観が出来上がりやすくて、「あいつはヤバい」みたいな感じで話が大きく広まりやすいじゃないですか。そんな話を耳にするたびに「ほんとにそうなのかな?」とは思ってました。百聞は一見に如かずじゃないですけど、今回本当に自分の目で見て良かったなと思いました。

 

――今、日本で海外選手を見られる機会は減っています。

 

北谷:直接見られないから勝手な想像が膨らむし、先入観が出来てしまう。こんな僕が言うのも失礼だけど、技術的に見て僕が「すごい!」とまで思う海外選手はほとんどいなかったです。もちろん全体的なレベルは高いですけど、「そのぐらい日本のプロもやってるし」って思います。「神!」みたいな人はいなかった。それを自分で確かめられたのは良かったです。

 

自分のMAXを出せたらそんなに負けることはない


 

――では、技術で勝るかもしれない日本選手が海外でなかなか勝てないのは? やはり精神面なのでしょうか。

 

北谷:僕はそう思います。赤狩山プロ、大井(直幸)プロ、吉岡(正登)プロは海外に出続けていて海外選手と撞くのに慣れてるし、勝ったり負けたりだと思うんですけど、今の日本だと彼ら以外の多くは、僕も含めて精神面が追い付いてないなというのは感じました。日本人の方が技術的に秀でているのにそれが勝利に繋がらないのは、僕らは海外選手の機嫌をうかがうところがあるというか、リスペクトしすぎるというか。「俺が絶対勝つ」という気持ちになれない精神力の弱さもあると思います。「コイツら、殺ってやる」という雰囲気が出てないと、あっという間に相手に雰囲気出されて上から抑えつけられちゃうんですよ。

 

――今ヨーロッパ選手たちが国際大会で好成績を収めています。彼らはまず気持ちが強いということでしょうか。

 

北谷:そうだと思います。まず、まあよう球を入れます。そして「入れたらいいでしょ。次、見えてたらいいでしょ」みたいな割り切りも感じます。例えばポーランド選手たちがそういう印象ですね。ほんとに見えてたらなんでも入れるんじゃないかぐらい入れます。彼らに勝つなら、細かい技術力を磨くよりも精神修行を先にやった方がいいんじゃないかなって。滝に打たれるとか。いや、ほんとに(笑)。

 

――もしも北谷プロが彼らに劣らない精神力を手に入れたとしたら?

 

北谷:気持ちさえ負けなければ行けると思う。確率で言ったら負けることが多いと思うけど、今よりは全然やれると思う。「自分のMAXを出せたらそんなに負けることない」っていうのは行く前から思ってたし、それは海外選手たちを見た後も変わらず思ってます。先入観を取っ払って、ガチで球にだけ向かって戦う姿勢さえあれば全然やれると思ってます。

 

結局は『絶対に勝つ』という強い気持ちを持つこと


 

――北谷プロから見て、精神も技術も高いレベルで備えているヨーロッパ選手とは?

 

北谷:ジェイソン・ショウ(スコットランド。今の居住国はアメリカ)は「あっ、やばい」と思った。すごいパワーでした。僕が思ってる3倍ぐらいのスピードで的球(先球)が動いてた(笑)。それに加えて細かいことにも長けてるんですよね。14-1が上手い(※2022年に世界最高ハイラン記録樹立)というのも頷けるし、8ボールを見てても「いや~、コイツすげぇな」って。ジェイソン・ショウは今回生で見て一番すごいと思った選手です。他の選手たちはすごいというより「慣れてるな」って感じですね。

 

――それは8ボールに慣れてるということ?

 

北谷:いや、ああいう世界大会、ああいう場面に慣れてるなって。相手どうこうじゃなくて「俺の方が入れるし上手い」みたいな感じで、日頃から自分を出すのが当たり前という環境でやってるんだなと思いました。彼らの8ボールの取り方がめっちゃ上手いかと言ったらそんなことはない。でも、どうして上手く見えるかって言ったら、失敗した時のリカバリーが上手いし、それがリカバリーに見えないぐらい普通に撞いているから。あれを続けられると、相手はキューが重たくなったり空気が重たくなります。それが気圧されるということ。それでは勝てないなと。

 

――日本選手が海外で成績を挙げていくためには何をすれば良いと思いますか?

 

北谷:結局は「『絶対に勝つ』という強い気持ちを持つこと」になってしまうね。そしてそれは場数・場慣れからくるものが大きいから、まず海外に行き、「こういうものなんだな」っていうのを持ち帰って整理して、また行く。その繰り返ししかないと思います。それだけで勝てるかと言ったら難しいところもあるやろうけど、チャンスは絶対にある。だから、若い人は、いや若くなくても早く海外に行った方がいいと思います。もちろん皆が海外に行ける訳ではないけど、行ける環境にいる人は、センターショットを撞きまくるより一回海外に行く方がいい。

 

――今後、北谷プロ個人は何を磨いていきたいと思っていますか?

 

北谷:まずは入れる力です。ヨーロッパ選手たちみたいにいつでも何でも入れる力がまず基本になるなと。そして、あとどれぐらい第一線で撞けるかわからないけど、挑戦し続けて「俺はまだやれる」というところを見せたい気持ちは強いです。それでやっと若い人たちに「俺がやってるんだから、頑張ろうぜ」と言えるのかなと。

 

――わかりました。2023年も海外へ?

 

北谷:もう今すぐにでも行きたいですよ(笑)。もちろんお店(小倉『淡路』)があるし、ヒデ(弟の北谷英貴プロ)も海外に行きたいやろうし、全部は行けないですけど、なんとかしたいですね。今回もスポンサーさん、お店のお客さん、家族、皆にサポートしてもらって、「頑張ってきてね」「楽しんできてね」って言ってもらえて、ほんとに幸せもんだなって思いました。だから、今回もうちょっと勝ち進めたら良かったんやけど……。でも、僕はこんなにたくさん応援してもらってるんだと感じられただけでも幸せでした。皆さんの気持ちに結果で応えれるように来年も頑張ります。

 

(了)

 

 

Yoshihiro Kitatani

1975年12月19日生

JPBA34期生・福岡県在住

2003年&2019年『東海グランプリ』優勝

2013年『北陸オープン』優勝、

グランプリウエスト(GPW)では優勝8回

(『西日本男子プロツアー』時代含む)

他、入賞多数

『淡路』(福岡)所属

使用キュー:『AWJ』

使用タップ:KAMUI BLACK M

スポンサー:(株)SESSION

 

 

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