海外ビッグイベントの
本戦(ステージ2)挑戦2度目にして、
『10ボール世界選手権』の
表彰台(3位)まで勝ち進んだ吉岡正登。
大会を振り返る語り口には
うわついた様子は一切なく、
世界における自分の位置を
冷静に見極めていたのが印象的だった。
そして、自身初の
「JPBA年間ランキング1位」獲得。
「初めてのことなので確定するまでは
気になってました」と語るが、
1位が決まって湧いてきた感情は、
「嬉しさ4割・不安6割」。
2020年、プロ12年目のシーズンに向けて
吉岡は早くも気持ちを切り替えていた。
…………
Masato Yoshioka
1985年10月2日生
JPBA43期生(2009年プロ入り)
京都府出身・大阪府在住
2012年『8ボールオープン』優勝
2014年『全日本14-1』優勝
2019年『関西オープン』優勝
2019年『グランプリウエスト第2戦』優勝
2019年『10ボール世界選手権』3位
2019年JPBA年間統一ランキング1位
他、上位入賞多数
使用キューはPREDATOR
使用グローブはOWL
ビリヤードレッスン場『Poche』(ポッシュ。大阪)代表
スポンサー:日勝亭、ブランズウィック
JPAプロスタッフ
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――まず2019シーズン終盤のことから。11月の『全日本選手権』と12月の『9ボール世界選手権』はともに33位タイ(ベスト64敗退)でした。
「全日本選手権の33位タイは今までと同じぐらいの成績ですけど、今年はもっと上に行きたかったですね。『最低でもベスト16以上を』と思ってました。それは9ボール世界選手権も同じです。ランキング的にもこの2大会のポイントは大きいので」
――『全日本選手権』や『9ボール世界選手権』には良い状態で臨めていたのでしょうか。
「自分自身の状態は特別良かった訳でも悪かった訳でもないですが、ちゃんと調整は出来ていたと思います。全日本選手権の時の準備を100とするなら、9ボール世界選手権は70~80ぐらいでしたけどね。ただ……」
――なんでしょう。
「全日本選手権の前にストロークを少し変えたくなって、やってみたら練習ではある程度良い手応えがあったんでそのまま本番に臨んだんですけど、あまり気持ち良く撞けなかったです(苦笑)」
――そうだったんですね。
「ストロークについては毎年のように『このままで良いのかな』と悩んでいて、例年オフの時期(12月~1月にかけて)に見つめ直してました。よくプロ野球選手もシーズンオフやキャンプで投げ方や打ち方を調整してますよね。あんな感じです。でも、昨年末から今年の年初(2018年12月~2019年1月)にかけては何もやりませんでした。それでも2019年前半は良い結果が出ていたし、まあ、それならいいかなと。でも、後半になって、結果にこだわるならまだ出来ることがあるんじゃないかと思って」
――吉岡プロのストロークはダイナミックで大きいですよね。
「自分のやりやすさ優先で撞くとどうしても大きくなります。それをもう少し堅くまとめるというか。J・フィラー(ドイツ)みたいな感じですね。世界にはいろんなストロークのプレイヤーがいるけど、今一番安定してるのはフィラーだと思うし、あれが今のスタンダードだと思います。なので、ああいう短めのテイクバックや、ショートストローク的な振り方を取り入れてみようと。でも、本番では……という感じでした」
――この先も自己分析と修正を繰り返していくんでしょうね。
「今もまだ狭間にいるというかゆらいでます。やっぱり僕はS・バンボーニング(アメリカ)みたいなダイナミックなストロークが好きだし、自分に合っていると思うけど、もっと結果を求めるなら違うのかなとか。そういうふうに考えることはアマチュア時代からあって、結果だけを求めてよそ行きのビリヤードをしたこともあるし、その反動で自由にやりたくなったこともある。だから、この先ある程度固まってきたとしても、更に進化していくためには常に『自分を疑う』じゃないけど、試行錯誤が必要だなというのは感じています」
――『9ボール世界選手権』はどっちのストロークで撞いてたんですか?
「本来のストロークに戻しました。そのおかげで9ボール世界選手権ではストレスなくプレー出来ました。結果は33位タイですけど、自分としては思った以上によく撞けたなと思ってますし、今の自分の良い所も悪い所もはっきり出ていたと思います」
――このオフ、ストロークは?
「あまり悩まず、現状のままでいようと思ってます。でも、きっとちょこちょこ変えながらやっていくことになるんでしょうね(笑)」
――わかりました。そして、プロ11年目の今年(2019年)、初めて年間ランキング1位(JPBA2019年男子統一ランキング1位)を獲得しました。
「自分が一番驚いてます。そもそも2019年一発目の『関西オープン』(1月)で優勝できたことが驚きでしたね。優勝から離れすぎていて、約4年半ぶりだったので」
――年間1位になった喜びや達成感は?
「もちろん嬉しいですけど、『獲ったぞ』というのはないです。『ジャパンオープン』や『全日本選手権』みたいなビッグイベントで勝った訳じゃないですし、何度も1位になっている大井(直幸)プロが、今年は例年以上に海外戦が多かったので(※日程の重なる国内戦は欠場した)。でも、年間1位はアベレージが高くないと獲れないので、そういう意味では成長を感じますし、自信になりました」
――「嬉しい」だけではないのですね。
「嬉しさ4割、不安6割です。不安……というか、2020年はもっと頑張らないとなという思いが強いです。性格的なものでしょうけど、1位になった後の方が大変だろうなと思ってしまいます」
――1位を獲得できた要因とは?
「ポイントのことを言えば、西のグランプリ(『Grand Prix West』。今年は5戦開催)の年間成績が良かったこと。第5戦は予選落ち(17位タイ)でしたけど、第1戦から3位タイ・優勝・9位タイ・準優勝といい成績を残すことが出来て、西日本ブロックランキングで1位になりました。これが大きかったと思います。印象に残っているのは3月の『GPW-1』。あの時なぜか『勝てるな』という感じがしていたんです。結果、準決勝で負けて3位だったんですけど、なにか関西オープンからの勝ち運が続いているような、そんな感覚でプレーしていたのを覚えてます」
――ご自身で成長を実感した大会や時期はありますか?
「『USオープン』(4月)の直前に行った台湾修行ですかね。2泊3日の短いものでしたけど、一人で向こうに行って、何人かの台湾選手と撞きました。最後に柯秉漢(柯3兄弟の末弟)にUSオープンのフォーマットで相手をしてもらって、ボコボコにされたんですけど(笑)、良いテーブルコンディションで強い相手と真剣に撞けたことが、後々活きてきたと思います。その後、『アジア選手権』(7月)でまた台湾に行った時は張榮麟に数回撞いてもらって、負け越したけど1回勝てました。そういった経験から、『誰が相手でも勝負にはなるし、勝つチャンスもあるんだな』と実感できたことが大きかったですし、それが『10ボール世界選手権』の3位に繋がったと思います」
――吉岡プロは今年初めて、10ボール世界選手権(7月。3位)と9ボール世界選手権(12月。33位)、1年で2つの世界選手権の本戦(ステージ2)を撞きました。場所も雰囲気も大きく異なる2大会ですが、吉岡プロの意識も違っていたのでしょうか。
「全然違ってました。気持ち的に真逆というぐらい。10ボールの方は国内予選を通過したのがまずラッキーというか、自分で権利を獲れて良かったなというところからのスタート。本戦は64名だから強い人しかいない訳で『この場を楽しむしかないな』という精神状態でした。そもそも僕にとって、国際大会の本戦を撞いたのはあれが2度目だったので余計にその思いが強かったと思います(1度目は2017年『グリ国際』in 韓国)。反対に、9ボールの方は僕がただ一人のJPBAランキングシード選手として行かせてもらったので(他、赤狩山幸男が日本予選を、大井直幸がステージ1を突破して本戦出場権を獲得)、『結果を出さないと』みたいな気持ちになってました。やっぱり10ボールの方が精神状態は良かったですね」
――2019年に上達したと思うスキルを挙げていただくと?
「なんでしょう……手球(ポジショニング)とテーブルコンディションへの対応は上手くなってきた気はしますね。あとはスキルじゃないですけど、体調を整える意味で公式戦前の1週間はお酒を控えてました。実際、今年は試合の時の体調がとても良かったです」
――2019年後半のどのあたりからランキングレースを気にしていましたか?
「10月の『北陸オープン』の前後からポイントの計算をし始めました。どの大会でも自分が一番上に行けば良いだけの話だし、他の上位プロたちが負けることを期待してはいなかったけど、なにしろ1位争いをするなんて経験は初めてだったので(笑)、やっぱり気になってました。でも、もし他のプロに抜かれたとしても納得はしていたと思います」
――12月の『9ボール世界選手権』でもし大井プロが準決勝まで行っていたら最後の最後で逆転されてしまう状況でしたね(結果はベスト16敗退)。
「そうです。僕が先にベスト64で負けたんで、そこからいち日本人として大井プロを応援してましたし、勝ち進んでほしいと思ってましたけど、正直複雑な思いもありました」
――そもそもランキング1位は目標にしていましたか?
「もちろんです。プロとして活動する以上、常にそれは目標にしていました。でも、『5位の壁』をずっと感じてましたね。今まで僕は8位(2016年)が最高で、一度もTop 5に入ったことがない。だから、まずTop 5に入ることが目標でした」
――プロ生活11年目での1位。ここまでの道のりは?
「振り返ると長いなと思いますけど、自分の性格的に積み重ねることしかできないタイプなので、こんなものかなとも思います」
――2020年はどんな年にしたいですか?
「もっと海外の試合に出られるようにして、世界での結果を求めていきたいです。そして、技術や姿勢など全てにおいて1位に見合うような人になりたいと思います」
――応援してくれた人たちへの一言を。
「さっき『嬉しさ4割』と言いましたけど、あくまでそれはいち選手としての思いです。ポッシュ(自身が経営するレッスン場)の生徒さんを始め、応援してくれた人達が僕の1位を喜んでくれているのは、僕もものすごく嬉しいです。来年も生徒さん達が『いい先生に教わっている』と誇りに思ったり、自慢出来るような活躍をしたいと思っています」
(了)