ジャパンオープン(男子)32年の歴史で、
3年連続ファイナル進出は
「初」の出来事。
400人が出ている試合で
それを実現した大井直幸の強さ、
存在の大きさは疑うべくもない。
ただ、優勝と準優勝とでは
大きな違いがあることも事実。
本人もファンも手放しでは喜べない
2年連続準優勝(2017&2018)だった。
昨秋の『CBSAツアー 北京・密雲戦』優勝を
経て挑んだ2019年ジャパンオープン。
大井はさらに凄みを増したプレーで、
「二度あることは三度ある」ではなく、
「三度目の正直」を掴み取った。
大会直後の談話をここで。
…………
…………
――ゲームボールを入れた瞬間の気持ちは?
「嬉しかったですよ、うん。『3日間やっと終わった。良い形で締めくくれたなぁ』っていう感じですかね。一つ一つの内容を見ていくと常にパーフェクトに出来た訳じゃもちろんないし、最初から最後まで気持ち良くプレーして勝つなんてのは不可能だなっていうのも再認識しましたけどね」
――必ず苦しい時間帯は訪れる。
「そうそう。良いゲームもあったし、悪いゲームもあった。それがビリヤードだなと」
――3年連続でジャパンオープン決勝戦進出。過去2年(2017年&2018年)は敗れましたが、三度目の正直で優勝。3年かけて一区切り付けたような感覚はあるのでしょうか?
「それは別に……たいしてないかな。いや、そういうことにしといてください(笑)。やっぱり国内最大級のトーナメントには違いないんでね。ずっと勝ちたいと思ってました。そして、今年はこの7月に3つ、目標にしていた大会があります。『ジャパンオープン』『ラスベガスオープン』『10ボール世界選手権』(※後者2つは7月下旬にラスベガスで開催)。このビッグゲーム3連戦で『一つで良いから必ず結果を出したい』と思ってたんで、一つ目で勝てたっていうのは嬉しいですね」
――ラスベガス遠征に合わせてピークが来るように仕上げている過程での優勝だった?
「そうですね。いや、仕上がってるかどうかは向こうで撞いてみないとわからないんですけど(笑)、今のところ悪くはないです。少なくともこのジャパンオープンでは結構良いレベルのものが出せたと思います。でも……もうちょっと攻めたいんですよね。今大会、何球か攻められなかった球があったのがちょっと残念で。もっとカッコイイショットが出せたのになって思ってます」
――大会3日間、プレー面での波はありましたか?
「初日は非常に内容が悪くて。終わってから練習して、気持ちの面とかショットとかいくつか修正しました。そのおかげか、2日目と3日目はまずまず良かったかなと思います。一番良かったのは準決勝のリニング戦。あれはやってた僕自身も面白かったし、きつく撞けたと思う。相手にとってきついビリヤードが出来たなっていう意味ね。かなりのプレッシャーを自分にかけたし、相手にも内容でプレッシャーをかけられた。自分のやりたいことが出せた試合だったと思います」
――最終日の他の3試合は?
「もちろん同じ気持ちで臨んでいたけど、内容的にはまあまあでした」
――決勝戦(vs 小川徳郎)も?
「そう、ファイナルも同じかな。僕がミスをして、でも、向こうもお付き合いしてくれて……という局面もあったしね。まあ、それも作戦通りってことにしといてください(笑)」
――小川プロが先に2点取り、第3ラックの6番でミスをしました。ここはターニングポイントの一つだったかと思います。
「うん。こっちも小川くんがミスするとは思ってなかったし、5、6点行かれるかなと覚悟してたところで回って来たからね。あの時、飲食店で言うなら、まだコンロに火も点けてない、油もひいてない、野菜も切ってない、でもオーダーが入った、みたいな(笑)。いきなり集中しなきゃいけなくなった感じだったけど、それがビリヤードの面白いところでもありますよね」
――2-2時の第5ラックも相手の5番サイドミスで回って来ましたね。
「そうそう。出番はいきなりやって来るもんですね。それも含めて決勝戦はプレーを楽しめていたと思います」
――ニューピアホール特設会場でのプレー経験も多いですし、慣れもあったのでしょうか。
「そうですね。テーブルコンディションはどのテーブルも極端に違うということはなかったし、昨年までと比べても似たようなものだったかなと思います。だから、そんなに神経質にはなってなかったけど、今年はクッションが重めだったんで、それは頭に入れながらやってました。あと、サイドポケットは小さいから、サイドに取る球はだいぶ気を使って撞いてました。それでも飛ばしたけど(苦笑)」
――今年も多くのギャラリーが訪れていましたが、周りを囲まれながら撞く心境は?
「やっぱり気持ち良かった。たくさんの人に見られてる方が集中しやすいです。ただ、今年の海外勢は例年とは違うパターンで若手中心だったと思うので、あれで世界タイトルホルダー達がもっといたら、自分の結果はどうあれ、もっとお客さんが来て僕ら日本のプレイヤーももっと入り込めたかもしれないね。『ワールドトップクラスたちを迎え撃つ日本勢』という構図になった方がよりタフな試合になって面白いじゃないですか。それには賞金額とか環境とか、世界メジャートーナメントに比べて足りてないところがあるというのもわかっているから無責任には言えないけど、そんな試合が日本で見られたらファンももっと楽しめるだろうし、プレイヤーももっと気合いが入って盛り上がるだろうなとは思います」
――自分だけでなく、日本のプロ仲間たちのためにも、ワールドスタンダードの舞台が日本で常にあるべき、と。
「そう。僕もいい歳なんでね。次世代のプレイヤーがもっとたくさん、もっと早く育ってほしいと思うから、ジャパンオープンに限らず、そういう大会があれば良いと思います」
――この3日間で印象に残っている試合や局面は?
「うーん……、ないね(笑)。プレー内容は全部覚えてると言えば覚えてるし、覚えないと言えば覚えてないし(笑)。終わっちゃったことなんで、特別言うことはないかなぁ」
――参加メンバーや組み合わせも違うので単純な比較は出来ませんが、準優勝だった過去2年と今年は何が違っていたと思いますか?
「自分自身に対してあまり神経質じゃなくなったというのはありますね。たぶんそれは釣りをするようになったから」
――プレイヤー業と余暇のメリハリがついたとか、気晴らしが出来るようになったという意味ですか?
「気晴らしっていうんじゃないんですよね。釣りは釣りで全力でやってるんで(笑)。なんて言うのかな……どんな物事でも、一生懸命やっても全く報われないこと、自分の力が及ばないことってよくあるじゃないですか。釣りって特にそれが出やすいと思う。単純にまだ下手くそっていうのはあるけど、何をやっても上手くいかない時はあるということを、釣りに教えられた気はしますね。僕はちっちゃなことでもなんでもビリヤードに置き換えて考えちゃうんですけど、それが釣りから学べた良いことかな」
――今まではそこまで大きく構えられてなかったかもしれない?
「そうですね。勝負事はいつも勝ちたいと思ってるし、ビリヤードに関しては『勝ってほしい』という周囲からの期待も感じていたし、それがなんらかの形で現れていた時もあったと思う。それって裏に潜めていて良いことなんだけどね。でも今は、そういう執着心みたいなものがどんどん裏側に行っている感覚はあります。今回も『別に負けたって構わない』ぐらいの気持ちでいたしね」
――逆に、世界のトップに立つためにまだ足りてないものとは?
「足りてないもの……いやぁ、それがいくらでもあるから、今の僕はまだこんなもんなんでしょう(笑)。今回は勝てたけど、良い時の精神状態、内容、イメージをどれだけ持続出来るか。足りないのはそこなんじゃないですか。でも、僕自身も自分の良い状態が何かってのはよくわかってないからね。調子の波の底はそれなりに上がってると思うけど、上(最大値)ってもうそんなに変わらないじゃないですか。そして、特に海外でありがちな、メンタルを削り合うようなタフなゲームに慣れている訳でもないから、そういう展開になった時に自分がどうなるかっていうのもまだまだ未知数です。プレッシャーの強度も海外と国内の試合とでは全然違うから」
――でも、そういう経験をすること自体が楽しみでもある?
「そうですね。『自分の力ってどのぐらいなの?』っていうのが、海外に行くとわかりやすいんですよね。慣れない環境とか試合展開になった時にどうなるか。ラスベガスではそれを楽しみながらやろうと思ってます。……って言いながら、7月のビッグゲーム3連戦のしょっぱなで良い成績が出ちゃったから、この後の2つ、サボっちゃいそうな自分が怖いよね(笑)。変に余裕が出ないようにしたいとは思ってます」
――最後に、ファン・サポーターへの一言を。
「ふふふふふ、どう言えば良いんだろう(笑)。応援していただけると、こんな僕でも真面目にやる時間が増えるし、力が出せるのは間違いないです。アメリカでも頑張りますので、また応援よろしくお願いします」
(了)