昨年、国内ランキングで1位に輝いた
大井直幸(JPBA)は、
2015年、年明け早々に中国に渡り、
『World Chinese 8-Ball Masters』
(ワールド・チャイニーズ8ボール・
マスターズ)に参戦した。
国内で一般的に普及している
ポケットビリヤードテーブルとは
仕様・形状が異なるテーブルの上で行う
エイトボール(中国式エイトボール)の
国際大会であり、
そもそも、この中国式エイトボールは
日本では行われていない種目だ。
大井の初挑戦は1勝4敗という結果に
終わったが、
大井は1月下旬にまた中国で行われる
『チャイニーズ8ボール世界選手権』への
出場を表明している。
同日程の日本の試合に出るのではなく、
大井は新しいチャレンジを選んだ。
果たしてチャイニーズ8ボールの
競技性や特徴とは?
そして、2015年の大井のテーマとは?
取材・文/BD
取材協力/On the hill !
写真/Chinese 8-Ball Masters © Sun Xiaoguang
…………
Naoyuki Oi
JPBA40期生
1983年1月10日生 東京都出身・大阪府在住
『ナインボール世界選手権』3位
『全日本ローテーション』優勝2回
『北陸オープン』優勝4回
JPBA年間ランキング1位・3回('06年、'12年、'14年)
他、優勝・入賞多数
※2014年11月『全日本選手権』
準優勝直後のインタビューはこちら
――初めてのチャイニーズ・エイトボール(以下、C8)の試合、いかがでしたか?
「『ゲームがまるで違う』。その一言ですね。全然違いました」
――今まで培ってきたものは通じなかった?
「通じそうなところもあったし、ちょっとは通じてたんだろうけど、結果的に通じなかったところが多かった。戦えないことはないけど、今の僕では勝つのは相当厳しいです。それでも、今からスヌーカーをやるよりは、まだチャンスがないことはないですね。大会そのものは会場も立派で内容も良いものだったし、僕はこの種目を面白いと思っているんで、気持ちは一層高まりましたね」
――結果はリーグ戦で1勝4敗でした。
「勝った1試合も女子選手が相手だったんで、実質、全敗みたいなもんです(笑)。1試合目を僅差で落としたことが後々響いたかな。それ以降、集中が切れやすかったり、気持ちがもたなくなっていたんで。だから、1試合目で勝ってたら……とは思いますけど、そう思ってる時点で、その程度のレベルっていうことでしょうね。まあ、まだ雑魚です雑魚(笑)」
――今回は事前に練習できる時間も少なかったようですね。
「東京に行って、C8のテーブルがあるお店で数日撞いて、所属している『マグスミノエ』(大阪)にもテーブルを入れたんで、そこで数日間撞きました。あのぐらいの練習だったら、してもしなくても変わらなかったかな。本番のテーブルは東京のお店やマグのより難しかったですしね」
――今回は完全な招待試合だったんですか?
「そうです。旅費から滞在費から全て出ました。僕は一円も使ってない。今後も年1回やるみたいですし、また出たいですね。スポンサーも大きいところがたくさん付いていて、舞台や演出なんかも近年のポケットビリヤードの試合ではまず見られないレベルでしたから」
――初めての種目の大会でしたし、気持ちを作っていくのも大変だったのでは?
「そういうところはありましたね。1試合目に負けたこともあって大会中はなおのこと難しかった。それに、ナインボールやテンボールの試合ならもう経験も積んできて、その時々の自分の状態や気持ちもわかってるじゃないですか。でも、C8だとわからない。で、『わからないなら勉強だ』と思う訳だけど、本当にそのまま勉強だけで終わってしまったという感じですね。半分遊びみたいな気持ちもあったしね。そういうところがいかにも日本人っぽかったなとも思う。例えば、デニス(・オルコロ。フィリピン)なんかは、僕なんかと同じでC8の経験がほとんどないけれど、それでも超頑張ってた訳ですよ。本当に必死。一緒に練習もしましたけれど、やっぱりすごいプレイヤーだなと」
――技術的にC8はどこが難しいですか? ナインボールなど他のポケット種目との違いは?
「もうシュートがねぇ……。ポケットの形があれなんで(角が丸い)、レール際の球はほとんど拾わないですから。僕なんかでも入らないし、デニスでも入ってなかった。レール際の球に対してきれいに真っ直ぐめにポジションしたのに飛ばした(ミスした)っていうのが何度もありました。最後の⑧番でもあった。ちゃんと集中もできていたのにね。そんなことが続くと壊れてくるよね(笑)。でも、C8専門にやってる中国選手は入れるんです」
――なるほど。
「そうは言っても、レール際が難しいのには違いないから、戦術的に言うと、レール際にある球をばんばん蹴り上げながら(レール際から動かして)、取り切って行く感じです」
――単純にエイトボール慣れしてるか否かという部分は?
「それも出るんだけど、それよりはやっぱり『レール際が入らない』って思っちゃうことで、集中が切れたり頭が回らなくなることが大きいかな。どうしていいのかわからなくなる。『レール際は入らないから撞きませーん』って訳にもいかないしね(笑)。……でも、そういうのを含めて、昔初めて海外の試合に行った時の感覚に近くて面白いといえば面白かったですね。厳しいから面白い。僕は一個ずつ解決していくタイプなんで、C8のゲーム性や今の状況も楽しいですよ」
――C8専門でやっている中国選手はやっぱり上手いんでしょうか? また、イングランドの人達は?
「もう中国選手が一番上手いです。彼らはスヌーカーもやってなくて、本当にC8しかやってないんだって。それは強いよね。イングランドの人達も上手かったけど、全体的に中国選手はその上ですね(今大会の優勝は楊帆〈ヤン・ファン〉という中国選手)。C・メリングなんか、もっと勝てるんじゃないかと思ってたけど、やっぱり勝てないからね。イングランド勢の中だと、やっぱり2回優勝しているG・ポッツは上手かったですよ(今大会では3位)。C8はスヌーカーが強い人が必ずしも勝てる訳でもなさそうだし、独自のゲームということなるんだと思います」
――その独自性を学んでいかないといけない訳ですね。大井プロがこの先もC8に出るとなると。
「そうですね。今はわからないことが多すぎるんだけど、新しいことを学んでいくのは楽しいですね。初心に帰るような感じもあって。不安もありますよ。今は一旦ストロークから何から全部変えようかなって思ってますから、ポケットの方が壊れるんじゃないかって。でも、それもしょうがないかな」
――そこまでの覚悟があるんですね。
「これがスヌーカーだったらポケットビリヤードとは違いすぎてチャレンジしないと思うけど、C8はポケットの範囲かなと思っていますから。せっかくこういう大会があって、月末には世界選手権もあるんで、チャレンジします。賞金も高額だしね。まあ、賞金は今の僕には関係ないけど、もっとこう純粋に、ポケットの技術が通用する種目である以上、やりたい、上手くなりたいって気持ちが強いです」
――C8は将来性があると思いますか?
「と思いますよ。C8がどれだけ中国の外に……例えば、アメリカまで行くかと言われたらまだわからないけど、少なくとも中国ではあれだけの規模・会場・レベルでやっているし、スポンサーも付いてるし、まだ広がっていくと思います。ゲーム性も面白いですしね。個人的に、C8ってずっと試合を観てられる種目なんですよ。ストーリーがあるし、相当難しいから目が離せない。例えば、ナインボールやテンボールだと、ブレイクで『はい、オッケーでーす』みたいな形になることがあるけど、C8にはそれがない。そして、強いヤツが勝つ可能性の高いゲームです」
――大井プロは今月末C8の世界選手権に出ますが、その真意とは?
「単純に、この種目をやりたいし、上手くなりたい。それだけです。最終的には高額な賞金を獲れたらという夢もあるけど、可能性で言ったらだいぶ厳しいからね。お金というより、高いステータスの所に行きたいというのがありますね」
――日程のかぶる関西オープンとどちらにするか、迷わなかったですか?
「日本の試合ももちろん大事なんですけど、プロで丸9年やってきて今年が10年目だし、1年ぐらい違うことしても良いかなって。だから今年は、世界の試合……特にC8を含めて中国の試合にできるだけ行こうかなって思ってます。今まで、僕も含めて多くの人が『日本のランキングで上位に入って、海外の試合の出場権をもらって外に行こう』というやり方だったと思いますが、そのルートを変えても良いかなって。まあ、あとはね、マグスミノエに買って置いたC8のテーブル、自腹なんでね(笑)」
――そうだったんですね。
「それはともかく、本当おもしろいんですよ、C8はできないことが多くて。僕自身ポケットの技術は全然完璧ではないけどある程度のことはできてるとは思いますが、C8では足らないことだらけなんで面白すぎてます。今練習していることがすぐ月末の世界選手権で発揮できる訳じゃないけど、来年とか再来年にできていたら良いなと思うしね。2015年は日本のランキングはちょっと脇に置いといて、C8なり中国の大会なりに意識を向けたいと思います」