小宮鐘之介・第32期球聖位

今まで一番「勝たなきゃいけない」と思った防衛戦

2024年4月

 

 

一球一球いつくしむように丁寧に

台上のボールを取り切った小宮鐘之介は、

両応援団の拍手を浴びながら

その場で泣き崩れた。

 

3度目の防衛をかけた『球聖位決定戦』。

 

小宮はこれまでの防衛戦と同じく、

しっかりとキューを出して

安定感あるプレーを披露。

 

中盤の挑戦者・増渕享士の鋭い攻勢と

それに呼応してボルテージを上げる

増渕応援団にも怯むことなく、

7セットを堂々と戦い抜いた。

 

今までで一番「勝たなきゃいけない」と

思ったという防衛戦。

その心境を振り返ってもらった。

 

 

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最後はいろんな思いが溢れて来てああなりました


 

――3度目の防衛に成功しました。

 

小宮:毎年同じなんですけど、防衛できてホッとしてます。

 

――今回は7セット戦いました。疲れは?

 

小宮:日曜日だけしか試合をしてないので、やっている最中は全然大丈夫なんですけど、終わった後にドッと疲れが出ますね。その感じも今までと一緒です。

 

――優勝を決めた最後のマスワリは涙をこらえながら撞いていました。感情の高ぶりはいつ頃から?

 

小宮:第7セットの終盤にパネちゃん(※会場となった『エニシング』所属の近光翼アマ。闘病中)がお店に入って来てからですね。パネちゃんは今までの球聖戦もそうだし、お店で何かイベントがあるといつもご飯やおつまみを用意してくれたり、お客さんを盛り上げてくれていました。僕が球聖になるだいぶ前、『エニシング』に行き始めた頃にはもうすでに何年もいましたし、よく一緒に球も撞きました。そういった色々なことがパネちゃんの姿を見た時にフラッシュバックして……。負けられないし、球を外すところは見せられない。いろんな思いが溢れて来てああなっちゃいました。

 

――初防衛、2度目の防衛とはまた違う感覚だったでしょうか。

 

小宮:今までで一番「勝たなきゃいけない」と思った防衛戦だったと思います。今までは「勝てたらいいな」ぐらいでしたけど、今回は「絶対落とせない。歯切れの悪い終わり方はしたくない」と思ってました。

 

――今年は本番に向けてどんな調整を? 例年、仕事もあって本番前にそんなにたくさん撞けていない様子でしたが、今年もそうでしたか?

 

小宮:今年が一番練習できてなかったです(苦笑)。『エニシング』に行けたのは試合の前日(『挑戦者決定戦』があった20日〈土〉)で、それが結構久しぶりでした。挑戦者決定戦を撞いていた両選手(増渕享士・西拓也)の球を生で少し見ることができたので参考になりました。あとはしっかり練習したというより、ポケットの受け方とか去年とのコンディションの違い、新ラシャ特有の動きを確認したぐらいですね。それ以外は、その前の木曜と金曜に仕事帰りに別の場所で3時間ぐらい撞きました。

 

――お子さんも生まれてより一層忙しそうですね。

 

小宮:そうですね。子供が生まれたこともそうですし、先に奥さん(第12~14期 女流球聖位の梶原愛)の防衛戦(4月8日『女流球聖位決定戦』)があったので、どうしてもそこまでは奥さんの方に全振りでした。奥さんの防衛戦が終わった後は僕が仕事でいっぱいいっぱいだったので、調整できるのが1週間ぐらいしかなくて。でも、それも良い経験になりました。短期間で仕上げなきゃいけない状況になったことが今まであまりなかったんで、自分のダメなところも見えてきて楽しかったです。

 

第6セットが勝負の分かれ目だった


 

――迎えた本番。第1セットは相手に取られました。

 

小宮:今思うと、第1セットはコンディションやボールの動きを掴む方に頭を使ってて、ちゃんと球をシュートすることにあまり意識が向いてなかったのかもしれないです。ミスが多くなっていて「このままだとまずいな」と自分でも思ってましたけど、そのままダラッと撞き続けていたら終わってしまった感じです。

 

――第2セットから3セット連取しました。

 

小宮:第1セット後の休憩時間に、周りからも「スイッチ入ってないね」「余計なこと考えてるね」と言われましたし、ここで切り替えないとたぶん最後まで悪い流れを引っ張っちゃうと思ったんで、考えをまとめて気持ちをピリッとさせました。そこまでのシュートミスも外してる原因は納得できていたので、そこの撞き方を調整して、あとは余計なこと考えずにやろうと。そうしたら、第2セットから自分がちょっと良くなって行き、反対に相手のミスが少し増えてきたので、3セット連続で取ることが出来ました。

 

――第5セットは相手に取られました。相手のブレイクが合い始めてマスワリが増えてきましたが、焦りは生まれなかったですか?

 

小宮:毎年そうですけど、ブレイクが合ってきてマスワリ勝負になったらどっちが勝つかわからないんで。だから、いつどのセットでそういう展開になったとしても、それでこちらの緊張が増したり、焦ったりすることはないです。

 

――ああいう展開になることも織り込み済だと。

 

小宮:はい、お互い完璧に撞けてた訳じゃないし、自分もミスをしていたので、ああいう展開になったら「まあ取られるよな」と。その分「次、頑張れ」って思ってました。次の第6セットは結構競ってたじゃないですか。もしあそこも相手に取られてたら、さすがに少し焦ったかもしれないですね。

 

――マスワリの応酬が見られた第6セットですね。

 

小宮:増渕さんの試合後のコメントを見たんですけど、ほんとその通りで、第6セットが勝負の分かれ目というか、あそこを取られて3-3になったら本当にわからなかったと思います。そして、競り合いのぎりぎりのところで、ああいうミス(増渕選手の9番や5番のミス)が出て来てしまうのも球聖戦だなと思います。終盤の追って追われての場面で、自分が意識してないところでなぜか球が外れちゃう。特に球聖戦ではそれがあると思いますし、あれがたまたま自分じゃなくて助かったなって正直思ってます。逆も全然あり得ることだから。

 

自分がやってることを客観的に見られた感覚がある


 

――最後の第7セットは完全に流れが小宮選手に向いていたように感じられました。

 

小宮:そうですね。相手に傾きかけた流れがパツッと切れた感じがしたというか、「あっ、こっちに来たな」という感覚がありました。このまま自分が手放さなければ……っていう感じでしたね。

 

――「ここで決めたい」という気持ちも?

 

小宮:いや、いつもそれは考えてないです。「流れが来た時にちゃんと取り続けるだけ。そうしたら良い結果に繋がる」ぐらい。でも、第7セットの終盤、パネちゃんが会場に来た時は「ここで決めたい」って思っちゃいましたね(笑)。(5-2になった後)相手が3番を入れてスクラッチ。「これを取り切ってマスワリで締めたい」ってめちゃめちゃ思いました。

 

――最後のマスワリは丁寧に撞いていました。

 

小宮:涙が出て来たのもあるんですけど、いつもよりゆっくり撞いてました。気持ちはブレイクの時から高ぶってました。相手もブレイクが合っていたから、ブレイクをミスると点差が開くのがわかってたんで、僕もずっとコントロールブレイクをしてたんです。ただ、パネちゃんの前では思い切り行っちゃいました。パネちゃんもブレイクがすごく強いんで、「見ててくれ」って気持ちで。それでマスワリ配置が来たんで、「パネちゃんのおかげだな。あとは自分がきっちり取り切るだけだ」って。

 

――どんな思いでゲームボールを撞きましたか?

 

小宮:9番にポジションするまでは球以外のことは何も考えてなかったです。9番を入れる直前は「パネちゃん、しんどいのに見に来てくれてありがとう」「これ入れたら球聖戦終わっちゃうな」と思ってました。今思うとあの9番は易しい球じゃないし、あれを外してたら全て台無しなので、もっと考えて撞いた方が良かったと思うんですけど、あの時は外れる外れないとかは頭になくて、自分の中では勝手に試合が終わってました。そして、9番を入れた瞬間もうダメでしたね。握手をする前にあんなになっちゃって(泣き崩れてしまって)申し訳なかったです。

 

――今回の防衛戦、全体を振り返ると?

 

小宮:朝イチの立ち上がりが遅いのはいつもなんでしょうがないんですけど、第2セットからしっかりと気持ちを入れて、3セット連続で取れたのが大きかったです。毎年球聖位決定戦を撞く中で、ダメな時に何がダメなのか、そこをどう調整するのかがパッと整理できて切り替えられるように年々なってきてると思います。第5セットは自分のスイッチが切れた訳じゃないですけど、自分の中では納得して取られたというか。だから、ダメージも少なかったですし、次の第6セットはずっとピリッとした状態で撞けました。どのセットも自分がやってることを客観的に見られた感覚があるので、そこが成長しているなと思います。

 

負けた時に初めて重みに気付くのかなと思います


 

――3期連続防衛は最多タイ。通算在位4期は2位タイです。「球聖位」と呼ばれることにも慣れましたか?

 

小宮:そうですね。最初は球聖になって半年後にすぐ防衛戦があったので(2021年秋に初戴冠→2022年春に初防衛)、あんまりでしたけど、そこからは1年間隔で来ているのでだいぶ慣れてきました。最近は春が近付くと「また防衛戦だ。気合い入れる時が来たな」って思いますし、終わるとやっぱり翌年が楽しみになります。

 

――球聖位に長くいるほど感じる重みもあるんでしょうか。

 

小宮:自分が鈍感だからかわからないですけど、それは全然ないですね。たぶん防衛戦で負けた時に初めて重みに気付くのかなと思います。奥さんが今そうなっているので、たぶん自分も一緒じゃないかなって。きっと負けた時に出て来る後悔とか反省とかいろんなことが「重み」だと思うんですよね。今は勝っているからまだ重みを感じてないというか、「恥ずかしくない球を撞こう」ぐらいです。

 

――「また来年も防衛したい」という気持ちは?

 

小宮:「できるだけ長くいたいな」ぐらいは思いますけど、「絶対防衛したい」と思うことはほとんどないですね。自分が頑張ってちゃんと撞いていれば防衛できると思うんで、日々ちゃんと仕事をして、生活を落ち着けて、しっかり球の調整をすることが大事だと思います。あとはまた『エニシング』のみんなと楽しくやりたいなと思うぐらいです。

 

――今後の予定は?

 

小宮:『アマナイン』、『マスターズ』、あとは奥さんからの指令なんですけど、初めて『名人戦』に出ようと思います。1回『アマローテ』に出たことがあるんですけど、それっきりでローテーションのルールも忘れちゃったんで(笑)、覚え直してローテーションの試合も楽しみたいなと思います。

 

――応援してくれた方々に最後に一言。

 

小宮:今年も両選手の応援団が盛り上がってくれて、すごく良い雰囲気の中で試合が出来て幸せでした。ありがとうございました。打ち上げも含めて今年も楽しい防衛戦になりました。『エニシング』のオーナーや家族にも感謝しています。また来年も、皆で楽しい時間を過ごせたら僕としても嬉しいので、応援よろしくお願いします。僕も防衛戦で力を出せるようにちゃんと整えて『エニシング』に来たいと思います。

 

(了)

 

初戴冠時インタビュー(2021年)

初防衛時インタビュー(在位2期に。2022年)

2度目防衛時インタビュー(在位3期に。2023年)

 

 

Shonosuke Komiya

1994年12月6日生まれ・東京都出身

所属店:『ANYTHING』(千葉)

プレー歴:約17年

職業:会社員

プレーキュー:Far East(シャフトはCuetec シナジー、タップはエルクマスター)

ブレイクキュー:MEZZ POWER BREAK G

ジャンプキュー:GO JMP

タイトル:

アマ『球聖位』(第29期、第30期、第31期、第32期)

アマ『全関東』優勝

アマ『9ボールクラシック』優勝

2023年『アマナイン』優勝

プロトーナメント『Grand Prix East』準優勝1回(2016年)、

他、入賞多数

 

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