2013年7月、
小林英明(JPBF)は、
8年ぶり10回目の出場となった
『全日本アーティスティック』で
他を圧倒するプレーで初優勝を決めた。
そして、この瞬間小林は、
「スリークッション」
「バンドゲーム」に続く、
3つ目の「全日本」タイトルを手にした。
久しぶりの出場で
なぜあそこまでのプレーができたのか。
そして、小林はどのようにして
「マルチプレイヤー」になっていったのか、
大会3週間後に話を聞いてみた。
取材協力:On the hill !
写真・文:B.D.
――アーティスティックの優勝を決めた瞬間、とても喜んでおられましたね。
嬉しかったですね。昔からスリークッション(以下「3C」)とバンドゲーム(以下「バンド」)とアーティスティック(以下「アート」)をやってきて……。
――3Cとバンドではすでに全日本タイトルを獲っています(共に'05年)。
そう。アートだけが準優勝('05年)止まりで、「もう無理かな」と諦めていましたから。
――準優勝だった'05年大会を最後に、8年間出なかったですね。
主に体のことが理由です。アートは(強打やマッセを多用するため)体への負担が大きく、僕も実際に背中や肩や肘を痛めました。そうなると、3Cにも支障をきたすので、一旦止めておこうと。
――小林プロがアートを休んでいる間に、教え子でもある渡辺元プロ(優勝2度)が力を付けました。
渡辺プロのような若い後輩が出てきたのも、「自分が引いても良いな」と思った理由の一つです。
――今回、8年ぶりに出場したのは?
開催場所が自分のお店(東京・野方『Kobby's Billiards』)になりましたし、3Cの全日本選手権で予選落ちしてしまい、練習時間も取れるので久々にやろうと。
――練習期間はどのぐらい?
大会前の約2ヶ月間です。
――お店のキャロムテーブルを1台、マッセもOKな練習台として開放していたとか。
はい。うちのお客さんの原田直樹選手と大野裕一選手(共にアマ)が全日本に出ることになったので。もちろん僕もそこで練習しましたし、他店からも練習に来ていました。
――ちなみに小林プロの得意・不得意なショットは?
得意なのは引き球で、押し球はね、下手なんですよ(笑)。マッセは人並みかな。
――さて、大会本番。序盤からずっと1位をキープしていましたね。
出来が良いのはわかってましたけど、特に何も思ってなかったですね。過去にもこういう試合の入り方を経験していますし、想定内でした。
――勝利への欲は?
あまりなかったです。でも、プロとして出ている以上、みっともないプレーはできないから必死でしたよ。
――マークしていた選手は?
原田選手かな。彼は練習では80%ぐらいの得点率があったはず。僕も一緒に練習していました。「させてもらった」という感じですが(笑)。
――40種目撞いていて「行けるかも」と思った瞬間は?
うーん、最後まで確信なんてなかったですよ(※大きく2位以下を引き離していたので、35種目めが実質的に「最後」だった)。30種目まで終わった時に周囲の声が耳に入ってきたんです。「2位と40点差かぁ」とかね(笑)。なので状況は把握していたけど、僕はいつも点数は意識しないので、その時も「別に」と思っていました。
――そうだったんですね。
これは3Cでもバンドでもそうですが、一つ一つのプレーに集中するだけ。序盤でいくら良くプレーできても、結果に対して過剰な期待はしないし。ただ、良いプレーが積み重なれば「たまにご褒美がある」ぐらいです。
――そして、300点満点で247点を獲得。得点率82.333%という申し分ない内容での優勝(※40種目中成功数33で成功率は82.5%)。
いやぁ、初めての数字です(笑)。
――これまでで最高は?
以前、公式戦で一度、得点率70%台があったと思います。練習での得点率は60%台です。
――今回、なぜここまで成功させられたんでしょうか。
ほんとに集中できてましたね。緊張感もほどよい感じで……というか、もう思い出せないですね、あの時の精神状態を。無心でしたから。
――それにしても当て続けてましたね。最後は12種目連続成功で上がりましたし。
ツキもありましたね。じゃなければ、練習以上の数字は普通出ません。練習で10回中1回ぐらいしか成功しなかった球も当たってました。外れそうな球がギリギリ当たったり。でも、アートという競技自体がギリギリを競っていますからね(笑)。
――浮き足立っている様子もなく。
そこはキャリアですかね(笑)。あのメンバーの中では試合経験だけは豊富な方です。僕らは他でもない「試合の日に当てること」を競っている訳じゃないですか。そういう状態に持っていけるようにするのが練習で、僕はその練習はずっとやってきたつもりです。なので、本番での自分の心理状態もイメージできていましたよ。
――アートは3回試技がありますよね。小林プロはその3回を使って当てれば良いという考え方ですか?
いや、「全て一発目で決めてやろう!」です。一球入魂ですね。外れた時は「泣きの1回をやらせてもらえるのか。ラッキーだな」と思うようにしています。コンディションを見つつ撞き方を変えながら3回で仕留めれば良い、という方もいますが、僕はそうではないです。
――小林プロはなぜ3C、バンド、アートの3つを熱心にやるようになったんですか?
キャロムのプロになるということは、日本では多くの人の場合、3Cをやることを意味しますよね。僕も3Cで勝つために練習に励んできました。ベルギーにビリヤード留学したのもその一環です。20歳頃でした。
――はい。
向こうでは(ベルギーを代表する名手)L・ディリスに教わったんですが、ディリスがバンドやカードル(ボークライン)を好きだったので、僕も教わったんです。
――3Cのためになればと?
初めはそうでした。でも、真面目にやってみると、ちょこちょこ撞くだけのゲームじゃないし、思ったより難しいし、ものすごく勉強になることがわかったんですよ。「結局同じビリヤードだな」と。
――アートは?
22歳ぐらいの頃、1年ぐらい町田正プロのお店にいたことがあって、そこで町田プロに教わりました。やってみたら意外とできたんですよ。で、次の年に全日本アートに出ました。当時は2日間開催で、なんと初日はトップ。「優勝しちゃうのか?」と(笑)。まあ、案の定2日目に先輩方に抜かされましたけど、でも、手応えはありました。
――そうやってオールラウンダーへと。
僕は「ある種目の選手」じゃなくて「プロフェッショナル」になりたかったんですよね。
――と言いますと?
プロと呼ばれる人は何でもやるし、できるのがプロだろうと。例えば、3Cのプロであってもエキシビションで曲球を求められることもあるじゃないですか。その時にできるのがプロだろうと。
――その貪欲に学び取る姿勢が、周囲も評価する3Cの技術や総合力の高さに結び付いているのでしょうか。
その評価は自分ではわからないですけど、色々な種目を撞いてきたとは思います。その割には上手くなってないですけど(笑)。というか、ビリヤードってどれもキューを持ってプレーするもので、種目が分かれてはいるけど、根本は同じ。どんな種目にも、僕は否定的になったことがないですね。ポケットやるのもスヌーカーやるのも、プラスにしかならないと思うんですよ。
――スヌーカー経験もあるのですか?
はい、ベルギー修行時代はスヌーカーが趣味でした(笑)。まあ、どれも同じなんですよ。キュー持って、手球撞いて、厚みに当てる。厚みが外れて勝てる種目はありません。何より、色んな競技をやると面白いですしね。そういうことを僕はアマチュアの方とか後輩選手に伝えたいと思っています。
――さて、アートの世界選手権が開催されるならば、小林プロは日本代表として出場することになるはずですが。
世界選手権は'06年に一度行っただけなんです。次回の予定はまだ白紙のようですが、開催されるならもちろん行きますよ!
小林英明さんはこんな人→
JPBFプロ(1995年入会)
スリークッション・バンドゲーム・
アーティスティックの3つで
『全日本選手権』タイトルを持つ。
他、優勝・入賞多数
スリークッション国内ハイラン記録
「20点」を保持
1972年9月15日生
B型 乙女座 東京都出身&在住
所属は『Kobby's Billiards』
プレー歴は約25年