〜【前編】から続く〜
プール女子9ボール。
準決勝でケリー・フィッシャーに敗れた
平口結貴は会場から離れ、一人になった。
3位決定戦まではあと4時間。
どう金メダルへの未練を断ち切り、
銅メダルマッチへ
気持ちを整え直していったのか。
銅メダルは今の平口にとって
どんな意味を持つメダルなのか。
帰国間もない平口が率直に語る。
――ケリー(・フィッシャー)はその後金メダルを獲りました。今年彼女は他大会でも勝ちまくっていて、現世界No.1と言って間違いないと思いますが、直接対戦して感じたケリーの強さとは?
平口:特に今回すごいなと思ったのは「自分でギアを徐々に上げられる」ことです。私との準決勝もいきなり100%を出そうという雰囲気ではなくて、落ち着いてプレーを始めていました。そこから自分でギアを上げて行けるし、仮に100%に達しなかったり、相手の出来が良くても、元々のレベルが高いので慌てずにプレーしている印象です。
――そうでしたか。
平口:決勝戦(vs 周婕妤)でもそうでした。ケリーは会場に早く着いていたのにギリギリまで会場内に入れないというアクシデントがあって、すごく慌ただしい感じで試合が始まりました。それもあって序盤は周婕妤のペースで1-4まで先行されたんですけど、ケリーはちゃんと自分のプレーに徹していてきっちり逆転して勝ちました。「アクシデントは頭に来たけど、落ち着いてプレー出来たよ」って後で宿舎で教えてくれました。
――実力の高さを感じます。
平口:はい、めちゃめちゃ状態が良いから勝てるんじゃなくて、いつものプレーの質が高いから調子やメンタルに左右されにくく、安定して勝てるんだなと。今はケリー自身が「今日は25点だな」と思っても、周りから見たら普通に60点ぐらいの内容で撞けているっていう状態にあると思います。そこは私も目指してるところだし、それが出来ているケリーを尊敬しています。でも、彼女を含めた世界トップ達に勝たないと上に行けないから、尊敬するだけじゃなくて、良いところをたくさん吸収して早く同じレベルに立てるようにしたいです。
――午前11時頃に準決勝が終わって、3位決定戦は15時スタート。数時間で気持ちの切り替えは出来ましたか?
平口:とりあえず何か食べないとと思って一人で食事に行ったんですけど、2時間ぐらいは落ち込んで泣いてました。もしケリーに勝ってたらメダルは確定だったのでメダルのチャンスを1回逃してしまった悔しさや、私は金メダルだけを見ていたけど既に金はないという現実、出来る限り準備をしてきたのに自分の何がいけなかったんだろうという問い……色々なものがあふれて来ました。今はもうある程度冷静に準決勝を振り返られるし、反省点も把握しています。でも、あの時は「まだ3位決定戦があるけど、これ、どうやったら気持ちを整えられるんだろう」っていうぐらい心は乱れていました。「よし、じゃあ、銅メダル獲りに行くか!」という感じでは全くなかったです(苦笑)。
――どうやって持ち直していったんですか?
平口:負けてしまった現実を受け入れるしかなかったです。結果は変えようがないし、せっかくアメリカでもう1試合出来るのに、敗戦を引きずって最後の試合を楽しめなかったら本当にもったいない。母に電話して自分の気持ちを素直に伝えて、それから一人で気持ちを整えました。自分の感情を言葉にして人に向けて発することで頭の整理が出来ました。
――そして、銅メダルマッチ(3位決定戦。vs ベロニカ・イワノフスカヤ。9-7)。
平口:序盤ベロニカに先行されて、そこから私が追い掛けて競り合いになりました。ベロニカはマイペースなプレイヤーで、セーフティや空クッションも含めて総合的に上手かったです。今大会、私は結構セーフティに自信を持っていたんですけど、彼女は空クッションで上手く当て返して来たり、セーフティ返しをして来たりして、結構こちらにプレッシャーがかかりました。すごく試合運びが上手で競り合いに強い印象です。
――相手のペースにはまらずに逆転勝利出来た要因は?
平口:自分の間合いやタイミングを意識して「行けるところはシャッと行こう」と。積極的にオフェンスを選んだ場面もありました。その自分の決断に怯んだり、迷いが出ないように早めのリズムをキープすることも心掛けていました。
――最後は7-7に追い付いてから、2ラック連取で上がりました。
平口:取り切りからのマスワリで締めることが出来ました。手球のポジションは上手くなかったですけど、頭の中は整理されていて良いリズムで撞き切れたと思います。
銅メダル🥉取れました😂😂😂
— 平口結貴☆Yuki Hiraguchi (@YukiHiraguchi) July 17, 2022
皆さんありがとうございます😭😭
またツイートします!! pic.twitter.com/Ls0R3WZm4W
――ゲームボール(9番)は「フットショット」を難しくしたような遠くて薄い球でした。
平口:マスワリの8番から9番で、8番もちょっと嫌らしい形だったので、無理に9番に近付けずに遠めからの9番勝負を選びました。普段ならもっと9番に近付けてたと思うんですけど、スクラッチもありえる形だったので「わかった。遠くからでも入れてやる」と。
――ああいう球は得意ですか?
平口:今までに大事な場面で9番に限らずああいう球を結構飛ばしてます。キーポイントであれを入れた回数は片手で数えられるか……いや、指1本も折れないかも(笑)。あの球をメダルマッチのゲームボールで入れられたのはすごく自信になりました。
――ゲームボールを入れてベロニカとハグをした後、笑顔で何度も周りに手を振っていました。
平口:なんとか気持ちを立て直して3位決定戦を戦い抜けたことは良かったし、その結果、メダルを獲れて嬉しかったです。でも、やっぱり「すっごく嬉しい!」と言えるのは金メダルを獲った人だけなんだろうな……と今も思ってます。たぶんこれからの私の結果次第で、私は「銅メダルを獲れただけでもすごい選手」なのか、「もっと上に行けるだけの実力があったのに銅メダルだった選手」なのかがわかるんだと思います。今回の結果はもう変えられないですけど、今後皆さんに「平口は後者だったな」と思ってもらえるぐらい結果を積み重ねて行きたいと思います。
――わかりました。最後にサポートしてくれた人達へ一言。
平口:今回、久々の海外戦がワールドゲームズという4年に1回の総合競技大会だったということで、自分の中でもこれまでにないぐらい大きな挑戦でした。日本代表に決まってからたくさんの方に支えられ、励まされながら準備をしてきました。本当にありがとうございました。コーチがいない状態で海外に行くのは初めてだったので、寂しくて不安な気持ちにもなりましたが、大会中は応援してくれている方々の顔を思い浮かべながら何とか耐え抜いて、メダルを持って帰って来ることができました。キャロム3クッションの船木耕司プロ(JPBF)や通訳の福田豊プロ(JPBA)にもとてもお世話になりました。これからもさらに向上心を持ってプレーしていきますので、応援よろしくお願いいたします。最後になりますが、スポンサーの方々、『NIKKA5』の皆さん、母や北海道の皆さん、私と関わってくれている方々、ファンの皆さん全員に感謝しています。ありがとうございました。今週末、『2022 全日本女子プロツアー第1戦』があるので、これから京都に行ってきます!
(了)
【前編】はこちら
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Yuki Hiraguchi
JPBA50期生(2016年プロ入り)
1997年7月11日生
北海道出身・東京都在住
アスリート事務所 A’s land所属
所属店:NIKKA5(東京・武蔵小山)
主な戦績:
アマ時代:
2013年『全日本ジュニア』
(JOCジュニアオリンピックカップ)優勝
2013年『世界ジュニア』(南アフリカ開催)準優勝
2015年『アマナイン』優勝
2015年『アジア選手権』ジュニア女子の部3位
2016年『第8女流球聖戦』球聖位
プロ入り(2016年7月)以降:
2016年・2020年『関東レディースオープン』優勝(2016年大会は最年少優勝記録)
2017年『ジャパンオープン』優勝(女子の部最年少記録)
2018年『東海グランプリ』優勝
2019年『全日本女子プロツアー第2戦』優勝
2019年 中国『CBSAツアー 泰順戦』3位、同『北京 密雲戦』3位
2022年『大阪クイーンズオープン』優勝
2022年『ワールドゲームズ2022 バーミングハム』プール女子9ボール銅メダル
使用タップ:BIZEN
使用キューケース&グローブ:3seconds
公式サイト: https://www.asland.co.jp/
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