林武志・中3の日本代表ジュニア

『アジア選手権(ジュニアの部)』で初海外遠征の14歳は、「冷静な戦術家」

2015年7月

 

狭い県土の成せる技か、

伝統も進取も丸ごと受け入れられる風土故か。

神奈川は歴史的にビリヤードが強い。


ビリヤード場密度が高く、

ビリヤード選手の数も多く、

それが、競争を生み、層を厚くし、

名手・個性派を多数輩出してきた。


今ここに紹介するのは、

東京湾の西側、三浦半島の先端、三崎に住む、

14歳のプレイヤー。


名は林武志。


本人と父とが尊敬する、

神奈川が生んだ世界チャンピオン、

奥村健と同じ「たけし」を名に持つ少年だ。


夢ははっきり「世界チャンピオン」。


若き武志選手の、今のビリヤード観を探る。



写真・取材・文/BD

 

…………

 

Takeshi Hayashi


生年月日:2000年11月4日(14歳・中3)

出身・在住:神奈川県

ビリヤード歴:12年

所属:KPBA、インフィニティ

教わっている人:父、有田秀彰プロ、羅立文プロ

尊敬する人:奥村健

将来の夢:世界チャンピオン

主な戦績:2015年『全関東学生ナインボール』優勝

 

使用キュー:ADAM JAPAN

プレー:MUSASHI〈A.C.S.Sプロシャフト+ブルー10t締めタップ〉

ブレイク:BENKEI〈THシャフト〉

ジャンプ:KEN

ケースはInstroke 3B5S

Supported by NewArt

ビリヤードで好きな種目:テンボール

ビリヤード以外の趣味:なし

好きな科目:社会(歴史)

好きな食べ物:焼き肉

苦手な食べ物:刺身

 

5歳の時「世界チャンピオンになりたい」と言いました


 

――武志くんとビリヤードの出会いを聞かせてください。


「1歳半の時、お父さんがサーフィンに連れて行ってくれたんです。僕にやってもらいたかったみたいで。でも、溺れかけて、すぐサーフィンも海も嫌いになっちゃって(笑)。それで、2歳の時にビリヤードを教えてくれたんです。お父さんは昔からビリヤードもやっていたので」


――記憶はあるんですか? 2歳の時のこと。


「2~4歳の記憶はないです。その時、よく遊んでいたのが、この小さなおもちゃのビリヤードテーブル(※上の画像のもの)。5~6歳の時には一回り大きなテーブルで遊ぶようになりました。大体このぐらいで……(と、学校の勉強机ぐらいのサイズを手で示す)」


――それが2つめのテーブルですね。その次がフルサイズテーブル?


「はい。6歳の時に『ビッグバン ロリエ』(神奈川)で。一発目はカシュッってキューミスしました(笑)」


――6歳だと踏み台を使わずにギリギリ撞ける?


「なんとかギリギリできました。その時、お店に長矢賢治プロもいたこと、なんとなく記憶に残ってます」


――初めての試合は?


「9歳の時に出たビギナー戦です。3位になりました」


――その頃って、何を考えて撞いてました? ただ楽しく撞いていただけ?


「まだ球を入れることや目の前の試合に勝つことが楽しかっただけですね。でも、フルサイズのテーブルで撞く1年前くらいに、自分からお父さんに『世界チャンピオンになりたい』って言ったのは覚えてます。それで、お父さんが本気になったんです。『それはいいな。お前、頑張れよ!』って言ってくれて」


――5歳でですか、すごいね。この家に引っ越して来たのは10歳の頃ですね?


「はい。僕が本気だとわかったお父さんが、始めからテーブルを置ける場所を前提で家を探して」


――自分の家に公式テーブルがあるって……どう?


「それは、とても良いですよ。でも、これが当たり前だと思わないようにしなきゃいけないって思ってます。相当恵まれた環境なので、それに甘えて練習しなくなったら最悪なので。そこは自分に厳しく練習できていると思います」

 

爆発力を付けていかないとこの先、上には行けない


 

――ビリヤードのどんなところが好きですか?


「『自分との戦い』だというところ。相手は関係ありません。手が震えるほど緊張している時に、自分自身に打ち克って、試合に勝てた時が最高に嬉しいです」


――そういう経験が以前にあった?


「小学5年の時に出た大きめのBC級戦です。その時の楽しさが忘れられなくて続いています。あれで一段階上に上がった感じがしました」


――もともとプレッシャーや緊張に強い方ですか?


「最低ランクですね。(手で小さな丸を作って)ハートはこんなのです(笑)。自覚もしてますし、他の人からも言われてました。2~3年前まではボロくそに(笑)。最近はやっとあまり言われなくなってきました」


――そうだったんだ。最近の公式戦しか観ていないせいか、そういう印象がなかったです。


「最近は(一般の公式戦でも)やっと少し上の方に行くようになってきたので……」


――試合ではポーカーフェイスで淡々と集中している感じがありますが、意識してそうしているんですか?


「もう勝手にそうなってます。小さい頃からそうだったと思います。意識はせず、無心でやってます」


――自分自身でどういうスタイルのプレイヤーだと思っていますか?


「戦術家タイプですかね。周りからもそう言われたことがあるので」


――戦況を冷静に見て、効果的なプランを考えたり?


「はい。大きく言えば技巧派タイプということになるんだと思います。でも、技巧派で冷静な分、爆発力はない。ここ一番の球を入れて一気に走るみたいな、そういう部分を伸ばしていかないと、上には行けないと思います」


――そこまで分析できるのもすごいですね。単純に技術面での得意不得意は?


「シュートは得意ですが、ポジションはまだまだ。というか、全体的に手球コントロールがイマイチだと思います。ブレイクは横から(ナインボール用)でも、平から(テンボール用)でも得意です」

 

奥村健プロから宿題をもらいました


 

――目標にしている、または参考にしているプレイヤーはいますか?


「奥村健プロ(現JPBF。元JPBA。1994年ナインボール世界チャンピオン)です」


――そうなんだ。武志くんがビリヤードに真剣になった頃には、奥村プロは既にスリークッションに転向していたから、リアルタイムではないですよね。


「はい、お父さんが以前から奥村プロを好きで、よく話を聞いていました。映像でも観ています。本当に素晴らしいプレーをする方だなと。失礼な言い方かもしれないですけど、『満点の人』だと思いました」


――漢字は違うけど、名前が一緒ですね。


「お父さんは考えて付けたみたいです。『世界チャンピオンになってほしいから、たけし』って」


――奥村さんと会ったことは?


「2年くらい前に初めて奥村さんのお店(神奈川『ホワイトハウス』)に行きました。その頃、僕はBクラスの上の方だったかな。一緒に撞いていただいたんですけど、テイクバックが短かったので、『それを長く柔らかくするのが宿題な』と言われました。その後、昨年の1月に行きまして。キューを長く出せるようにはなったんですけど、手球が跳ねるような球質だったので、『もっと重く撞けるようになった方が良い』って言われました。難しかったんですけど、自分で色々考えながらやるうちに、最近やっとそういう撞き方が出来るようになってきたと思います」


――なるほど。他に、参考にした映像や本などがありましたら。


「これも奥村さんのですが、2005年の全日本選手権・準決勝の映像です(vs草野寿)。あれは何回も観ました。不利な状況から逆転勝ちをした、あのメンタルがすごいと思いました」

 

試合がもっと楽しくなってきました



――話は変わりますが、『全関東学生ナインボール』(7月上旬)での優勝、おめでとうございます。周りは年上ばかりだったでしょう?


「ありがとうございます。大学生ばかりでした。最初の方はあまり調子良くなかったんですが、なんとか太さでベスト4(決勝ラウンド)に入って。そこからは納得行くプレーができました」


――初めての公式タイトルですね。


「あくまで関東なので……(笑)。やっぱり全国タイトルが欲しいですね」


――今年の『全日本ジュニア』では3位でした。


「3回目の出場だったんですけど、やっとちゃんと自分の球が撞けた感じがしました。負けた試合も含めて、モチベーションやメンタル的にも安定していたと思います。ただ、1日を通して勝ち続ける強さはまだないんだとわかりました。1日で何試合もすると、思うようにいかない試合が必ず1回はあると思うんですけど、本当に強い人はそんな時でも勝てると思うんです。それができない自分は、やっぱり実力が足りないんだと思います」


――「勝ち切れる自分」になるために必要な要素とは?


「ガッツというのかな。やる気というか。僕は冷静沈着すぎて集中できてない時があります。誰とやろうが、どこでやろうが一生懸命になれるような、そんなメンタルを身に付けたいです。(トップジュニアからトッププロになった)土方隼斗プロや、(KPBAの先輩であり、元トップジュニアの)小川徳郎さんとかはそれを持っていると思うので」


――KPBA(神奈川アマチュアポケットビリヤード連盟)に入って、変わったところはありますか?


「試合がもっと楽しくなってきました。特に全国大会が。特設会場で撞いたり観たりして、『ここで自分も活躍したい』と思いました。例えば、『都道府県対抗』がそうです。来年は神奈川のメンバーとして出たいです。できればAチームに入りたいんですけど、トップ5に入るには相当頑張らないとまずいです(笑)。僕はプロになる意志がありますので、その前に都道府県対抗に出て活躍したいと思っています」


 

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