2015年5月の
『グランプリイースト第3戦』で
優勝した直後、
栗林達は、
「最近自分は撞くのが遅いと思っていた。
だから、少し速くした」
と語った(※こちら)。
撞き手本人が自覚しづらく、
コントロールしづらいもの、
それが"プレースピード"。
栗林はどのように意識し、実践したのか。
また、世界、日本、
そして自分のスピードとは?
徹底的に語ってもらった。
写真・文:B.D.
※取材は2015年6月
…………
Toru Kuribayashi
JPBA39期生
1982年6月26日生
福井県出身・東京都在住
2004年アマ『球聖』『名人』
2010年『ワールドプールマスターズ』準優勝
2011年『関西オープン』優勝
2011年『関東オープン』優勝
2014年『兵庫オープン』優勝
他、優勝・上位入賞多数
GPEでは通算9勝(2位タイ)
――GPE-3優勝直後の談話で、「自分は今まで撞くのが遅かった」と語りました。どのようにして自分のプレースピードを意識するようになったのでしょう?
「もともと、『最近、世界は全体的にスローだな』と感じていたんですね。自分が海外の大会に参戦したり、現地で観たりする中で思ったことです。たまたまかもしれませんが、対戦相手もスローな人が多かった。そして、スローな人がタイトルを獲ったり、上位に行ったりというのを観てきて、『ゆっくり撞くのがいいのかな』と思ったし、海外に出ていた日本人同士でそんな話になったこともあるんです」
――それに感化された?
「はい。僕は何かテーマが出てきたら、すぐ試したくなる方なので、普段の練習に採り入れました。性格的にも適当には撞けず気を緩めないタイプなので、ますます『きちきちっと出来ないとダメだ』という方向になり、更に遅くなっていたと思います」
――世界的な傾向と、自分の元来の性格、タイミング的に合致したんですね。
「それと、日本では『早撞きは適当』ってイメージもありますよね。いや、大井直幸を観たら全くそんなことはないし、大井が遅くなる場面も観ていますが、一般的にはそう言われがちだったりする。僕はその評価を恐れたんです。プロでの年数を重ねていく内にそうなりました」
――栗林プロのアマ時代、何度か取材しましたが、試合であのペースなら、平場ではだいぶ速かったんだろうなと思いました。
「もともと速かったですね。いや、『自分には力がある』とか『負けることなんてない』って勘違いしてたから、速かったんですよね(笑)。それが、プロになって周囲のレベルの高さを知ってゆっくりになりました。その程度の実力だったということです。後で話しますけど、相手を上だと思ったら普通は遅くなります。そして、他にも色んな経験を積めば積むほど『ゆっくりの方がいいのかな』と」
――でも、GPE-3の前に変えた。
「そう。僕は割と頻繁に練習方法というか取り組み方を変える方だと思います。例えば、いつもと同じ配置を撞く場合でも、ルーティーンを変えてみたり、リズムを変えてみたりってことをする。で、今回は『最近、俺、遅いよな。……変えてみるか』と、思い切って逆張りをしてみました」
――それは勇気が要りますね。
「調子も良くなかったんで、むしろ踏み込めましたね。『どのみち今まで通りやっても、結果が出るかどうかわからないなら、速く撞いてみて新しい自分が見付かれば良い経験じゃないか』と。本番でもそれを貫きました。少しでも『勝ちたいという欲』が出れば遅くなると思うので、欲が出てないうちにテンポ良く行くことを意識して」
――それが、たまたま優勝に結び付いた?
「たまたまですねえ。 もちろん得るものは多かったですが、はっきり言えば、現時点では速く撞くのもゆっくり撞くのもどっちもどっちだなと思ってます。良し悪しがあることなので、今後もずっと速く撞きますという訳じゃないんです」
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