――試合中に自分のプレースピードを意識することはありますか?
「あります。『ショットクロック』(タイム制ルールのこと。例:ワンショット45秒)がある試合だと、30秒経過時にコールされたりブザーが鳴りますが、その30秒コールがまず目安になりますね。その前に撞けてるかそれより遅いか。優勝したGPE-3(※準決勝と決勝はタイムルールあり)は、以前より30秒をコールされることが少なかったかな。『全体的に速めに撞けた』と解釈しています」
――例えば、自分の試合映像を観ながら時間を計ってみたことは?
「それはないですが、自分のプレー映像を観て『遅いな』って思います。プロになってから遅いですね。『時間をかけて何を考えていたんだろう』って言いたくなぐるらい。正直、自分がビリヤードファンだとしたら、タイムルール制じゃない試合の栗林達の映像ソフトは……買わないかな(笑)」
――遅くて飽きてしまう?
「そう(笑)。だから、メジャーな世界大会とか、TVマッチにタイムルールが織り込まれているのは当たり前だと思いますし、僕もそこに行けばある程度勝手に身体が反応しますけど、もっと普段から慣れておかないととは思いますね。『ワールドプールマスターズ』や『ワールドカップオブプール』などの、30秒~40秒という早いタイムルールにはアップアップになってたなと今振り返っても思うので。結局は対応力なんですよね。どんな状況・どんなレギュレーションにも合わせられるかどうか。プレースピードというのはその要素の一つです」
――プレースピードを意図して変える、特に速くするのは難しそうですね。
「精神的なものもあると思います。何らかの要因で精神的に余裕があって自分に自信がある時、例えば、『相手より自分の方が上だ』と認識できている時は、多くの人がそう困らずに速く撞けます。要は優位に立ってないとなかなか速く撞けないと思うんですよ。
逆に見ると、そういうメンタリティのプレイヤーを相手にするのはなかなかしんどいです。例えば、スヌーカー上がりの人やイケイケの若手のフィリピン人とかね。どういう根拠なのか、自分が上だと思ってスピーディーにきますから。そんな選手との対戦は正直イヤです。自分が持ってないスタイルなので。
彼らと対峙するのにゆっくり構えるしかなかったのが今までの自分。でも、いつでも『俺も出来るよ』ぐらいは見せられるだけのスピード感がないと、世界では戦えないのかなと思います。『つられちゃう速さ』じゃなくて、自分に備わってる速さでね」
――プレイヤーはどういう時に遅くなるんでしょうか?
「遅くなる一番の要因は、まず自分に自信がないから。自信のありなしは、対戦相手との関係で決まります。相手を基準に自分のレベルが上か下か等しいかによって、スピードが変わると思います。仮に自分が撞き込んでいなくて状態が悪くても、相手を見て『自分より下だな』と思ったら速くなれます」
――反対に、いっぱい撞き込んでいても『自分より上だな』と思う相手がきちゃうと、遅くなる?
「はい。『別に負けてもいいや』って思う場合は別ですけどね。『上』の相手を前にして、少しでも勝ちたいっていう『欲』が芽生えていたりすると遅くなります。大井はあれだけ速いですけど、客観的に見ていると、彼が『勝ちたい』って思っているはずの試合は構え直すことも多いです。その動き自体が速いですけどね。でも、余裕がある時は構え直さない」
――テーブルコンディションが合う・合わないというのは?
「基本的にプレースピードに影響しないと思います。それは『失敗した時や負けた時に、後から言葉に変えられるもの』かな。それに近いものとして……時間をかけて失敗した人は、『ルーティーンが崩れた』『最終ジャッジが悪かった』『精神状態が悪くなった』と言い、時間をかけないで失敗した人は、『調子に乗った』『コンディションを掴めてなかった』と言います。これ、結局は両方一緒だと僕は思います。『自分』がないから出てくる言い訳にすぎないと。僕もそういうことを言ってしまうからわかります(笑)。こういった要素はスピードに関わる直接的な要因じゃないだろうと思います」
――なるほど。海外選手の中には、「日本の選手は遅い」と言う人が少なからずいますが、これについては?
「僕は、日本語という言語と日本人の感受性みたいなものが影響しているのかなと思います。例えば、海外だとストップショットならストップショットで、その現象重視というか、まず結論ありきというか。『止まった。なら、OK』という感じがするんです。でも、日本ではどういう風にストップしたか、その球質や止まり方などを細かく表現するだけの言葉があり、そのニュアンスにこだわる部分がある。こう止まるのが美しいとか。そういう人が、これからストップショットを撞こうとしたら……半テンポ遅れますよね」
――そうかもしれない。その観点はなかったです。
「基本的に、気になる要素をいっぱい感じとってしまうのが日本人の性質。『気になるイコール遅くなる』だと思います。その反面、細やかさがある分、世界中のテーブルコンディションに対応しやすいのが日本人なのかなとも思います。持って生まれた繊細さというか」
――良い面もあると。
「もちろんです。そして、大井と川端(聡)さんは日本人っぽくない考え方をしているのかなって思います。まず、現象重視、結果ありきで、後から自分を見つめるっていう順番に思えるんですね。極端なことを言うと、コジッても(ストロークがブレても)入ればいいと思っているんじゃないかと。だから、速いですよね」
――実際どうでしょう、栗林プロの目で比較して、日本は海外より遅い?
「日本の方が全体的に少しだけゆっくりだと思います。でも、遅いってほどじゃないかな。他国の選手の方が速いとすれば、それは決断の早さ。特にヨーロッパの選手などは、セーフティかオフェンスかという部分がすごくはっきりしている人が多い。でも、それは他の選択肢を知らず、ワンパターンの技術と知識を応用させているだけかもしれない。日本人の方が、知っている分迷うから遅いって部分も僕はあると思ってます。ただ、ヨーロッパの選手も非常にゆっくりな人からものすごく速い人まで幅広いので、個人差がありますけどね」
――昨年の世界選手権で栗林プロが当たった2人のギリシャ人は、シンプルなプレーに徹していた印象がありますが、2人ともスローでしたね。
「メンタルを安定させるのにゆっくり時間を使っていた印象でしたね。球の内容を見てて技術力や知識はそんなに無いなと思いました。はっきり言えば、やってることは全然上手くない。でも、気持ちの落ち着かせ方が上手くて、ショット力はありました」
――それに合わせてなのか、栗林プロも遅くなっていたように見えました。
「僕だったら絶対失敗するなってところでも失敗しないので、『なんでずっと失敗しないんだ』って目で見ていたし、こちらも慎重になってました。引っ張られてましたね」
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