2014年5月は「栗林」の月だった。
JPBAプロランキング対象試合は
男子2つ女子1つの計3つ。
それを、達→美幸→達と
夫婦で交互に制覇したのだから。
(※6月中旬の女子ツアーで美幸は準優勝。
惜しくも「栗林4連続」はならず)
6月初旬、この機会に、と、
聞きたいこと山盛りで栗林夫婦に接近!
互いをどんなプレイヤーだと思っている?
子供を授かってからの生活とは?
そもそも2人の出会いって?
「まずは乾杯から」で始まった夫婦対談は
とどまることを知らず、エンドレスの気配。
始めのほんの1/8ぐらいをお届けします。
取材・文・写真/BD
写真協力/Akira TAKATA
…………
Toru Kuribayashi:
JPBA39期生
1982年6月26日生
福井県出身・東京都在住
愛称は「クリ」「超人」
2010年『ワールドプールマスターズ』準優勝
2011年『関西オープン』優勝
他、優勝・上位入賞多数
Miyuki Kuribayashi:
JPBA37期生
1979年1月13日生
香川県出身・東京都在住
『ジャパンオープン』連覇
『関西オープン』3連覇(通算4勝)
他、優勝・上位入賞多数
2013年後半に産休からトーナメント活動に復帰
――普段、家で2人でビリヤードの話はするんですか?
美:します! 日々してます。
達:しないことがないよね?
美:そうだね。
達:試合の前、一緒に撞いてる時、試合の後……。
美:日々ビリヤードのことを話してるね。
――元々お2人はビリヤードで出会ってるんですよね?
美:互いにアマチュアの時から存在は知ってはいました。
達:僕が美幸を知ったのは広島の『スポレク』(2002年大会)でした。
美:女子級がなかったので私はB級で出てて。準決勝で穴前の球をすっ飛ばして負けて(笑)。
達:でも、その時に「女子でこんなに撞ける人がいるんだ」って思った。
美:私が23か24歳だったと思う。ビリヤード始めて2年くらいでした。
達:当時僕は始めて3~4年目かな。
美:私はまだその時はクリを知らなかった。その後『ビリヤードマガジン』で栗林達っていう名前を知って。ちょうど広島の次のスポレクが香川(美幸プロの地元)だったから、「どんなもんなんだろう?」って思って。
――ああ、クリさんがアマ界で有名になってた頃ですね。
美:騒がれてましたね。「すごい入れるらしいよ」って香川のビリヤード場でも話題になってました。
達:たぶん僕の名前が広まったのは、桧山プロ(春義。故人)のお陰ですね。桧山さんが好意的に口にしてくれたんだと思います。
美:亮ちゃん(青木亮二プロ。香川で美幸プロの兄貴分的存在)も言ってたよ、「栗林、これから来るな」って。でも結局、香川のスポレクでは優勝しなかったから、私は「たいしたことないじゃん」って(笑)。
達:(笑)。
――手厳しい(笑)。2人が実際に出会うのは?
美:その年(2003年)の全日本選手権ですね。私はプロで出てて。
達:僕はアマでしたけど、出場権を獲得できたので出てました。
美:人づてに紹介してもらって、ご飯を一緒に食べましたね。それが初対面。
――美幸さんが先にプロになってるし、年上でもある。そこはクリさん、礼儀正しく挨拶して?
達:基本、真面目ですから。
美:私は「チャラいな」って思った。
――はははは。クリさんってそう見られますよねぇ。
美:うん。だから、「選手権、どんだけ撞けんの?」って感じで試合を見てたの。
――こわいって!(笑)
美:そしたら、全ッ然球を入れないの(笑)。しまいには7番をぶっとばして負けて。
達:ダセー(笑)。
美:私も「ダセー」って言ったのが始まり(笑)。その後、クリがプロになって、『日台若手対抗戦』で一緒に行動したりして仲良くなりましたね。
――2人はアマ時代から超アマ級の存在として知られていました。クリさんも美幸さんの球に惹かれるものがあったのでは?
達:正直、ちゃんと見れば見るほど、「ここまで上手いとは」って思いましたね。上手いというか、入れる。全然下手なんですよ、見てたら。でも、入れる。男子プロと撞いてても入れ勝つことがあったし。
美:ビリヤードを始めて数年間は縦の撞点しか撞けなかったです。ヒネリは使わない。そういうスパルタ教育を受けてまして、縦の撞点だけでマスワリ4連チャンとかしてましたね。今じゃできない(笑)。
達:知り合って後々そういうことを聞くと、やっぱりトップになるような人は成長過程のどこかで針が振り切れるような練習とか体験をしているものなんだなって思いますよね。
美:それでも、プロ入りからしばらく準優勝ばっかり8回もやってて、あの頃は辛かったよ。決勝に行けば負けて。「一生優勝できないんじゃないか」って思っていたけど、プロ3年目(2005年)にやっと優勝できた。実はその時の試合会場が、クリが当時働いていたお店なんですけどね(笑)。
達:そうそう。で、初めて2人で一緒に撞いたのもうちの店舗だった。その時のことは覚えてるんですけど、9-7のハンデでやって、オープニングで僕がマスワリ7連発したんですよ。
――マジですか(笑)。どれだけ本気。
美:そうそう。
達:めちゃくちゃ震えてる訳、お互い。
美:クリも様子がおかしいの。でも7連チャンして。
達:そしたらね。美幸がそこから取り切って1点返して、そこからマスワリ6連チャンで上がり(笑)。うそでしょ!? って思って。
――マジかー!?(笑)
達:僕が「マジかー!?」ですよ(笑)。
美:すごくない?(得意顔) 私、「やったー!」って走り回ってたね(笑)。
達:でね、続けてもう1回やったら、互いにもうグダグダのボロボロですよ(笑)。
美:最初だけだったね(笑)。
――美幸さんはプロ入り当初、準優勝ばかりで辛かったという話ですが、クリさんもプロ入りしてから4年ぐらいは苦しんでいましたね。
達:今もそうだけど僕はあがり症で、どうしてもあがっちゃって、いまいち力を出せない試合が続いてましたね。プロ入りして4~5年はそうでしたよ。実力を皆に見せられないもどかしさがある中で、人から色々と言われたり叱られたりというのが続いてて僕はめちゃ苦しかった。
――壁にぶつかっていた。
達:うん。あの頃たぶん美幸は、亮ちゃん(青木プロ)を基準にして男子プロを見ていたと思うんだけど、当時の僕は亮ちゃんから見ても美幸から見ても評価が低かったと思います。たぶん皆から見てそうだったんじゃないかな。
美:亮ちゃんはそうだったかも。でも、私が「いや、クリは上手いよ」って亮ちゃんに言ったら、「え? うそ? うまいん?」ってなってた(笑)。
達:しばらくして、僕がやっと実力を出せるようになった時に、亮ちゃんに認めてもらった実感はあるなぁ。プレーもしやすくなったし。
――あがり症って今初めて聞いたんですけど、書いて良いんですか?
達:良いですよ。たぶんどのプレイヤーもそうだと思う。むしろ逆に「僕はあがっててこれですよ」って言いたい。トッププロ達もあがってると思いますよ。あ、隼斗と大井はちょっと違うかなぁ(笑)。
――わかる気もします(笑)。
達:僕は福井の田舎育ちだし、表に出た経験もあまりないから全国大会なんてドキドキもので。でも、すぐ勘違いするタイプだから、台湾とか行って有名な選手といい勝負をしたら「もう日本では負けない」みたいな(笑)。アマ時代、名人位を獲った頃(2004年)なんてそんな感じ。
――ああ、クリさんが自信ある時ってわかりやすいかも。態度や言動でね。家でもそんな感じですか?
美:そうそう。すぐおどける。それは楽しいんだけど(笑)、すぐ調子に乗るのがわかるから「そんな状態じゃダメだよ」って言う。
達:言われる。
美:「調子乗ってるね。お疲れ。しばらく勝てないよ」って。そしたら本当にしばらく勝てない。
達:(笑)。
美:素直なんですよね。落ち込んでる時は落ち込んでるっていうのもすぐわかるし。
――じゃあ、美幸さんはどうなるの?
達:僕と全く一緒(笑)。
――一緒なのか!(笑)
達:わかりやすいですよ。
美:一緒だけど、本当に調子に乗るってことはないですね。やっぱりクリが近くにいるし、男子のクリより女子の私が上手くなるってことはない訳ですから。
達:その辺の感覚は僕にはわからないですけどね。ほとんどのスポーツで男子と女子の世界があって、女子で一番になっても、どうしても男子には敵わないじゃないですか。その感覚はさすがに僕もわからない。
――2人同時にいい気分になることってありますか?
美:今がそうかもしれない。クリが『GPE-3』で勝って、次、私が『大阪クイーンズ』で勝った時、「じゃあ、次(GPE-4)は俺かな」って。
達:互いに刺激し合っているところはありますよね。
美:GPE-4の日の朝、クリは「ベスト16は誰を引くかな」(※試合前に抽選がある)って言って出掛けて行った。そしたら隼斗だった。
達:隼斗と当たったのは全然嫌じゃなかったですね。「うわー、どれだけ入れられるんだろう」って思ったけど、そういう風に相手を見られるというのは、自分の状態をちゃんと把握できているからだと思うし。
――今栗林家にはお子さんがいて、クリさんにはJust Do Itの仕事もある。互いにビリヤードの時間はどう捻出しているんですか?
美:私は普段、母や妹が仕事が休みの時に子供を預けて練習に行ってます。でも、試合前は毎日撞きたいから、クリがだいたい夕方に仕事から帰って来るので、クリに子供を任せて、夕方から練習に行きます。そういう時はクリは夜に撞きに行ってます。
達:睡眠時間を削って練習してます。
美:試合が無い時は私はそこまでガッツリは練習しないので子供といます。
達:あと、互いに誰かに練習会に誘われた時はそれを優先できるようにしているかな。
美:そうね。「よろしくー!」って相手に任せて、しっかり撞いてくる。そんな時以外は、私は夜7時以降に外出することはめったにない。子供を寝かせてそのまま一緒に寝ちゃうという健康的な生活です。
達:ありがたいのは、お義母さんと妹が応援してくれていることですね、僕らのプロ活動を。
美:嫌な顔ひとつせず子供を見ていてくれるので、感謝してます。そういう環境にいられることは恵まれていると思っています。私達2人だけだったら、こうやって練習時間を作るのは無理だったでしょうね。
――結婚、出産や生活環境の変化に伴って、プロ活動、特にトーナメント活動を休んでしまう人もいます。でも、美幸さんは復帰してきた。それは自然な成り行きだった?
美:うーん、私の場合は、結婚して子供ができたから勝てないとか、休んでたから勝てないって言われたり思われたりするのが悔しいという気持ちもありましたね。
達:僕も、女子プロがそう思われちゃうのはビリヤード界的にプラスではないと思う。
美:でも、やっぱりそう思われてしまいがちです。そこで、「そうじゃない、できるんだよ」って私は自分で示したいという思いがありました。身近な存在だと、真紀ちゃん(木村プロ)が間もなく出産です(※7/4に第一子誕生)。彼女もなるべく早く復帰する予定だと言ってましたね。彼女のビリヤードに対する気持ちは私より全然上ですよ。
――美幸さんは去年の後半から活動を再開しましたね。
美:去年の7月から練習を再開して、9月から試合に出始めて。今年は全部出ようって思っていた矢先、年明けの関西オープンで勝てました。あれは展開に恵まれたところもあるけど、毎回できる限りの準備はして行っているし、「絶対優勝する!」って思って撞いてます。
達:美幸がそういう強い気持ちになれたのは、梶谷景美プロのお陰でもありますね。
美:ですね。梶谷さんに色々なことを話して頂いて、燃えたし奮起した。今も試合で直接対戦できる時があると気合いが入ります。とても大きな存在ですし、原動力にもなっている人だから感謝しています。