昨年(2022年)の「初防衛」は
10時間(6セット)に及ぶ長丁場。
今年は約6時間(4セット)で決着。
梶原愛・女流球聖は、
前年よりもしたたかに、
そして落ち着いてゲームを進め、
2度目の防衛を実らせた。
己を知れば百戦殆うからず――
自身のミスを減らし、
相手には楽をさせない、
そんな最善手を打ち続けたこと、
つまり一貫性こそが
4-0快勝の源だったのではないか。
熱戦の翌日に話を聞いた。
Photo : On the hill !
――2度目の防衛から丸1日経ちました。勝利の実感は?
梶原:今回はだいぶ実感がありました。去年(初防衛時)は試合が終わる頃にはほとんど応援の人達がいなかったんですけど、今回は応援団の皆さんと試合直後に打ち上げをしまして、そこで皆さんに祝っていただけたので。
――東京に戻って一晩明けていかがでしょうか。達成感や喜びは?
梶原:「防衛出来てひと安心」というのと「上出来だったな」って感じですかね。
――セットカウント4-0とスコア的には完勝でした。この展開は予想出来ましたか?
梶原:いや、全然です。去年みたいに競っちゃうのかなとか考えてましたし、ヒルヒル(セットカウント3-3)まで行く覚悟もしてました。終わってみたら4-0だったという感じです。
――去年の初防衛時と今回とでは試合前の心境は違いましたか?
梶原:始まる前までは結構同じ感じだったかな。1週間ぐらい前から……特に前日は「全然仕上がってないし、ちょっとヤバいかも」という感じで、結構ナイーブになってたというか不安は強かったです。でも、試合が始まってみたら去年より少し落ち着いてたという。慣れもあったのかなという気がしますけど、思ったより変な焦りとか緊張感とかがない状態でプレーできたかなと思います。
――試合前の準備や調整などは順調でしたか?
梶原:2週間前ぐらいから本番の環境に合わせて練習しようと思って、今回はホームの『相馬』は新ラシャにする予定がなかったので、都内で新ラシャが張られているお店を探して2店舗ぐらい撞きに行ったのと、やっぱりメトロ(本番で使われるブランズウィック社の『メトロ』テーブル)に耐性をつけておいた方がいいなと思って、メトロがあるところに2店舗ぐらい行きました。
――テーブルと新ラシャ対策を。
梶原:そうです。でも、それはその数回ぐらいで、あとは普段通りホームの『相馬』に行ったり、ハウストーナメントに出たりって感じでした。
――2度目の防衛に向けて、どういうプレーを心掛けていましたか? テーマなどは?
梶原:テーマ……何でしょうね、いつも同じなんですけど、『少しでも前回よりは良い球を』とは思ってました。ちゃんと成長していたいなっていうのは毎回思っていて、去年の初防衛の時はその意味ではあんまりだったなと思ってるんですけど、今年はそこは達成できたかなと思います。例えば、去年はたくさん9番を飛ばしましたけど、今年はなかったので。
――井上直美選手とは初対戦でしたね。
梶原:そうなんです。同じハウストーナメントに出てたこともあったんですけど、その時は別の山にいたりとかでなかなか当たることがなくて。なのでこの場で対戦できてすごく嬉しかったですね。やっぱり当たったことのない方とやるのは楽しいです。
――井上選手の印象は?
梶原:もちろん以前プロだったことも知っていますし、プレーを見る機会もありました。前日の『挑戦者決定戦』も見てまして、出来ることが多くて総合的にレベルの高い方だなと改めて思いました。スリークッションもやっておられますし、特に空クッションがすごく上手いなと。単純な上手さだと勝てないだろうから、自分がどれだけミスをしないかだなと思ってました。
――実際、梶原選手のミスが少ない試合だったと思います。ご自身ではどこが良かったと思いますか?
梶原:試合動画を少し見返してたんですけど、全体的に引き球の加減が合ってたかなと思います。試合テーブルは新ラシャなので思った以上に引けたりしちゃうんですけど、今回はそのへんの加減がいつもより上手くできていて、出したい所に手球を出せてたかなっていう感じですね。あとは、8番から9番へのポジショニングが上手くいってたんで、土手撞きになったりすることもほとんどなく、落ち着いて9番を撞けたことも良かったと思います。
――セーフティや空クッションの精度もさらに上がっていた印象を受けました。
梶原:空クッションは……単純な1クッションも当てられずに3ファウルを取られた場面もありましたし(第4セットの第7ラック)、まだ全然ダメだなって思いましたけど、セーフティは割と上手くできたかな。井上さんが空クッションが上手いので当てられちゃってるんですけど、自分としては変なセーフティミスは少なくて、やることはやれたと思います。あとは、チョイス、組み立てが全体的に良かったと思います。
――見ていて感じました。セーフティの使い所など、常に一定の判断基準をキープしていたように思いました。
梶原:はい、判断は結構良かったかなと。すごく攻めたい気持ちになったり、「これを入れたら……」って夢見がちになった場面もあったんですけど、あのテーブルの難しさはよくわかってましたし、そんなに上手く行くもんじゃないって思ってたので、ぐっとこらえて「我慢我慢」と。
――一方、ブレイクには苦労していた様子もありました。
梶原:そうですね。ブレイクはあんまり取り出しが良くならなくて。そこは反省点というかダメな部分でしたね。井上さんのブレイクはすごく上手かったですね。
――印象深い場面や、キーポイントだったと思う場面とは?
梶原:最後の第4セット目の1ラック目ですね。私が取り出しの1番を外して、井上さんがセーフティに行ったけど1番は見えてました。土手のロングではあったけど、あの1番を入れてそのまま取り切れたのが自分としては結構良かったなと思ってます。見ていた人達から言われたのは、そのセットの終盤の9番カットですね。7番から9番に出し足りなくて、9番が薄くなったやつ。
――第4セットの第8ラックの9番ですね(入れて6-2とリーチをかけた)。9番が短クッションの真ん中当たりにありました。
梶原:それです。あれは皆に褒められました。あの9番をもし長―長にセーフティをしてもバンクで入れられるなと思ったし、今回井上さんがああいうカットを何度もしっかり撞いて決めてたんで、ちょっと影響受けてしっかり行きました。もう「えいやっ!」て感じで。
――上がりのラックは、相手の4番ミスから撞き番が回ってきました。状況的にも落ち着いて取り切りに向かえたのでしょうか。
梶原:そうですね。これを取られたらイヤな流れになりそうだなっていう感覚はちょっとあったんですけど、とはいえまだスコアは余裕がありましたし、配置がそんなに難しくなかったので割と落ち着いてました。でも、最後の7番から9番は悩みましたね。7番が厚くなっちゃったんで。
――7番はほぼ真っ直ぐに見えました。
梶原:ちょっとだけフリはあったんですけど、叩くと(強く撞くと)あのテーブルは全然受けてくれない(的球が弾かれる)んですよ。だから、とりあえず暴れないような加減で引こうみたいな。そうしたら思ったよりも引けちゃって、結果、反対のコーナーに対して真っ直ぐになってくれて……最高でした(笑)。ほんとはヘッド側のコーナー、あるいは引けたらサイドポケットだなぐらいに思ってたんですけど、まさかそこも越えて引けてくるとは、みたいな。
――これで在位3期目です。「アマ女王」の座にいることを楽しく感じる時もあるのでしょうか。
梶原:え~、それはどうですかね。とりあえず近いところで『関東オープン』(4月15日~16日)に出るので、そこで少しでも上に行けたらいいなというのと、予選に通れば『アマナイン』(6月下旬)ですかね。その後は少しお休みする予定なのですが、次の防衛戦までには復帰したいと思います。女流球聖位については退く時はしっかり負けて退きたいと思っている一方、タイトルがなくなるのも寂しいので、また次回の防衛に向けて頑張って行きたいと思っています。
――最後に、応援してくれた方々へメッセージを。
梶原:私はコロナ禍になった年(2020年)に初めて『挑戦者決定戦』と『球聖位決定戦』を撞いたんですけど、当時は【会場内人数制限あり・声出し応援禁止】でした。今回初めて皆の拍手と声援を受けつつ試合をすることができたんですけど、ナイスショットの後に褒められたりとかするとほんとにすごく嬉しかったです。遠くは福岡から来てくれた方もいて、総勢20人くらいかな。皆の応援が励みになりました。同じように井上さんにも『KULICKS』応援団が付いていて、たくさんの方が熱心に応援していました。すごく良い雰囲気でしたし、「やっぱり球聖戦はこうじゃなくっちゃな」って感じがしましたね。
(了)
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Ai Kajihara
生年月日:1986年10月30日
出身・在住:東京都
所属店:『ビリヤード相馬』(東京)
プレーキュー: Far East(シャフトはFar East 零式〈type-0〉、タップはエルクマスターを締めたもの)
ブレイクキュー:PREDATOR BK RUSH
ジャンプキュー:Y2-J
所属連盟:なし
ビリヤード歴:約16年
女流球聖戦以外のアマ公式戦入賞歴:
2019年『第18回鹿児島国体県民参加プログラム大会・アマチュアビリヤード都道府県選手権大会』準優勝、
2021年『全関東ビリヤード選手権大会・女子級』優勝
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