森雄介・韓国で3Cトップを目指す

スタートダッシュ失敗を挽回するために

2025年1月

2023年9月『PBA SY Championship』にて © 2023 PBA
2023年9月『PBA SY Championship』にて © 2023 PBA

 

世界屈指の

スリークッション(3C)強国、韓国で

今最もTVやライブ配信での露出が多く

名を知られている

日本人男性ビリヤードプレイヤー、

それが森雄介だ。

 

10代から日本トップアマとして活躍。

2014年に20歳キャロムビリヤードの

プロ(JPBF)になり、国内外で戦った。

 

2021年9月、設立3シーズン目を

迎えた新興3Cプロツアー、

PBA』へ挑戦するため渡韓。

 

勝てば高額賞金と高いステータスが

得られる舞台で、森は何度も

早いラウンドで跳ね返された。

 

しかし、着実に力を付けていった森は、

挑戦3年目の2023年に

初めて準優勝を飾ると、

4年目となる2024年は

一部のPBA選手達しか参加できない

チームリーグにも指名された。

 

球を撞くことが仕事。

そんなフルタイムのプロプレイヤーになれた。

 

現在韓国在住で、以前に韓国で

ビリヤード留学をしていた経験もあり、

言葉もできる森は、

韓国のプレイヤー達や

ビリヤード関係者にも認められ、

しっかりと活動基盤を築いている。

 

2025年、

さらなる飛躍を見せてくれそうな森。

2024年末、一時帰国中に話を聞いた。

 

当時は「こんなに通用しないのかぁ……」って


 

――ひさしぶりの一時帰国ですね。日本では完全にオフモードですか?

 

森:はい、のんびりしています。『アレナ』(父・森陽一郎プロが営む東京・江古田のビリヤード場)には毎日顔を出してますけど、そんなにしっかり練習はしてません。PBAのシーズンは6月から翌年3月までで、その間は個人戦とチームリーグを合わせると結構試合が続くんですけど、年末年始のこの時期だけは1ヶ月半ぐらい空きます(※)。だから、PBAの選手達は皆休んでますね。で、1月中旬から練習を再開する感じです。僕も韓国に戻ってからスイッチを入れます。

 

(※PBA個人戦・第8戦は1月24日開催。PBAチームリーグのラウンド5は2月7日開催)

 

――3年前から韓国に住んでいますが、どこに住んでどんな環境で練習していますか?

 

森:PBAのスタジアム(『KINTEX PBA Stadium』)があるコヤンという街(ソウル近郊)の近くに住んでいて、普段は家の近くの球屋で練習してます。そこのお客さんは皆、僕が撞いている時はほっといてくれるので練習に没頭できますし、居心地がいいお店です。毎日そこで5、6時間一人で撞いて、ご飯を食べて家に帰るっていう生活です。たまに仲の良い選手と一緒にご飯に行くこともあります。

 

――練習メニューは?

 

森:いつもだいたい一緒です。「これだけはやっておかないと」という球があるのでまずそれをやって、それからはその時々で取り組んでいる球を撞いてます。ほぼショットの練習ですね。

 

――練習で人と撞くことは?

 

森:月に2、3回、PBAチームリーグのチームメイトのサンチェス(※)に撞いてもらってます。2人で撞く時はPBAスタジアムの近くにある『アカデミー』という25台ぐらいある大きな店舗でやってます。

 

(※ダニエル・サンチェス。4度『3C世界選手権』を制したスペイントップスター。2023年にPBAへ転向、2024年優勝1回。森プロは10代のアマ時代、スペイン短期ビリヤード留学でサンチェスに師事していたこともあり親交は長い。現在2人はPBAチームリーグで同じチーム〈SY Builders〉に所属している。8年前のサンチェスのインタビュー記事はこちら

 

――森プロがPBA個人戦にデビューしたのが2021年9月。当初はなかなか勝てませんでした。どんな心境でしたか?

 

森:さすがに焦りはあったと思います。今となっては「あの頃の実力だったらそりゃそうだろう」と思えますけど、当時は予想していた以上に結果が出なかったので「こんなに通用しないのかぁ……」って。あまりに勝ててなかったんで自信もなくなっていきました。でも、実力が足りてないことははっきり理解していたので、「じゃあ練習するしかない」っていう考えでした。少なくとも勝てない理由を他に求めてはいなかったですね。

 

――「他」とは?

 

森:「メンタル」とか「コンディションへの慣れ」とかです。シンプルに力不足だから勝てないんだと。

 

――ですが、実際にPBAのテーブルと試合フォーマットは、日本やUMB(世界ビリヤード連合=キャロムビリヤードの統括団体)の海外大会とは違います。

 

森:違うのは違うんですけど、その対応能力がないことも含めての実力不足です。以前は本当の意味で違いを理解して撞けていたとは思えません。それが「慣れてない」ということだと言えばそうなんですけど、それを含めて力がなかったということ。勝てないのは全て実力不足だからだと思ってます。

 

2023-2024シーズン第4戦『SY Championship』(2023年9月)で準優勝 © 2023 PBA
2023-2024シーズン第4戦『SY Championship』(2023年9月)で準優勝 © 2023 PBA

トップオブトップ達との差は「頭」だと思う


 

――PBA挑戦3シーズン目となる2023-2024シーズン第4戦『SY Championship』(2023年9月)で準優勝を飾り、今シーズン(2024-2025シーズン)第2戦『Hana Card Championship』(2024年6月)では3位入賞を果たしました。以前より戦えるようになったという実感はありますか?

 

森:準優勝した時はある程度の達成感がありました。満足はしないようにしてますけど、「この舞台で戦える最低レベルには達したのかな」と。自分が目指しているところはここではないし、スタートラインに立っただけだと思うのでまだまだですけど、遂にトップの人達と戦えるところまで来たんだなという感覚はありました。

 

――優勝をするには何が必要だと思いますか?

 

森:さっきと同じ答えになりますけど、まだ実力不足です。単純に力が足りてない。

 

――「力」というのは「当てる力」のことですか?

 

森:当てる力もそうですけど、どれだけ球を、ビリヤードのことをわかっているかっていう「頭」の部分ですね。どちらかと言うと僕には頭が足りてないと思ってます。

 

――頭は経験を積むこと以外に鍛えようがありますか?

 

森:経験ももちろん必要ですけど、きっかけは自分より上の誰かから教わったり、アドバイスをもらうところじゃないかなと。そして、どれだけその球に対して自分なりにちゃんと考えて練習しているか、普段からどれだけ頭を使ってやっているかが問われると思います。

 

――サンチェスと撞いている時もそういう話を?

 

森:最近はほぼそういう話しかしないです。ちょっと前までは文字通りの「腕」、ストロークとかショットの技術が足りないって思ってたんですけど、サンチェスと同じチームでプレーするようになってから、「頭」の差が大きいんだなと実感しました。サンチェスと普段から一緒に撞いてそういう話ができるなんて本当に良い環境にいるなって思います。もちろんサンチェスを含めたトップオブトップ達は腕も桁違いなんですけど、それ以上にレベルとか格の違いを感じさせる何かがあります。それはなんだろうって考えた時に、頭の差だとわかりました。

 

SY BUILDERSのメンバー。「師」のサンチェスは左2 © 2024 PBA
SY BUILDERSのメンバー。「師」のサンチェスは左2 © 2024 PBA

チーム戦は自分だけのものじゃない


 

――今シーズンから森プロは『SY BUILDERS』の一員としてPBAのチームリーグにも参加しています。やはり個人戦とは違いますか?

 

森:全然違いますね。チームリーグをやる前は、「ショートゲームだし、気楽にこなせたらいいかな」という気持ちもちょっとあったんですけど、実際やってみたら全くそうもいかなくて。

 

――チーム戦特有のプレッシャーもあるでしょうし。

 

森:自分の出番は基本的に1セット。15点とか11点のゲームを1回プレーするだけです。だからこそ、1球1球をどれだけ理解して、どれだけ自信を持って撞けるかが大事だということがわかりました。今まで個人戦は流れで撞いていた場面もありましたけど、チーム戦ではそれは通用しないです。

 

――個人戦だったら、責任も結果も自分だけのものですが……。

 

森:そうなんです。チーム戦は自分だけのものじゃない。全てがチーム成績に影響します。だから、1球1球を理解して撞かなきゃいけないなって。僕は他のチームメイトの試合も球を見ながらずっとサンチェスと話をしています。そのおかげで、1球ずつ「どうしてこうなるんだろう」って考えるようになりました。今シーズンはチームリーグに参加することで「頭」が一番変化したと思います。自分に足りないものがわかるようになってきたし、「もっと球を理解したい」と思うようになりました。

 

――サンチェスと同じチームにいることの価値の大きさを感じます。

 

森:同じチームに入れることが決まった時は嬉しかったし、チームリーグに参加することが自分のビリヤードにとってとても大きなことになるだろうというのはわかっていました。どんな世界でもそうだと思いますけど、世界チャンピオンに何度もなるようなレベルの人と球の話ができることってなかなかないじゃないですか。

 

――チームは今のところ成績が良くない(9チーム中最下位)ですが、森プロ個人の手応えは?

 

森:チームの助けにはなれてないというのが正直なところです。でも、もう終わったことですし、しょうがないなと思ってます。今シーズンあと2ラウンド、自分にできることをやるだけだなと。ここからチームが良くなることしか考えてません。

 

チームリーグ戦での森 © 2024 PBA
チームリーグ戦での森 © 2024 PBA

本当のトップ達が見ている景色を見てみたい


 

――PBA個人戦で上位進出が増えて、PBAチームリーグにも出ていると、キャロムビリヤード大国の韓国では名前や顔が売れるのでしょうか。

 

森:そうですね。韓国ではテレビでPBAとか3Cの試合が常に放映されていて、見ている人も多いから、PBAでベスト4とか決勝戦に行くと、皆からチヤホヤされます。街を歩いていて声を掛けられることもあります。「こないだの試合見たよ。良かったね」とか。まあ、声を掛けて来るのはだいたいおじさんなんですけどね(笑)。PBAの視聴者の90%が男性なので。

 

――ビリヤードのプロ選手として世間に広く認知されているという環境は、ちょっと日本では想像できないです。

 

森:日本ではどれだけ試合で優勝しても、どんなにビリヤードが上手くてもそんな状況にはならないでしょうし、まるで違います。日本にいたら味わえないような環境に身を置いて活動出来ていると思いますし、日々充実はしてます。街なかで声を掛けられたり、飲食店のテレビで自分の試合が流れてたりするのはちょっと不思議な感覚ではありますけど。ただ、この環境にいると勘違いしちゃう危険性もあるので、良い評価は好意的に受け止めながら、調子に乗りすぎないように気を付けてます。

 

――この環境に身を置き続けたいと思いますか?

 

森:ここに居続けたいというふうには考えてなくて、プレイヤーとしてもっと上の世界を見てみたいと思ってます。PBAに限らず3Cのトップの人達にはどんな景色が見えているんだろう、自分もそれが見てみたいなって。今の自分には、何年か前の自分に見えてなかったものが見えてる訳じゃないですか。だから、さらに上にいる人達には別のものが見えてるはずなんです。

 

――今サンチェスと一緒にいる時間が増えてますから、少しずつ彼の「頭」がインプットされ始めているのでは。

 

森:そうですね。最近サンチェスの話が少しずつ理解でき始めてきているので、以前よりはトップレベルに近付いているとは思います。でも、たぶんサンチェスは今でも僕とは違うものを見てると思います。というか、どの世界でもトップに君臨している人には他の人とは違う景色が見えてると思います。例えばスヌーカーならR・オサリバン、ポケットならJ・フィラーとか。そういう本当のトップ達が見ている景色を見てみたいですね。

 

© 2023 PBA
© 2023 PBA

僕はスタートダッシュに失敗してるんで(笑)


 

――今後の目標は?

 

森:昔から変わらないんですけど、ちょっとでもいいから今より上手くなりたいというだけです。だから、これといって具体的な目標はないんですけど、チームリーグではもっとチームの勝利に貢献できる選手になりたいと思ってます。個人的には……今から何年かの間に本当のトップになりたいと思ってます。PBAで1回優勝するだけじゃなくて、多くの人が「今はあいつが一番だよ」と納得するような存在になりたい。そのためには実力を付けないといけません。それは早ければ早い方がいいんですけど、僕はスタートダッシュに失敗してるんで……(笑)。

 

――「スタートダッシュ」とはいつのことを言うのですか?

 

森:成功する人は10代~20代前半で3Cのトッププレイヤーになってます。サンチェスもそうですし、韓国なら趙明優(チョミュンウ)とか。僕はスタートダッシュに失敗した人間なんで、年取ってから巻き返すのは大変なんですけど、せっかく今こんな良い環境にいるんで諦めずに今自分のできることを一生懸命やっていきます。トップ達がいるところはまだまだだいぶ遠いですが頑張りますよ。サンチェスから盗めるものは盗んでいずれ倒したいですね(笑)。そういう気持ちで近くで勉強させてもらってます。

 

(了)

 

Yusuke Mori

1993年10月15日生・O型・天秤座

東京出身/韓国在住

2014年JPBF入会

 

◇ 国内プロ3C戦績:

2017年PRO 3-Cushion Tournament GLANZ戦優勝

2019年全日本3C選手権準優勝

2019年JBS MAJESTY CUP優勝

2020年PRO 3-Cushion Tournament GLANZ戦優勝

 

◇ PBA(韓国)戦績:

2023年9月『SY Championship』準優勝

2024年6月『Hana Card Championship』3位

 

使用キューはADAM JAPAN

キューケース・グローブは3seconds

 

4〜5年前(PBA挑戦前)の動画↓

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