『インドアゲームズ』(韓国開催)で
2大会連続となる銀メダルを手にし、
国内メジャータイトルの一つである
『ジャパンオープン』を
ようやく奪取した2013年夏。
「新女王」とも称される河原千尋は、
しかし、
浮かれ気分に浸ることも踊ることもなく、
また淡々と練習を繰り返す日々に戻った。
そんな日常に近い姿を捉えたくて、
河原が好んで食べに出かけるという
大阪の料理店へ。
ビリヤードを肴に語らった夜の一幕を。
写真・文:B.D.
――まずは改めてジャパンオープンのことを。
4度目の決勝戦で初めての優勝でした。
「呪縛が解けたような感じがしました。
決勝戦で3回負けてるので周りからも
『そろそろ優勝が欲しいね』と言われていましたし、
他のオープン戦などはひと通り優勝していますが、
メジャー・タイトル(※国内では『全日本選手権』と
『ジャパンオープン』が該当)をまだ獲ってなかったので、
勝ててホッとしたというか」
――優勝のカギとなった試合は?
「準決勝ですね。ウー・チーティン(台湾の17歳。
2013年北陸オープン覇者)との試合。
彼女に過去2回負けていて今回が3回目の対戦でした。
今回、互いにミスはあったんですが、
私のミスの原因はプレッシャーだという自覚がありました。
プレッシャーで右手が良くない動きをしていると。
だから、『ここを勝ったらファイナルでは
このことに気を付けて撞こう』って思ってました」
――撞きながら自己分析を?
「ええ。実際にファイナルではそこに気を付けてました。
準決勝より自分の状態も良かったです。マスワリもよく出たし」
――今回のジャパンオープン、絶好調だったという訳でもなく?
「特別良くも悪くもなく普段に近かったですよ。
準決勝のあのあまり良くない状態も、十分ありえる範囲なんで。
ただ、大会を通して精神状態は落ち着いてはいましたね」
――河原プロにとって、もうジャパンオープンは
力試しの場ではなく、勝ち負けの場になっていますよね。
「もし本当に自分の100%の力が出せたとしたら、
無理ではないところに見えていますね、
国内のメジャータイトルは」
――では、海外のタイトルは?
「優勝はまだ見えてないですね。8強の壁があります」
――7月の『インドアゲームズ』では銀メダルでしたが?
「あれはアジアということもありますし、
ああいうメダルゲーム
(※いわゆる「オリンピック系の競技大会」)は、
参加人数が少なくてシングルトーナメントなので、
世界選手権などとはだいぶ違います。
世界選手権のような国際大会は、
参加人数も多くて、
途中までダブルイリミネーションかリーグ戦で、
メダルゲームと比べたら倍ぐらいの回数を
勝たないと優勝できない。
今の私は国際大会で3~4回続けて勝つことはあるけど、
8~10回は続けて勝てない。
だから、世界選手権でもベスト16までしか行けない。
そこからさらに勝って行ける力がないんだと思います」
――その自己評価の割には、
メダルゲームでは随分強いように思うのですが……。
これまで4個もメダルを獲得しています。
「強い……ですかねぇ……
なぜかわからないですけど(笑)。
インドアゲームズは過去3回出て、
銅・銀・銀でしたね。
そして、東アジアゲームズで銀があるから
……そう、メダルは全部で4個ですね。
女子選手は大体ナインボールとエイトボールの2種目あるので、
メダル獲得のチャンスは大きいと思います。
別にシングルトーナメントが好きな訳じゃないですけど、
自分が強い人を倒していけば、その1回で
ぐっとメダルに近付くのは間違いない。
例えば、参加選手が16名なら、
初戦(ベスト16)と次(ベスト8)を勝てば、
もうメダル圏内ですし、
敗者復活で強い選手が戻ってくることもない。
だから、逆に、
メダル候補と言われるトップ選手にとっては、
メダルゲームのシングルトーナメントという
フォーマットは、プレッシャーがキツいかもしれないですね」
――ただ、まだ河原プロも金メダルはありません。
「金に届きそうだったのは1回だけですね。
東アジア大会の金佳映(韓国)とのファイナル(2009年)。
あの時が最大のチャンスだったので、
届かなくて悔しい思いをしました。
それ以外は、今回の銀も含めて、
明らかに私が技術不足で相手より劣っていました」
――アジアでのメダルゲームは、
参加選手の顔ぶれはだいたい固定されていますよね?
「はい。韓国・中国・台湾・フィリピンの選手は
だいたい知っていますし、ほとんど撞いたことがあります。
たまにそれ以外の国の人と初対戦することがあるぐらい」
――ちなみに、メダルはちゃんと保管してるんですか?
「はい、ケースに入れて保管しています。
飾ってたらホコリをかぶっちゃうかもしれないから。
メダルは保管しててもそんなに邪魔にならないんですけど、
トロフィーはね……(笑)。
場所取るし、捨てるに捨てられないし。
だから押し入れに置いておくしかない(笑)。
皆さん、どうしてるんでしょう?(笑)」
――練習について聞かせて下さい。
日々同じメニューを?
「はい。超同じメニューです(笑)。
時間は決めてないんですが、
とりあえず1時間くらいは真っ直ぐの球を
やってるんですよね。色んな真っ直ぐを。
それが練習のベースになっていますね。
それが終わったら自分の嫌いなフリ(角度)の球や
試合でミスした配置とかをやります。
私の場合、
色んな種類の真っ直ぐがしっかり決まっていたら
メンタルが落ち着くんですよ」
――逆に言えば、真っ直ぐが外れるようだと
大分弱ってるということですか?
「弱ってますね。めちゃくちゃ気持ち悪い。
目線も景色も気持ち悪くなるし、右手も気持ち悪い。
なにもかもがダメになる感じなんで、そうならないように、
特に試合の前は真っ直ぐ中心にやってますね」
――普段は相撞きもしているんですか?
「しますね。練習場所の『プールステーション』に
来ている方と。プロ・アマ両方です。
プールステーション専属の石田達廣プロも撞いてくれますし、
女子のプロで言うと、久保田知子プロですね」
――毎日、同じような練習でも
モチベーションを保っていられるんですか?
「私の場合、基本的に日々きっちり練習出来てたら、
それだけで翌日以降のモチベーションは保てます。
あとはやっぱり試合が多ければ、
気持ちが上がってくるので練習にも身が入ります」
――以前のインタビューで、14、5歳の頃から、
練習が好きだったと言っていました。
もうそういう日常になっていますよね。
「はい。『寝て起きて練習』という感じです(笑)」
――今の戦績は練習量がもたらしたものなのでしょうか?
「そうですね。
特に女子の世界は練習量がそのまま結果に
現れやすいんじゃないかと思います。
練習の量プラス要領の良さ。それが成績に関わってくる」
――となると、まず練習時間の確保が大事になりますね。
「私は独り身だからここまで練習できてますけど、
ご結婚されたり、お子さんがいたりしたら、
時間も限定されるだろうと思うし。
私はここまで練習できる環境にいるんだから
それを幸せなことと思って、結果に繋げないと。
それは常に思ってます。
特に今はフリー(所属店や勤務店がない)だから、
よりそう思いますね。
やっぱりお店に勤めていると、
自分の好きなタイミングで練習したり、相撞きしたり
ということはなかなかできないので。
フリーでいると、
自分のモチベーションが高い時に練習できるし、
まず一人で練習してから相撞きしよう、とか
順番も内容も好きに決められます」
――フリーになるとダラけちゃう人もいると思いますが、
河原プロはしっかり自分を律していそうですね。
「いや、のんびりする時はしてますよ。
『今日は練習いかーん!』とか(笑)」
――ジャパンオープンに勝った後も
日々変わらず練習をしていると思うのですが、
何を目標にやっているのですか?
「上には上がいますからね。
ジャパンオープンで優勝したくらいで
調子に乗ってられないですよね」
――では、全日本選手権で優勝したら?
「それでも調子には乗れません。
いや……、2~3日だけはいいかな(笑)。
でも、世界選手権を獲ったら調子に乗りましょうかね。
1週間くらいは。
ビリヤードを続ける限り、
私の最大の目標はやっぱりそこですし、
そこに繋がるように練習していきます」
河原千尋プロはこんな人→
2013年ジャパンオープンチャンピオン
ニックネームは「ちぃ」。
1985年1月5日生まれ。
大阪府出身&在住 A型、山羊座。
JPBA(日本プロポケットビリヤード連盟)39期生。
所属・スポンサーは、
MEZZ、斬タップ、GOD DRAGON
使用キュー(EXCEED & MEZZ)
プレー:EXCEED河原千尋モデル「804CK」
※シャフトはWX900、タップは斬S
ブレイク:MEZZ POWER BREAK PB-K DI-PROシャフト
ジャンプ:MEZZ AIR DRIVE AD-K
ケース:MEZZ JPC-35K(3B5S)
※河原千尋プロの
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