日本のトッププロばかり9名の
総当りリーグ戦で争われる、
年末恒例の
『全日本プロスリークッション選手権』。
船木耕司、新井達雄、梅田竜二という
実績上位の3名が
勝ち星を伸ばせずにいる間に、
「大会前からなぜか勝つ気がしていた」
という、
「無冠の点取り屋」田名部徳之が、
変に気負うこともなく、
一定の精神状態でプレーに没頭し、
ぐんぐんトロフィーに近付いて行った。
初優勝の瞬間、脳裏をよぎった言葉は、
「やっと形になったな」だった。
写真/Carom Seminar
取材・文・写真/BD
…………
Tokuyuki Tanabe
1973年12月25日生
1995年JPBF入会
2014年『全日本選手権』準優勝
2014年『全日本プロ3C選手権』優勝
2014年JPBF年間3Cランキング2位
他、入賞多数
『ビリヤード オカダ』所属
――初優勝おめでとうございます。今のお気持ちを。
「いやぁ、ここまで長かったなぁと(笑)。一生優勝できないかもと思ったこともあるけど、そんなことはないんだなって。我慢して続けてたらいいことあるぜって感じですね。それと、やっと形になったなと思いましたね」
――形とは?
「なんだろう、芸術家とか陶芸家の『作品』みたいな、そういう一つの形ができたような。説明が難しいですけどね。ビリヤードを20何年やってきて、この優勝で一つ形になったなって、そんなことをすごく感じたんですよね。成績的に人に見せられるものになったということもあるし、お店(店主を務める『ビリヤード オカダ』)のお客さんがたくさん応援してくれた中で勝てたこともそう。それに、今年5月の全日本選手権の決勝で負けていたということもやっぱり関係していますね」
――これまで準優勝は何回あったんですか?
「4回ぐらいかな。昔の『マスターズ』で3回。それに今年の全日本選手権。3位や4位ならいくらでもあります(笑)」
――5月の全日本選手権の準優勝の直後はどんな気持ちだったのでしょう?
「試合後の3、4日ぐらいまでは『健闘したな、俺』なんて思ってたんですよ。マクって勝てた試合も多かったし、何なら自慢気に思ってた。でもね、10日、20日経ったらだんだん悔しくなってきて。だって、あんなチャンス、そうは無いでしょう? これから先、仮に自分があと20年現役でいたとして、全日本選手権のファイナルを撞けるなんて、もう二度とないかもしれない。だから、後々悔しさがすっごい来ましたね」
――今大会の優勝で少しは借りを返せた?
「うーん、60%ぐらいは(笑)」
――今大会にはどんな気持ちで臨んでいたんですか?
「勝ったから言う訳じゃないけど、なぜか今回、大会前から『勝てる』って思ってたんですよ。お店のお客さんにも、『今回は行っちゃうよ』なんて話してましたね。それと、新井(達雄)プロが以前、『この試合はリーグ戦だし、アベレージ的にも田名部君には大きなチャンスがある試合だよ。ちゃんと出たら良いよ』なんて言って下さいまして、自分は勘違い系プレイヤーなんで、そう言われてすっかりその気になってた訳です(笑)」
――(笑)。試合にフル参戦できてない年もありましたよね。
「そうですね。今年は全部出られたんですが、去年はまばらでしたね。お店のことや自分の気持ちの問題など、色々あって全部は出られてない年があります」
――それでも「いつかは優勝を」と思い続けていた?
「はい、冗談抜きにいつかはチャンスがあるなと思ってました。でも、辛かったですよ。後輩達に先を越されてね。みんなの優勝の打ち上げに何回も出てきましたけど、やっぱり辛かった。全日本選手権を獲った宮下(崇生)プロとか竹島(欧)プロとかね。竹島くんなんて、アマチュアのポケットプレイヤーとして公式戦に出てた頃から知ってるから(笑)。だから、多少焦りはありましたけど、『俺は年間フル出場してないし』なんて、自分に言い訳してましたよね」
――今大会の精神状態はどんなものだったんでしょうか?
「最初から最後までずっと同じ気持でプレーできました。ずっと『チャンスがあるな』と思いながら、でも、変に気負うこともなく。相手に先に当てられようが、自分が先に当てようが、平坦な道を歩いていました。すごく落ち着いていたと思う」
――「優勝、あるかも」と思った瞬間とは?
「2日目の1試合目、船木(耕司)プロに勝った時に思いました。日本のトップの一人ですし、昨年の優勝者でもあるので。船木さんが足踏みしてくれてる間に自分がすっと行けたんで、『あれ、これは……』と。次の試合はグズグズになってましたけどね(笑)。ただ、その頃には低い順位にはならないと思ってたし、精神状態は良かったですね」
――最終節は小野寺健容プロとの優勝決定戦でした。さすがに緊張感があったのでは?
「優勝を意識しての緊張感というか、『当ててやるぞ』という意気込みがありましたね。それまでの7試合で5勝して、数字(アベレージ)的にも悪くはなかったですが、消化不良感があったんです。自分が当てまくって勝った実感がなかったから。だから、最後は『行けー!』って感じで向かって行けた。小野寺プロも攻撃力が高いので、当て合いの試合を挑んで当て負けないようにするぞと思ってました」
――ワンモアを当てた瞬間の気持ちとは?
「意外とさらっとしてましたね。落ち着いていた。ワンモアの球は割といい形で、もう当てるだけで良いのに、僕はポジションも意識してました。『ここからあと10点当ててやる』ぐらいの気持ちだったんで緊張しなかったです。上がった時にまず思ったことは『ほんとに平坦な気持ちで撞けたな』でした。トーナメントならガッツポーズの一つも出たのかもしれないですが、リーグ戦だったので」
――この優勝で、JPBFの年間ランキングも2位まで上がりました(大会前は4位)。
「海外の試合に行けるチャンスが増えると思うので嬉しいです。基本的には行けるものは全て行くつもりです。僕は1999年に世界選手権に行って以来、海外遠征をしてないので楽しみですね」
――わかりました。遂に田名部徳之時代、到来ですね?
「いやいやいや。そんなおっきなことは言えないっすよ。クエッションマーク、4つ付けておいて下さい。『到来????』でお願いします(笑)」