プロ入り以来未勝利。
勝つことが正義の
競争の場に身を置きながら、
優勝という実績のない
JPBAプロ・香川貴俊は
強烈な危機感を覚えている。
日本、そして海外での一勝を
早く手にするため、
今香川はより厳しく、
とことんまで自分を追い込んでいる。
その鍛錬の一環として、
「チャンピオン狩り」と題して
行なっている出稽古がある。
国内トップクラスのプロ達と
撞く中で見えてきたものとは?
そして、香川の確固たる意志とは?
写真・文:B.D.
※B.D.ブログでの関連エントリはコチラ
――先日、大阪で偶然にも2日連続で香川プロの出稽古を目撃しました。これは話を聞きたいなと。
自分みたいな小兵の話で良ければ喜んで(笑)。
――この出稽古を始めたきっかけは?
直接的なきっかけは(2013年)7月の『ジャパンオープン』で不甲斐ない負け方をしたからです。
――それはどんな?
大会直前までは感触が良かったんですが、いざフタを開けてみたら、初日・2日目ともヒドい内容で……。もろに弱い自分が出て、相手ではなく自分と戦っている感じでした。自分と向き合いすぎて酸欠っぽくなり、球が撞けなくなったほどで。そして、2日目に大敗をして終了です。
――そんな自分に腹を立てて?
それもありますし、会場にいたL・V・コルテッザ(フィリピン)の試合を見たら、やっぱり上手いし強いんです。その試合では対戦相手にワンチャンス……いや、半チャンスしか与えてなかった。改めて「世界トップクラスのビリヤードはこういうものだった」と思い出したんです。
――ええ。
一方で、自分が撞いてきた環境を思い出すと、語弊もありますが、「球を外しても勝ててしまうことがある環境」なんです。はっきり言えばそれはぬるま湯だろうと。そこに浸ってるから勝てないんです。その甘えを捨てないといけない。だったら、こっちが1回でもミスったら負かせてくれる人と撞こうと。
――それで、国内の「プロ公式戦優勝経験者」、すなわちチャンピオンと撞く修行を。
はい。「チャンピオン狩り」なんて名前にしています(笑)。高橋邦彦プロ(世界チャンピオン)から始めさせて頂きました。
――この3週間でもう実際に何人にも挑んでいますが、どうですか?
色々なことに気付き、間違いなく自分にプラスになりましたね。むしろ「気付くのが遅いだろ」と思いました。彼らは僕が今気付いたようなことにもっと早くに気付いて色々と磨いてきたから強い訳で。
――何人と撞きましたか? そして戦績は?
現時点(8月上旬)で8人で、トータルで僕の9勝26敗です。
――その数字については?
僕の現状の力量通りでしょう。
――どんなフォーマットで撞いているんですか?
9月の『ナインボール世界選手権』(カタール)のステージ1のフォーマットと同じ、ナインボール・7ゲーム先取・交互ブレイクです。これが基本で、時間の都合で多少のアレンジもありました。
――戦ってみて、チャンピオン達と自分は何が違っていると感じましたか?
大きな意味での「ゆとり」のあるなしですね。彼らはやはり撞いてる時にゆとりがあって、それは雰囲気にも現れています。一方で自分はゆとりがなくなり、視野が狭くなることがある。
――まず、精神面で違いがあると。
はい。一番最近撞いた大井プロは象徴的でした。彼は自分のスタイルがとにかくぶれない。どんなに渋い台でも、元々攻めている球なら攻めます。彼はそれを海外の試合でも貫いている。自分もそういった「曲げないスタイル」は持ってるつもりでしたが、まだまだ「つもり」でした。
――少し揺さぶられたら揺らいでしまうような?
そうです。つまり、腹がくくれてないんです、僕は。だから、迷いが出るし、そうなると次の瞬間、球は入らなくなる。
――技術的には?
「彼らが僕にできないことをやっている訳ではない」とは思いました。ただ、羅立文プロは何と言うか、的球の走り方が違っていましたね。
――相手の球もよく見ていたんですか?
はい。普段、僕は試合では相手の球は見ませんが、今回はより強いプレッシャーを感じたくて見ていました。
――ああ、「相手が上手い、強い、回ってこない」ことを認識して撞くのがテーマですしね。
そうです。でも、見続けていると、失礼な言い方かもしれないですが、そんなに上手くないところも見えてきました。「そこまでずっとヤバイ訳じゃなかった」というか。そう思えたのは、僕の「ゆとり」も少しは大きくなってきた証拠なのかもしれません。つまり、成長しているのかなと。
――香川プロが勝つ時はどんな状態になっていたんですか。
自分のやりたいことが迷いなくやれている状態ですね。取り切り方は汚くても、テンポ良く落ち着いて取り切れている。そういう時は勝てるんだなと。それを認識できたことは良かったです。僕の根底にある考えとして、ナインボールやテンボールは下手でも優勝はできると思っているんです。だから、まず取り切れる状態に入ることが大事ですね。
――修行の場所は?
相手の所属店です。そもそも、今、自分はホームグラウンドを持っていません。ホームがあれば、台にも慣れるし、居心地も良いでしょう。しかし、試合が居心地良いはずがないでしょう? だから、わざとホームを持っていません。
――徹底していますね。
ええ、プレッシャーが掛かる条件が良いんです。
――大井プロと撞いた時のテーブル、あれがまた渋そうでしたね。
いやぁ、大変でした(笑)。まあ拾ってくれない穴で。でも、そういうことを気にせず自分のリズムで撞けている時は入ってました。外れる時って結局どこかで外れると思って撞いてるんですよ。その点、大井プロは常にしっかり撞いて入れて出してきますからね。やはり高いレベルで腹がくくれています。
――ちなみに、相手をして下さったプロ達は香川プロのこの試みをどう見ているのでしょう?
ありがたいことに、皆さん快く協力してくださいました。撞き終わってからも色々と話をして下さいますし。少なくとも、「香川はやる気だけはあるらしい」と思って下さっていると思います。
――この修行は世界選手権のためにやっているんですか?
関係あるようなないような。世界選手権を控えていることがモチベーションの向上に繋がっているのは確かですが、それに関係なくこの先もずっとやっていきたいですね、これは。
――普通なかなかできることじゃありません。
色々な面でハードなのは確かですが、こうやって僕が日本のトップ達と撞いているのは、自分が「そこ」に行くことになっているからなんです。そこに行けたら、その後は海外の強い人と撞きたいです。例えばフィリピンに行って。
――本気ですね。
はい。ただ、さすがに海外で武者修行となると、時間やお金など様々なものを揃えないと実現できません。自分が務めているスクールや、生徒さんに迷惑は掛けられないですし……。
――香川プロのブログを以前から読んでいましたが、トーナメントプロとして強烈な危機感と焦燥感をあらわにしている日記が多いですね。一言で言えば、熱い。
ええ。もうプロ入り6年目の33歳ですから。焦ってはいないんですけど、正直危機感は強いですね。自分のビリヤードノートには「今年(2013年)必ず国内で初優勝する」と書いてあります。こうしている今も常に「このままじゃいかんな」と思っています。35歳までの2年間、やれること全部やるしかないです。
――35歳での目標とは?
優勝です。
――えっと、それは日本で?
いや、世界でです。日本は今年中です。
――(言葉を呑む)。
こう言った時の周りの反応もわかってますし、いかにこの目標が大変かもわかっています。でも、自分が決めたことをやるだけ。僕には頑張る以外の選択肢がないですからね(笑)。
――言葉通りに書きます。
ええ、大丈夫です。それでまた自分にプレッシャーが掛かりますし、記事にしてもらえたら励みにもなるのでありがたいです。何だって中途半端にやるのが良くないでしょう。全力で行きます。
香川貴俊さんはこんな人→
1980年4月8日生
東京都出身&在住・A型・牡羊座
JPBA42期生
所属、スポンサーは、
ARITAビリヤードスクール(講師)、キャニスキュー
ビリヤード歴は13年
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